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「何やってんだよ……」
そのままぐったりと体重を預けてくる。重たい。
……どうしよう。
玄関先で、のし掛かられたまま微動だにできないこの状況。俺にもう少し力があれば、担いで寝室なり連れて行けたのに。
「……」
こんなに飲んじまったのも……俺があんな事を言ったから、か?やはりまだ怒っているんだろうか。
「うっ」
突然、突き飛ばされた。
そして口元を押さえて、リビングへ走り出す。俺も急いで追いかけてみれば、台所の流しへ顔を突っ込んでいた。
一体どれくらい飲んだんだよ。酒には弱くはないとは思うが、今まであまり飲んだ事無いのに、何を無理してんだ。
それだけ、自暴自棄になっちまったって事か?……俺のせいで。
嗚咽を漏らしながら、水を流して口を濯いでいる奴の背中に近付く。
一緒にいるのも気まずいのだけど、やはり心配だから。背中でも擦ってやったら、こいつも少しは楽になるかもしれない。
「……だ、だいじょ…」
何と言うべきか悩んで、とりあえず安否を気遣う言葉をかけながら背を撫でようとしたら、その伸ばした腕を掴まれた。遠慮の無い力で握られ、圧迫された腕が痛む。
「いっ……っ!?」
痛い、と思った瞬間、洗面台から顔を上げて、俺の頭……後頭部を掴んできた。何をされているのか、状況が全く理解できなくて、思考回路が付いていかない。そして派手な音を立てて、フローリングの床に押し倒された。いや、押し倒されたと言うより、押し付けられた。頭を掴んだ手で、俺の頭部を床へ縫い付ける。叩き付けられた額がじわりと痛んだ。
「何すんだよっ……!」
押さえ付けられながらも、何とか抗議の声を上げる。
「何って……何でしょうね」
喋る声には、恐ろしい程なんの感情もこもっていなかった。この体勢では相手の顔すら見えないため、どんな表情でそんな事を言っているのかも分からない。
これも、今日の俺の行動に怒ってのものなのか?それならば、どんな事をされても俺はそれを受け入れないといけない。それでこいつの気が済むのなら、許してもらえるのなら安いもんだ。
背後からかちゃりと何か金属が触れ合うような音がした。流しの下の戸棚を開いている?
あそこには何が入っていたっけ。あまり台所には立たないから、よく覚えていないが……たしか。
包丁が、そう思い立った時、何かがすごい勢いで、俺の顔のすぐ横に突き立てられた。木製の床に深々と突き刺さる。
綺麗に磨かれた刃の部分は怯える俺の顔を映し、白く鈍い光を放った。
「……っ」
息を飲んだ。
何をしようとしてるのか、わからない。怖い。痛いのは嫌だ……!
暴れて抵抗しようかと考えたが、また後ろから嫌な音が聞こえてきて、思い止どまる。刃物同士を擦り合わせるような耳障りな音が、深夜の静まり返った空気を震えさせる。
あの流しの棚には何本の包丁が入っていたか。三本ぐらい、あったような。
後ろでまた、床に何かが突き刺さるような音がした。身体に緊張が走る。











あきゅろす。
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