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しかし。
「…あっ!?」
悪夢再び、とでも言うべきか。一歩踏み出した僕のつま先は、見事に椅子の足に引っかかった。
そしてまたしても体勢を崩し…。
「がっ…!!」
パソコンの置かれた机へと、突っ込んだ。
机へ突っ込んだと言えど、正面衝突した訳ではないので、幸いにも机が倒れる事は無かった。
ただ、身体の端が机の角を引っ掛けた程度である。…その程度、なのだが。
「〜〜っ…!!」
僕は床に倒れてのた打ち回った。たまたま机の角に負傷している脇腹をやられてしまったのだ。不運にも程がある。
部長氏が未知の生命体でも見るような目で僕を見下ろしている。そりゃそうだ。突然部室に入ってきたと思ったら床で悶えだして、平常心でいられる方が珍しい。
しかし今は部長氏を気にしていられる立場ではない。痛くて痛くて、脇腹を押さえたまま身体をくねらせる。その姿は真夏のアスファルトの上で悶えるミミズのようだろう。
ごめんなさい、失敗してしまいました。
心の中で彼に謝る。僕と部長氏の絡みが見たいと言う、この程度の望みすら叶えてあげられない自分自身が情けなくて仕方ない。こんな調子では彼は喜んでくれないだろう。
呆れられてしまったんじゃないかと心配になり、横たわったまま部室の扉の方へ視線を向けてみた。
少しだけ開かれた扉の隙間の向こうには、誰もいない。
…………あれ?帰った?
まさか、不甲斐ない僕の姿に呆れて、先に帰宅?え、えええ?
信じたくなかったが、何度瞬きをして見直しても、彼の姿なんて無い。
「……ひ、どい…です」
全身の力が抜けて、意識が遠のいていく。
ぼやける視界の中で、部長氏が僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。





「……はっ」
目覚めると、目の前には見慣れぬ天井があった。
思わず起き上がる。が、脇腹に痛みが走った。
「っい、つー…」
呻きながら、痛んだ箇所を押さえる。すると、先程まで無かった感触があった。制服の白いシャツを捲って見てみると、白いシップが貼られている。どうしたんだろう、これは。
よく見たら、僕は白いベッドに寝かされていた。ここは学校の保健室じゃないか。
「あ、だ…大丈夫かい?」
上から、控えめな声が聞こえてきた。そちらに視線を向けてみると、ベッドの周りにあるカーテンを握って、少し気まずそうに僕を見る部長氏の姿がある。
もしかして、彼が?
「驚いたよ。いきなり入ってきて悪魔がどうとか言い出したと思ったら、そのまま倒れちゃうし」
それでさらに意識を失ってしまった僕を、わざわざこんな所まで連れてきて、打ち身の手当てまでしてくれた訳か。
完全に意識を失った人間を運ぶのは、かなり大変だっただろうに。しかも、自分より背の高い人間なら尚更。
「すいません……」
「いや、謝らなくてもいいよ。どうせあとは帰るだけだったからさ」
何でも無いように、手を振って笑う。部長氏は本当に良い人だ。倒れた僕を放って先にいなくなってしまったどこかの誰かとは大違い…
「……あっ!あの、彼は?」
「ん、彼?他には誰とも会わなかったけど。もう遅いし、先に帰っちゃったんじゃないかな」
「……そう、ですか」
仕方が無い事だ。僕は、彼の期待を裏切ってしまったのだから。
きっとこんな使えない僕なんかに愛想を尽かせてしまったに違いない。
「ありがとう、ございました……」
部長氏にお礼を言ってから、ベットを降りる。
「一人で帰れるかい?家の人に連絡とか入れなくても」
「平気です。ご心配には及びません……」
もう一度ありがとうございました、と礼を言ってから、僕は保健室から出た。
電気が消され、窓から差し込む夕日の明かりが廊下を照らす。
何故だか、とても心細い。











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