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住んでいるマンションの裏にある小さな公園へ向かった。
もしかしたら俺がいない事に気がついて、慌てて探し回っているかもしれない。戻った方がいいかも。なんて思ってしまったが、すぐにその考えを頭の中から振り払う。
あんな奴放っておけ。勝手に心配して探し回っていればいいさ。可愛い女の人と見るとデレデレしやがって、気持ち悪い。
苛立ちながら公園の入り口にある柵を跨ぐ。この公園の遊具の中には、いつもあいつがいるんだ。
「……よぉ」
「……」
ゾウの形をした滑り台の中を覗き込むと、一匹の猫が俺の顔をちらりと見た。近所に住んでいる数少ない友達の一匹だ。
「邪魔するぜ」
一応断りを入れてから、そいつの隣に座る。
狭い遊具の中で背を丸めていたら、隣から俺の顔をじっと見つめてきた。まるで、何かあったのか?と聞いてきているような視線で。
「…別に、何も無いぞ」
俺は愚痴を言いにこいつに会いに来たんじゃない。なんとなくあのまま家に帰るのが嫌で、気晴しに何か話そうかと思ってただけだ。
「…そう」
何も無いって言ってんのに、隣りから寄せられる視線が容赦無く俺に突き刺さる。
…全く、こいつには敵わないな。
「今日さ、出かけてたんだ」
「…彼と?」
「ああ」
誘われて、嫌がるふりをしながらも、内心は嬉しかったんだ。一緒に飯食って、どうでもいい事を話しながら歩いて…俺は相変わらず冷たい反応しかできなかった。一人で暗い事ばかり考えてて、あいつは何も悪くないのに。店員のお姉さんと立ち話をしていたのだって、俺が一方的に腹を立てて置いてきちまったんだ。向こうに非は無い。
「……俺、酷い奴だよな」
「仕方ない」
これまで黙って俺の話を聞いてくれていたのだが、それだけぽそりと口にした。
「仕方ないって……あいつの立場になって考えてみろ。すげー嫌だぞ、俺だったら」
何もしていないのに一方的に冷たくされて、他の人と話し込んだら勝手に嫉妬。どれだけ自己中なんだ。
「それだけあなたが彼の事を想っているという事。だから、それは仕方ない」
「……か、れを想っている、って……」
目の前ではっきりと言葉にされて、顔面が熱くなる。今日二回目だ。
「だけど、それは相手に伝わっていなければただの自分勝手」
「……うっ」
そうですね。その通りです。
こいつの言葉は胸にぐさりと刺さるものがあるな。
「あなたはまず彼に自分の気持ちを、はっきりと伝える事が大切」
「…伝えたと思ってたんだけどな」
この前の、またたび食わされた時に。
「彼は理解していないと思う」
「だろうな…」
恋愛対象としての「好き」だとは微塵も思っていないんだろう。あんなに頑張ったのに。
そして、それこそあいつにとって俺は完全に恋愛対象外である、という証拠だ。
「……はぁー…」
つまり、俺がはっきりと奴に「恋愛対象として好きなんだ」と伝えても、100%振られてしまう訳だ。考えたくも無いが。
「結果が分かってるのに、気持ちなんて伝えられねえよ…」
「それでも、何かが変わると思う」
何かが変わる、か。少しは俺をそういう対象として、意識してくれるようになるだろうか。
それ以前に、気持ちの悪い猫だって捨てられちまうんじゃないか?
「それは無い。だって、彼はあなたの選んだ人だから」
「そう、だな…」
…あいつがそんな事する訳無い、か。俺のこの気持ちを伝えても、ちゃんと考えて答えを出してくれるだろう。あいつはそういう男だ。
ずっと暗い事ばかり考えていて、被害妄想に囚われすぎていたのかもしれない。
「…ありがとう」
礼を言って、立ち上がった。遊具から出て服に付た砂を振り払う。
「お前と話せて良かったよ。俺、もう少し頑張ってみる」
「そう」
俺を見上げる視線を見返しながら、ある事に気が付く。
「あれ、お前その首輪…」
そいつの首元には、見慣れない綺麗な青い首輪が付けられていた。
「もしかして……拾われたのか?」
俺の問い掛けに、こくりと頭を立てに振って答える。
そうか、こいつにも家ができたのか…今までずっと野良で生活していたから、色々と心配していたのだが、飼い主ができたのなら俺も安心できる。
「お前を拾ってくれた人は、どんな人なんだ?」
「…優しい人。とても大切」
優しい人、ね。
こいつがそう言うのなら、とても良い人なんだろう。
よく見たら、身に着けている衣服も女の子らしい物になっている。家でも可愛がられているに違いない。
「拾われたって事は、名前も付けて貰ったんだろ?教えてくれよ」
「……有希」
「有希か。いい名前だな」
何も言わずに俺を見返す。でも、少しだけ嬉しそうに微笑んでいる気がした。













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