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次の日、朝早くに叩き起こされた。
まだ外は薄暗い。なんでこんなに早く起きないといけないんだ。色々と言いたいことが沢山あったが、眠たくて頭がついていかない。
布団の上に座ったままぼーっとしていたら、足元に服を投げられた。
「ほらほら早く着替えてください」
クローゼットの中に頭を入れたまま、そう言う。投げ渡された服を見てみると、俺の持っている服の中でも比較的綺麗で値の張る洋服だった。
お前と出かけるのになんでこんなに粧し込まないといけないんだ。この程度の事で張り切りすぎだ、くだらない。
なんて思いつつも嬉しそうに準備をする姿を見ていると、悪い気はしない。そんなに俺と歩くのが楽しみなのか。たしかに色々と考えるようになってからは、ずっと家にこもってばかりだった気がする。たまに近所に住んでいる友人に会うため外出する事もあったが、それも平日の昼間だったから外でこいつと会う事は一度も無かった。
そうだな、一緒に外に出るのなんて数年ぶり、なんだよな…。
鼻歌なんか歌いながら、鞄を引っ張り出している背中を見て、思う。
俺もたまには素直に喜んだ方がいいのかもしれない。




本当に外に出るまで何の予定も決めていなかったらしい。
玄関から路上に踏み出して、まだ涼しい朝方の空気を味わっていたら、どこ行きたいですか?と聞かれた。簡単なものでもいいから、何か予定ぐらい立てとけ。能天気なアホ面を殴りつけてやりたい衝動に襲われたが、なんとか堪える。
こんな調子ならわざわざ早起きする必要も無かったんじゃないか。これから一日どうするんだよ。思わず頭を抱えたくなった。

とりあえず朝食でも食べようって事になり、適当に近所の喫茶店に入る。最近はペット同伴でも入れる所が増えてきたらしい。便利な世の中になったものだ。
…ここでご飯を食べ終わったら、近所の並木道を散歩でもしましょうか。それで、お昼になったらまたどこかお店に入って…。
目の前で今日の予定を立て始めたアホの話を聞き流しながら、店員が運んできてくれた目玉焼きに食いつく。やはり金を払っているだけあって、目玉焼きと言えど自宅で作った目玉焼きより美味い気がする。いや、卵は卵だし気分的なものだろうか。綺麗な店内だし。
ぐるりと周りを見回すと、スーツの男性ばかりが目に付いた。出勤前にここで朝飯を食って行ってるのかもしれない。
「あっ」
店内を見渡していたら、突然変な声を上げられた。卵を食べながら視線を目の前の男へと戻す。
「口元に、ついてますよ」
何がついてるんだと聞き返そうとしたら、唇の左上ら辺を何かが掠めた。ああ取ってくれたんだな、と思ったら目の前でぺろりと親指を舐められた。とても自然な動作で。
「…あ、なっ…」
じわじわと顔の表面が熱くなる。こ、こんな人前で、何をしてるんだこいつは!
しかも見た目だけは良いため、なかなか絵になる仕草だった。普通の女性だったら簡単に魅了されてもおかしくない。しかも本人にその辺の自覚が無いのが余計にたちが悪い。
「…穴?」
「なんでもない!」
誤魔化すように目の前にあるパンに噛み付いた。もしかしたら顔が真っ赤になってしまっているかもしれない。だが当の本人は、俺が突然焦りだした理由が分からないらしく首を傾げている。
くそ、こんな男に翻弄されるだなんて…!
さっき、一瞬だけだが恋人同士みたいだな、なんて考えてしまった。
















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