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朝、自分の教室に向かう前にある場所に寄った。
スライド式の扉の前に立って、すう、と息を吸う。
開かれたままの扉をくぐると、出入口付近に座っていた男子が不思議そうに僕を見上げた。僕はこのクラスの人間じゃないから、何故ここにいるのか気になってしまったのだろう。
一番奥の列の、後ろから二番目に座っている彼を見る。僕には気づかずに、クラスの友人二人と談笑していた。品がなさそうな顔をしている方の友人が、空の紙パックを音を立てながら吸っている。行儀が悪い。
ちなみに一つ後ろにある涼宮さんの席は空いたままだ。机の隣に鞄がかけられているから、今はどこかへ出かけていのだろう。
「おはようございます」
声をかけると、驚いたように見上げられた。当然だ、だって僕は今までこの教室に訪れた事すら無いのだから。
ぽかんとした顔で僕を見つめる彼に笑顔を向けて、言ってやった。
「今日も、可愛いですね。愛してます」
彼の友人の片方が飲んでいた紙パックが、ぽんっと軽い音を立てて破裂した。




そのまま固まってしまった三人を置いて、僕は5組の教室を後にした。
少しだけ顔が熱い。大勢人のいる教室の中で、あんなことを言ってしまったのが少しだけ恥ずかしい。

昨日、あれから自分なりに色々と考えてみた。どうしたら彼に仕返しができるのか。でも、仕返しとは言っても、別に彼に酷い事をしたい訳じゃない。
ただ、僕の彼への気持ちをいい加減なものとして捉えて、軽い気持ちで受け流しているあの態度が許せなかった。僕は本気なんだ。冗談で同性に恋なんてできない。
涼宮さんの事もあって、思いつめて悩んだ回数も両手で数えきれない程だ。その度に彼への気持ちの深さを自覚して、さらに恋情を募らせるばかりだった。
そんな僕の好意を、彼はまともに受け止めないどころか、軽く流した上に弄んだ。しかもその理由が「萌えない」。これはもう刺されても文句は言えませんよ。
たぶん彼は、自分自身がここまで真剣に、同性である僕に想われているという自覚を全く感じていないんだろう。だからあそこまで酷い事ができるんだ。
そこまで考えて、一つの結論に至った。
分からないなら、分からせてやればいい。
どうせもう当たって砕けた後だ。何をしようとも痛くも痒くも無い。好きにやってしまえ、と。

昼前に、もう一度彼と廊下ですれ違った。
丁度これから校庭で体育の授業らしく、体操着を着ている。
彼は、僕を見ると今朝の出来事を思い出したのか、あからさまに眉を寄せた。
「こんにちは。体操着姿も愛らしいですね」
もう周りの人間に聞こえようが構わない。後から言い訳しようと思えば、どうとでも説明はできるし。
石化した彼の隣を、校庭へ移動しようとしている5組の生徒が何人か通り過ぎていく。
朝の一件と合わせて、そろそろクラス内で変な噂がたてられていもおかしくはない。平穏を望む彼にとって、他クラスの生徒との同性愛疑惑なんて苦痛以外のなんでもないだろう。クラスメートに囲まれているだけで、針の筵に入れられたような気分に違いない。
教室の隅で、小さく身を縮める彼の姿を思い描く。
僕の想いの深さを思い知るといい。










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