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帰り道、薄暗い道路を歩きながら、自分の鞄を抱きしめた。
彼に、嫌われてしまったのだろうか。
僕は、僕なりに頑張ったつもりだった。しかし、何もかもが不発に終わってしまった。
彼も一生懸命協力してくれようとしていたのに。…いや、一生懸命では無かったな。
それでも、彼が僕のために、僕の恋路のために力を貸してくれたんだ。それに、僕は何も答えてあげる事ができなかった。
…見限られて、しまったのか。
鼻の頭がツンとしてきた。泣いてしまいそうだ。
でも、こんな路上で泣き出すわけにはいかないので、なんとか唇を噛み締めて耐える。
これからどうしようか。明日、彼に会うのも心苦しい。
謝ったら許してくれるだろうか。



自宅に着いて、正座しながら目の前に携帯電話を置いてみる。
電話をかけたら出てくれるだろうか。いや、今の時間は食事中かもしれない。もう少し後にしようか。もう少し後に電話をかけて、彼がもう寝てしまっていたらどうしよう。もしかしたら早寝早起きを信条としている人かもしれない。
彼がそんな規則正しい人間だとは聞いた事も無いのだが、暗い気分の時はいらない事まで考えてしまう。
しばらくそうやって悩んでいたのだが、いつまでもうだうだと考えていても仕方ない。大切なのは行動に移すことだ。
そう思い、携帯電話を手に取って喋る言葉も考えずにメモリから彼のアドレスを呼び出して、通話ボタンを押した。
「……」
耳元で呼び出し音が鳴る。お願いだから、出てください…!
そんな僕の切実な願いが通じたのか、5回ほどコールをしてから彼が電話に出た。
「……なんだよ」
すごく、不機嫌そうです。
ああ、やっぱり僕の不甲斐なさに呆れ果ててしまっているんだ。早く、謝らなければ。
「ごめんなさい!今日はあなたが一生懸命提案してくれたって言うのに、僕は……」
「別に謝らんでもいい。一生懸命提案なんてしてねぇし」
そうですけどね。
改めて彼にそう言われると、もしかして僕って遊ばれてた?と思ってしまう。
「ですが、あなたの期待にも答えられませんでしたし」
「…つうか、別にお前最初からあまりやる気無かっただろう」
彼の指摘に、どきりとなる。
言われて見れば確かに正直な所、本心では乗り気ではなかった。
だって僕の想い人はあくまで彼であって、部長氏は建前でしかない。そんな相手に本気で迫るなんて出来ない。
もう、全てを話してしまった方がいいのかもしれない。
本当はあなたが好きなんだと。
「あの…少し、僕のお話を聞いていただけますか」
「なんだ?」
「僕の好きな人は部長氏ではありません。…あなたなんです」
「ああ。…で?」
で。
で?
予想外の反応に思わず呆然となる。
いや、ここまでスルーですか。あなたどれだけスルースキルが高いんですか。
「もっと驚いてくれてもいいんじゃないですか?」
「だって、前にも言ってただろ。何を今更」
何を今更。
頭の中で彼の発言が反復される。
もしかして知っていた?それであえてあの行動?
いや、落ち着け。落ち着いて考えるんだ。素数を数えて心を落ち着かせねば…。
「何を今更、とは、あなたは僕の想い人を知っていて、部長氏を襲うように仕向けたので?」
心を落ち着かせて、言葉を選んで発言をする。
「ああ」
認めましたよこの人。
声を張り上げて全力で突っ込みたい衝動を抑える。
まだだ。まだ彼に聞きたい事がある。会話を続けないと。
「なんで、です?」
「………」
しばしの沈黙。
あちらも僕の雰囲気を感じ取ってしまったのかもしれない。
ちゃんとした理由があれば、一連の行動を彼に咎める気は無い。惚れた弱みと言うやつだ。
彼が僕にした事だって、できるだけ理解した上で許してあげたいと思う。
思って、いた。
「だって、自分が対象じゃ萌えない」
そんな、理由で。
身体の力が抜けてしまい、携帯電話が床に落ちる。
まだ彼と回線が繋がっているのだが、もうそんなものはどうでもよかった。
正座したまま、前のめりに身体を倒した。こつん、と額が床にぶつかる。
つまり、僕は遊ばれていたわけですね。
彼は僕が自分に好意を寄せているのを理解した上で、その気持ちに付け込んであんな事をさせた、と。
これぞ、小悪魔じゃないですか。ひ、人の気持ちを弄んで…!むしろ小悪魔を通り越して悪魔です。デビルですよ。
前のめりに身体を丸めたまま、さめざめと涙を流す。
悔しいのと、悲しいのと…なんとも言えない感情が混ざり合う。
しばらく冷たい床に額を当てていたら、自然と頭が冷えてきた。熱が冷めていくにつれて、冷静さを取り戻してくる。
もちろん、弄ばれた恨みは消えていない。
あちらがあんな対応をするならば、僕にだって出方がある。















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