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42日目
何だか彼の機嫌が良くない。…とは言っても、僕と一緒にいる時は常に機嫌が良いとは言えないのだが。
近寄ったらその分後ずさりされ、触れようとしたら手を叩かれてしまった。今さら僕に逆らうつもりなのか。
こうなってしまった事に、心当たりが無いわけではない。先日行為中を生徒会長に見られてしまったのが帯を引いているのだろう。
僕だって狙って見せた訳じゃないし、そんなに気にしないでも会長なら口が堅いから、他人に洩らす事も無いと断言できる。だったら別にいいじゃないか。
そう言っても、彼は頑なな態度を変えるつもりは無いらしい。生意気だ。
そちらがそのつもりなら僕にだって考えがある。
手酷く苛めてやろうかとも思ったのだが、たまには僕の方から身を引いてみるのもいいかもしれない。
だって、彼の身体はもう僕が構ってあげないと、三日と持たないだろう。
あっちが根を上げて僕に擦り寄ってくるまで無視を決め込むことにした。




43日目
彼の教室には近寄らないようにする。休憩時間がなんとなく落ちつかない。
移動教室もあのクラスを避けて、遠回りに移動する。なんでわざわざこんな面倒なことをしているんだろうか。
放課後、部室に行っても視界に入れないようにする。とは言っても、今日は休ませてもらおうと思って、涼宮さんに伝言を伝える為に部室に赴いた。彼の姿を見たくなくて、足元ばかり見ていたら「頭がおかしくなったの?古泉くん」と聞かれた。…頭と首を言い間違えたんですよね?
帰路に付きながら、むしろこれは逆に意識してるみたいじゃないか、なんて少しだけ考えてしまった。





44日目
気にしてなんかいない。
気にしてなんかいない。
何をって?知りませんよそんなの。
しかしいざ以前の生活に戻ってみると、いまいち落ち着かないものだ。
だけどむこうの方が僕より追い詰められているに違いない。だってこの二日間一言も交わしていないんだ。そろそろ僕に構って欲しくてしょうがなくて、身体を持て余している事だろう。
そんな事を考えながら廊下を歩いていたら、彼の声が聞こえてきた。その方向に視線を移してみると、誰かと会話をしているらしい姿が遠目に確認できる。
あれは、生徒会長…か?少し不機嫌そうな表情の会長に対し、彼は下を向いて、恥じらうようにちらと会長を見上げながら、何やら言葉を交わしている。
あんな顔、初めて見た。
何をしているのか気にはなったが、これ以上ここにはいたくなくて、その場から離れた。
二日放っておいただけで他の男に走るとは。そこまで貞操の無い人間だとは思っていなかった。
別に彼は僕じゃなくてもいい訳だ。逆に、僕だって彼ではないといけない理由なんて無い。
改めて考えるまでも無い、当然の事だ。
当たり前の事柄なのに、こんなにも気分が悪いのは何でだろう。





45日目
放課後、別れ際に彼の腕を掴んだ。涼宮さん達が不思議そうな顔をしていたので「今日は彼に勉強を教えてあげるんです」と説明したら、納得してくれた。彼は驚いたように呆然として、口をぱくぱくと動かし何かを言おうとしている。だがそれは声にはならず、彼女達には伝わらない。
家の玄関を開けて、中に彼を放り込んだ。床に倒れ込みながらも片腕を庇っている姿を見ると、掴まれた箇所が痛むのだろう。
「昨日はどうでしたか?会長と、楽しかったですか?」顔を上げて僕を見る。「僕を放って一人で楽しむだなんて、酷い人ですね」「は?意味が、分からなぁ…っ」フローリングの床に転がったままの身体に伸し掛かって、右腕を背中へと捻った。
「あなたは、僕のものなんです。勝手な事はしないで下さい」ぐ、と背中に体重をかけて、さらに強く力を入れてやれば途切れた呻き声が洩れる。「痛いですか?」聞いてみると、何度も頭を縦に振った。「だったら、今から自分は僕のものだと、ご自身で言ってみてください」そうしたら、離してあげますよ。
そう言い終わると、膝を彼の背中に当てて、少しずつ体重をかけて食い込ませた。彼は頭を俯かせて、痛みに身体を震わせる。
ほら、さっさと言って楽になってしまえ。あなたは大人しく僕に従っていればいいんだ。
押し付けた膝をぐり、と動かしてみれば、息を吸うような悲鳴が聞こえてきた。その後に、掠れた声でぼそぼそと何かを呟いている。よく聞こえない。中途半端な声で喋らないで下さいよ。苛々しますから。不機嫌を現わに言葉にすると、焦るように声を張り上げだした。
俺は、古泉のっ……やはり聞き取りづらい。だけど、必死に喋ろうとする彼を見て、少しだけ満足した。まぁ、いいだろう。
腕を離してあげたら、ぐったりと床に身体を預けた。はあはあと息を整えながら、目を伏せる。
ぼそりと小さく唇が動いた。なにを言ったのか分からない。気になったので、首もとを押さえながら何ですかと聞いてみると、息苦しそうに顔を歪ませながら、口を開く。「い…、意味、分かんねえよ…お前」そうはっきりと聞こえてきたのだが、その言葉は僕には全く理解できなかった。意味が分からない、だって。僕が?なんで。「お前は、俺の事が嫌いなんだろ」僕から視線を外して、そう吐き捨てる。「そのくせ、気紛れに優しくしてみたり……いきなりあからさまに避け出したと思ったら、今度は俺は自分のものだと?一体何がしたいんだよ」涙の溜まった瞳で見上げられると、心臓をぎゅっと握られたかのように、胸が苦しくなった。「お前は、俺をどうしたいんだ」逃げる事が許されないような、真直ぐな視線に射抜かれる。
僕が、彼をどうしたいか?何でそんな事を今さら聞こうとするのか。
彼は僕の暇つぶしや憂さ晴らしに丁度良いから。気に入らないから。
僕は彼のどこが気に入らなかったんだったか。それに、彼は僕の憂さ晴らしに丁度良い?そんな事は無い。彼は大切な鍵だから、僕のこの行為が神に気付かれでもしたら、大変な事になってしまう。
じゃあ、何で僕はこんな事をしているのだろうか。危険を犯してまで、何故。
……僕は。










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