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「………っ」
床に爪を立てていた腕を取られ、背後へ捻られる。間接を無理に曲げられる痛みに、呻きが漏れそうになったが、唇を噛みしめてなんとか耐えた。
後ろで一纏めにされた腕が、細い糸のようなもので結ばれる。きつく何重にも巻かれた糸は、容赦無く肌に食い込んだ。最後に糸の端を力強く引かれる。細い糸と肌が擦れ合い、引き攣るような痛みを感じた。ぶちりとなにかが引き千切られるような音がして、何かが床に落とされて転がる。透明のビニール紐の束だ。これを、使ったんだろうか。なんて他人事のように考える。
壁際まで転がっていく丸いビニール紐の束をぼんやりと見ていたら、脇に手を差し込まれた。そのまま強制的に座らされる。
棚へと寄りかからされ、顎を掴まれて顔を上向きにされた。数時間ぶりに見えたあいつの顔は、酒の影響か少しばかり赤みを帯びているものの、何の感情も移していない。
こんな顔、初めて見る。
「どんな気分ですか?」
何故、そんな事を聞かれるのか分からない。
答える事も出来なくて、視線を下へ逸らそうとした。だけど、顔を掴まれてそれも叶わない。
「こんな状況でも僕を無視しようとするなんて、いい度胸ですね。あなたの態度にはほとほとうんざりします」
俺の顔を掴んでいた手を離し、もう片手を目の前に持っていく。そこには、銀色に光る刃が握られている。それを、ぴたりと頬に添えられた。恐怖に皮膚が粟立つ。
「あなたは重度の照れ屋さんだから、それも良いかと思ってたんですけど…」
触れるか触れないかの距離で、肌を伝うように刃を移動させる。頬から下へ移動し、顎から首筋へと。
視線を逸らす事も、動く事も出来ない。
「それでも、やっぱりあなたに冷たくされちゃったら、僕だって傷つくんですよ。わかります?いや、わからないから冷たくできるんですよね。僕の気も知らずに」
お前だって、俺の気持ちなんて全く分かってない癖に。
言い返したくても、この状況じゃ何も出来ない。
「ほら、今までずっと自分より下だと思っていた僕に、ここまでされてどんな気分何です?答えてくださいよ」
答えようにも、唇が動かなくて、声が出ない。
肌を伝う刃は、首筋からさらに下へと移動して、俺の鎖骨をなぞった。先端を擦るように触れられ、その細やかな刺激によってそこだけ肌が過敏になる。
「耳がすごい震えてますね。怖いんですか?僕が」
こんな状況に追い込まれて、恐怖を感じない奴がいるなら会ってみたい。
空いている方の手で、耳に触れられる。包むように握りこまれたと思ったら、強く爪を立てられた。
「…ぃっ…!」
「痛いです?ここもちゃんと神経が通っているんですね」
血が通ってるんだから神経だって通ってるし、感覚もちゃんとある。当たり前だ。
耳の内側に食い込ませた爪を、さらに押し込める。段々と痛みが増してきた。怖くてどうすればいいのか分からなくて、自然と涙が流れる。
「泣いて同情を引こうとしても、無駄ですよ。むしろ目障りです」
耳を掴んでいた手が離れた。痛みから解放されても、肌に当てられた冷たい感触が、俺を慄然とさせる。
鎖骨をなぞっていた刃物が、俺の服の襟を引っ掛けた。









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