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そのまま徐々に下へと下ろす。
着ているスウェットが縦に破かれる。ぷちぷちと一本一本が微かな音を立てて、繊維が千切れていく。まるで、直接身体を裂かれているような気分だった。
少しでも距離を取ろうと、背後にある壁に背を押し付ける。
「……ふっ」
そんな俺の姿を嘲笑うかのように、目の前の男の口元が歪む。
悔しさに、唇を噛み締める。こんな壁際に追い込まれ、何の抵抗も出来ないなんて。
刃が最後まで下ろされ、俺の体を包んでいたはずの衣服の前が開かれる。そこから流れ込んでくる空気が腹部を掠め、その冷たい感覚に身震いした。
そんな惨めな俺の姿をさも愉快そうに眺める。俺なんかを苛めて何が楽しいのか。
刃物の先端部分で、切断した布を引っ掛けて、手前に捲る。
「あなたって、意外と綺麗な肌してますよね。色が白いと言う訳ではありませんが」
何も持っていない左手が中へ差し込まれ、腹から背中にかけて撫でられた。敏感な箇所をくすぐられ、背に鳥肌が立つ。
「……たまに、綺麗な物って自分の手で壊してしまいたくなりません?ほら、道端に綺麗な新雪があったら、踏み荒らしたくなるでしょう。それと同じです」
こんな状況でなければ、理解できない思考ではない。だけど、何で今そんな事を言い出すのか。
考えたくもない。
目の前で、凶器が握られた右手が高く振り上げられた。リビングの電灯に煽られ、空中で鈍く光る。
面前にある顔が嗤った。光る切っ先が俺の方を向いて、思わずきつく目を閉じる。
「…っ!!」
どすん、とまた大きな音が耳に届く。
身体に痛みは無い。怖々と瞼を開いてみたら、俺の左足のすぐ隣に深々と包丁が突き刺さっていた。それを確認した途端、じわりと全身から汗が滲む。目尻から涙も溢れてきた。
「ふふ、刺されると思いました?」
耳元で囁かれる。もう起こり得るすべてが不可解すぎて、思考が止まる。頭の中が真っ白になって、先程まで感じていた悔しいなんて感情すら消え去った。
身体の奥から沸き立つ脅威に、身震いをする。視界に写る光景から逃避したくて、自分の置かれた状況が信じられなくて、顔を覆い隠したい衝動に駆られたが、後ろで一纏めにされてしまっているため、それも叶わない。
俯いて、身体を丸めた。目から流れ出る雫が、床に落ちる。
「顔、下げないで下さい」
顎を掴まれて、力ずくに上を向かされる。吐息さえ感じてしまいそうな距離に、あいつの顔があった。
瞬く間に噛み付くように唇を塞がれる。顎を掴んだ手で、強引に口を開かされ、口内までも蹂躙された。
「……ん…くっ」
粘膜を刺激されて、身体の力が抜けていく。唾液が溢れて、飲み込む事もできずに、無理に開かされた口の端から垂れる。
段々と意識が朦朧としてきた所で、舌を引き抜かれたと思ったら、上唇に噛み付かれた。
「っ……」
微かな錆の味が、口の中に広がる。
何の色も映していない笑顔に、切れた上唇を舐められた。
「不味い、ですね」
こんなもの、美味い訳が無い。











あきゅろす。
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