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喫茶店を出てからは、先程言っていた通りに並木道を二人で歩いた。俺達みたいに散歩をしている人や、ジャージ姿でジョギングをしてる人達とすれ違う。
「あなたって、どんな番組が好きなんですか?」
「…別に、特に無い」
「お昼は何がいいです?」
「食えるものなら、何でも」
淡々とした会話が続く。こんな味気の無い返事しかできない自分が嫌になる。会話をしたく無い訳では無い。どう返せばいいのか分からないんだ。
俺もこいつに聞きたい事はいくつかある。いつも外で何をしているのか、とか、友人関係とか。気にはなっているものの、実際に聞くのは怖い。俺の知らない世界でのこいつの姿なんて知りたくない。知りたくないけど気になる。矛盾しているな。
ずっと家にいればいいのに。そしたら、飯も俺が用意してやるし、買い物ぐらい行ってやる。俺も外の世界に嫉妬する事も無くなる。もっとこいつに優しくできる。いい事ばかりじゃないか。
叶うことの無い夢を見る。なんて独りよがりで醜い思考。俺こそこいつの傍からいなくなったほうがいいかもしれない。
「何を考えているんですか?」
「なにも」
こんな汚い考え、知ってほしくない。嫌われてしまう。そしたら俺なんてダンボール箱に入れられて、公園の片隅にポイだ。
「あなたは、たまにすごく難しい顔をしていますね。一人で何か悩んでるんじゃないかと心配になってしまいます」
だから何だ。俺の事は放っておいてくれ。
「お前には関係無い」
はっきりと切り捨てる。これ以上詮索されたくなかった。
「そんなことありません。あなたはただ一人の僕の家族ですから」
隣から、さり気なく手を握られた。
ただ、一人の、家族。心の中でその言葉を繰り返す。俺にとってこいつが唯一であるように、こいつにとっても俺はただ一つの存在なんだろうか。
だけど今はそんな事を言っていても、時が来れば俺を簡単に捨てるんじゃないのか。
「……」
こんなにも後ろ向きな考えしか持てない自分が、本当に嫌になる。
握られた手を、逆に握り返した。
何も期待していないふりをしながらも、まだこいつの温もりを求めている。俺は本当に汚い奴だ。

「……あ」
そうして会話が途絶えたまま歩き続けていたら、道端で何かを見つけたらしい。握っていた手を離して、小走りにどこかへ向かう。離された手が少し寂しい。
小さな店の前で立ち止まって、嬉しそうに笑いながら手招きをした。
「ここですよ、あなたを買った店」
ほら、見てください。そう促されて、店の前に立って建物を見上げる。
そこは小さいながらも、綺麗に整理整頓された店だった。まだ開いていないようで、入り口のガラス戸には開店準備の札がかかっている。
「たまたまこの店の前を通り過ぎた時に、まだ小さかったあなたと目が合ったんです」
頼んでもいないのに昔話を語り始めた。
「その時びびっと来たんですよ!ああ、この子は僕が大切に育ててあげないといけないなあって」
「ふーん……」
だからなんだ。と思った。
小さかった頃の事なんてよく覚えていない。特にまだ店にいた時の出来事なんて、完全に忘却の彼方だ。
俺達が店の前に立って話していたら、突然店の中の電気が点いた。そして奥から、店員らしき女性が出てくる。
「……えっと…いらっしゃいませ?」
店の前に立つ俺達を不思議そうに見ながら、頭を下げた。
ふわりとした雰囲気の、優しそうな人だ。
「すいません、僕達は通りかかっただけなんです。客じゃありません」
「あ、そうなんですか〜」
ピンクのエプロンをつけた店員のお姉さんは、返事を返しながらガラス戸の準備中の札を外した。元々このために外に出て来たんだろう。
「あれ」
また店内に戻ろうとした時に、ちらりと俺を見て目を止める。
「この子、どこかで…?」
「あ、分りますか?何年か前にここで買った子なんですけど」
そう説明しながら、俺の顔を覗き込もうとしたお姉さんと俺の間にわざわざ割り込んできた。邪魔だ。
「ああ、やっぱり!店頭のケージにいた茶色い子ですよね。大きくなったなぁ」
天使のような笑顔を向けられ、頭を撫でられた。…うん。やっぱり女の子に触られるのは気持ちがいい。
「まだこちらで働いてらしたんですね」
人が良い気分になってるのに、何で間に割り込んで来るんだお前は。こいつが話しかけた事で、店員は俺の頭を撫でるのをやめてしまった。
「はい、まだ学生なのでアルバイトなんですけどね。学校を卒業したらここに就職したいと思ってるんですよ」
「へぇ。まだ学生さんだったんですか。大学生ですか?」
「はい。あの山の上にある…」
「あ!もしかして校内に桜の木がたくさん生えてる所ですか?」
おいおい、お姉さんはこれから仕事なんだぞ。話しかけたら営業妨害になるんじゃないか。
そう思ったのだが、楽しそうに会話を続ける二人を見ていたら何も言えなくなってしまう。それ以前に俺が何か発言をしても、気付かれないんじゃないだろうか。二人とも、俺の存在なんて忘れたように話し込んでいる。
そんな光景を一歩離れて眺めながら、思った。
二人とも美男美女でお似合いじゃないか。並んでいるととても絵になるし、見た感じ話も合うようだし、このまま付き合っちまえばいいさ。
何も言わずにその場から離れた。でも、二人とも俺が側にいないことに全く気付かない。
自分から外に出ようって誘っておいて、他に話し相手ができたら放置かよ。
もう、勝手にしろ。
















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