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昼飯はまた鮭だった。
何故か俺の飯は魚が多い気がする。猫だから魚好きだと思われているんだろうか。別にそういう訳じゃないんだがな。
後ろのテーブルに座って飯を食ってるあいつの姿を見ると、また弁当だ。った
今度、俺が飯を作ってやろうかな。そうしたら俺も好きな物が食えるし、あいつもまともな飯が食える。
「……喜んでくれるかな」
あいつなら、泣いて喜びそうだ。それで俺の頭をぐりぐりと撫でまわして何度も礼を言って、席に着いてからも一口食べるごとに大袈裟に料理を褒めちぎってくれるだろう。
クッションに顔を埋めたまま、頭の中で簡単にその光景をシュミレートしてみる。
悪くないな。
「何か楽しい事でもありましたか?」
「お前には関係無い」
恥かしくて話せるかよ、こんな事。突き放されて、がっくりと肩を落として去って行く背中が妙に可愛いく見えた。
テレビの真上にかけられた時計を見る。
晩飯はだいたい7時からだから、あともう少し。それが終わって少し休んでから、隣りに座ってもらって話を切り出そう。
風呂は入ってからの方がいいだろうか。飲み物とか……いらないか。
胸の高鳴りをごまかすように、クッションを強く抱き締めた。そのまま横になる。早く時間になれ。
そうして横たわったまま時計を眺めていたら、あいつが何やら急いだ様子でその前を通り過ぎた。
外出用の鞄を持って、テレビの横に置いてあった時計を腕に巻いている。
どこか出かけるのか?
じっとその姿を見つめていたら、視線が合った。
「ああ、言っていませんでしたね、すいません。今夜はちょっと出かけて来ます」
ちょっとって、いつ帰ってくるんだよ。
それに何でわざわざ今日出かけるんだ。いつも夜は暇そうに自宅にいるくせに。
そんな俺の思いなんて知らずに、あいつは携帯電話を取り出した。
「昼前に会ったペットショップの店員さん、覚えてますか?」
何でその話を始めるんだ。すごく、嫌な感じがする。
携帯電話を開いて、何やら弄りながら、話を続けた。
「あれから意気投合しちゃいまして、アドレスを交換したんですよ」
「……」
だから何だ。俺にそれを自慢したいのか。そんな報告聞きたくない。
「それでさっき夕食のお誘いを受けましてね、これから学校のお友達と飲みに行くから一緒にどうかと…」
うるさい。行くなら黙って行けばいいだろうが。
見たくも無い携帯の画面を俺の目の前に持ってきて、わざわざ「お誘い」とやらを見せて来る。その明るいディスプレイと砕けた文面を見ていたら、段々と胸が熱くなっていった。頭に血が上っていくのが自分でも分かる。
「僕、こういった飲み会の席は初めてなので……女の子もたくさん来るみたいで、少し緊張しちゃいますね」
「……」
「あ、晩ご飯は作っておいたので、これを召し上がって下さい」
ラップに包まれた夕食を差し出してきた。その手を思い切り振り払う。耳障りな音をたてて、食器が落ちた。ぼろぼろと食材が散らばり、床を汚す。
「ちょっ……何するんですか」
すぐに膝立ちになって、割れた食器を拾おうとした。
「あ、置いていかれるからって拗ねてるんですか?だったら帰りに何かお土産を…」
「いらねぇよそんなもん!」
思わず感情のままに声を荒げてしまう。驚いたように、俺を見上げた。
「お前、うざいんだよ。出かけるなら勝手に黙って行けばいいだろうが!そんで帰ってくんな!」
「……」
言い終わって、荒く息を吐く。静寂が辺りを包んだ。
……俺は、今何と言ったんだ?
音の無い空間は、冷静に考える時間をくれた。床に散らばった食器の破片。そしてそれらを拾おうとして、しゃがんだまま俯いているあいつ。
「………っ」
やっちまった。
俺の前で、無言のまま立ち上がった。顔を伏せているため表情はよく見えない。
怒ってる。怒らせた。
纏っている雰囲気で、それだけは分かる。
どうしよう…どうすればいい?
謝って、ゆ、床は、自分で掃除するから……楽しんでこいって…気をつけて帰ってこい、と……。
混乱した頭の中で、色々な言葉が巡る。
まず、謝らないといけない。でも、今回は本気で怒ってるみたいだし、聞いてもらえなかったらどうしよう。怖い。
立ちすくんだまま黙っていたら、顔を伏せたままのあいつが何も言わずに隣りを通り過ぎた。そして鞄を持って、玄関へと向かう。
行ってしまう。追いかけないと……そう思ったが、足が動かない。
渇いた音を立てて、玄関の扉が閉じられる。
再び訪れた静寂に、涙が溢れそうになった。











あきゅろす。
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