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考えてみれば絶好のシチュエーションだ。
彼と二人きりの空間。すぐ傍にはベッド。
さらに現在部屋の中央には彼が他の人間には見られたくないだろう雑誌が並べられている。これがあるから、たとえ僕に何かされようとも家族に助けを求める確立は低いと考えられる。
むしろ襲ってくれと言っているようなものじゃないか。彼もそのために僕をこの部屋に呼んだに違いない。
そうか。これは彼なりの精一杯のお誘いなんですね。僕としたことがすぐに気付いてあげられないだなんて。申し訳ない。
彼は段ボール箱の中に入っていた本を何冊か取り出して、読み始めている。僕がすぐ気付いてあげられなかったから、身体を持て余してしまっているんだろう。
ごめんなさい。今すぐお相手して差し上げますから……!
僕はすぐに立ち上がり、ベッドを背にして読書に勤しむ彼を後ろに押し倒してやろうと、一歩近付いた。
「……っ!?」
しかし、何かが足に引っ掛かった。あれだ、彼の引っ張り出してきた段ボール箱。見事に出鼻を挫かれた僕は、そのままバランスを崩してしまった。身体が斜めに傾く。そして僕の身体は、今だ漫画に夢中な彼へと向かって……駄目だ、このままでは彼を押し潰してしまう!!
愛の力の成せる業とでも言うべきか。僕は倒れ込む途中で、無理矢理に体勢を変えた。
これで、彼が痛い思いをしないで済む……と安心したのも束の間。
「……がっはあ!?」
無理に彼を避けた僕の身体は、ベッドサイドへ激突した。
硬い木材が僕の脇腹に食い込む。一瞬だが、呼吸が止まった。
そのままころりと転がってベッドの中へとなだれ込んだ僕に、どことなく冷めた視線が降りかかる。
「……何一人で遊んでるんだ、お前は」
遊んでなんていません。
そう否定したかったのだが、脇腹を襲うあまりの激痛に、声が出なかった。



彼の部屋で受けた男の勲章とも言いがたい傷は、次の日には見事な青痣へと成長を遂げた。ついでに動く度に何とも言えない鈍痛を僕に与えてくれる。
朝、制服に着替えた時に打ち付けた箇所を確認してみたら、熟れすぎたイチジクの断面図のようになっていた。
「………っ」
一歩、また一歩と踏み出す度に、脇腹がみしみしと痛む。何で僕はこんなに頑張って登校をしないといけないのだろう……これも仕事だからですね、あは。
自然と歪んだ笑みが漏れた。家に帰りたい。
「おはようっ」
「…ぅ、ぐっ……!」
背後から走ってきた彼が、勢い良く僕の背を叩いた。
「なんだ?どうした?」
心配そうに僕の顔を覗き込む。
どうしたって、あなた昨日僕がベッドサイドにぶつかったの見ていたでしょう。覚えて無いんですか。
苦情を言おうにも、痛みに耐えるのが精一杯で、喋れない。
「楽しみだな、今日」
「な……にが、です?」
必死に声を搾り出す。すると彼は、とても楽しそうな笑顔を僕に向けてくれた。
「だって、やるんだろ?あれ」
ぐっと親指を僕に向かって立てる。あれ、そういう話でしたっけ。昨日のことを思い出そうにも、脇腹への一撃が強烈すぎて、他に何があったかよく覚えていない。
「じゃあ昼飯食ったらまた作戦会議しようぜ。じゃあな!」
それだけ言い捨てて、歩くのが遅い僕を置いて、彼は先に行ってしまった。
昼飯食べたら作戦会議……あの何もする事が無い昼休憩の時間に、彼に会えるのか。なんとなく休憩時間を彼と過ごす自分を想像してみる。
「………」
……嬉しい、ような。何とも言えない、ような……喜ぶべき展開であるのに、こんなに複雑な気持ちになってしまうのは、脇腹のイチジクが原因なんだろうか。













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