[携帯モード] [URL送信]






「いつ男に目覚めたんだ?」「どんな奴がタイプなんだ?」「今までの経験は?」

…等々、怒濤の質問責めだった。
ちなみに男性を好きになったのは今回が初めてで、お付き合いの経験はありません。知識ならありますが。
「なるほど」
僕の答えを何やらノートのようなものにメモをしながら、一人で頷いた。
何が「なるほど」なんだろう。
「で、お前の好きな男って誰なんだ?」
はいはい。結局はその話に戻るんですね。
「今目の前にいるのですが」
「ああ、そうか。言うのが恥かしいのなら特徴だけでもいいから教えてくれ。後は自分で考える」
そうですか。僕の意見なんてまるっと無視なんですね。
ここまで綺麗にスルーされては逆に気持ちがいいものだ。突っ込む気すら起きない。
「同じ学校の奴なんだよな?」
「はい」
「クラスは?9組の奴か?」
「いいえ」
「俺も知ってる?」
「はい。とてもよくご存じの方ですよ」
なんていったって、ご本人なのですから。
「谷口や国木田じゃあないんだよな?」
「違います」
「……そいつと会うのは、だいたい放課後か?」
「そうですね」
返事を返すと、何か思い当たったらしい。ぽんと手のひらを叩いた。
「分ったぞ、お前の好きな奴!」
「本当ですか!?」
やっと彼は僕の思い人に気付いてくれたのか!
初めて見るような弾けんばかりの笑顔を僕に向けて、口を開いた。
「コンピ研の部長だろう!」
「……」
僕は無言で床へと突っ伏した。
…分ってますよ。薄々感づいていましたとも。一瞬でも浮かれた僕が馬鹿だったんです。ええ。



そしてそんな恐ろしい勘違いをしたまま、舞台は次の日に移る。
僕達は二人して廊下の曲がり角で身を潜めて、部長氏を待ち伏せしていた。
昨日あれから、僕は僕なりに彼の勘違いを正そうと努力はしました。だけど彼は全く持って聞き入れようとはしなかった。もしかして、わざとやっているんじゃないかと疑ってしまう。
しかし…。
「そろそろ部長氏が来るぞ。嬉しいだろ?古泉」
嬉しいですとも。あなたがとても楽しそうだからね。彼が、滅多に見せない笑顔を僕に向けてくれる。それだけで僕の心は十二分に満たされた。
これまでで、彼がここまで僕に好意的になってくれた事があっただろうか。いや、無い。断言できる辺りが少し悲しいのだが、はっきり言って一度も無かった。
「部長氏がやってきたら目の前に飛び出して驚かせてやるんだぞ。まずは出会いが肝心だ」
「もう出会っているんですけど」
「問題無い」
何が。
そう聞き返しても、まともな返答なんて得られないだろう。
「古泉!来たぞ愛しの君が!」
愛しの君…って。
彼の言う通り、廊下の向こうからは部長氏が歩いてくるのが見えた。軽い足取りで、何も知らずにこちらへ近付いてくる。
「ほら、古泉!出会いに大切なのはインパクトなんだ!」
部長氏の前に飛び出せと言わんばかりに、ぐいぐい背を押してきた。インパクトって、どうしろと言うんですか。
「ガーっといけ!ガーっと!!」
が、がーっと……?
あああ……ごめんなさい。ごめんなさい部長氏…!
心の中で何度も謝りながら、僕は部長氏の前に躍り出た。
「うわっ!……な、なんだ君か。驚い……」
「がっ…ガー!!」
「えっ」
どうすればいいのか分らなかった。もう為るように為ってしまえ。
「ガー!!」
「ええっ?な、何、なんなんだよぉ!?」
部長氏は怯えている。当然だ。僕だって怖い。
「ガーっ…ガー!!」
「ひぃぃ!?」
僕に凄まれて、部長氏は気の抜けた悲鳴をあげながら来た道を引き返して、どこかへ逃げて行ってしまった。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!あなたは何の関係も無いのに、変な事に巻込んでしまって本当に、本当にごめんなさい…!!
部長氏の背中が見えなくなってから、僕は彼の元へ戻った。正直、戻りたくはなかったのだが。
彼は何やら少し苛立った様子で腕を組んでいる。そして呆れたように言った。
「…お前、アホだろう。あれじゃただの頭のおかしい奴じゃないか」
「だったらどうしろと言うんですか!?」
思わず怒鳴ってしまった。
…部長氏には、後で謝りに行こう。












第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!