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無言で立ち尽くす。
こんなことをずっと続けていた理由なんて、今更考えるまでもない。
「僕が、あなたをどうしたいかですって?そんなの決まっているじゃないですか」
膝立ちになって、視線を合わせる。僕を直視する視線に気圧されないように、目を細めて、彼を見返した。
「憂さ晴らしですよ、こんなの。これまでずっと僕の人生を振り回してくれた神への、ちょっとした反抗です」
「…そう、なのか?」
「他にどんな理由があると?」
そう返すと、震える手で胸元を握られた。うっとおしかったので振り払おうかと思ったのだが、好きにさせておく。見下ろして手首を見てみると、うっすらと赤い痕が見えた。こんなものが残っていたのか。最後に縛ったのはいつだったか。覚えていない。
しかし、出来るだけ痕は残らないようにしていたつもりだったのに失敗した。この分だと身体のほうにも何かしら痕跡が残ってしまっているかもしれない。
「嘘だ」
出てきた言葉に驚いて、彼に視線を戻す。まだ話は終わってなかったのか。
「嘘だ、憂さ晴らしだなんて。お前はその程度の理由でこんな事をする奴じゃない」
「何であなたがそんな事を言えるのですか?僕の何を知っていると」
胸元にある手首を握る。少しずつ力を込めていけば、痛みに顔を歪めた。
「ほら、今のあなたとても良い顔をしていますよ。これが見たいんです」
あなたのこんな表情を見れるのは僕だけ。
「それに、僕以外に誰があなたにこんな事ができますか?」
それも、僕より他にいないだろう。だから、もうあなたは僕にすがり付いて生きていくしかない。ほら、僕の前にひざまずいておねだりなんてしてみたらどうですか?僕があなたを見捨ててしまったら、誰がそのいやらしい身体を慰めるんです。早く認めてしまえばいい。自分には僕しかいないのだと。
じっと僕の話を聞いていた彼が、顔を上げる。瞳の輝きがいつもと違う。僕と二人きりでいる時のような、虚ろに濁った光じゃない。久しく見る、これは…。その光に魅入られていたら、彼が口を開いた。
「……違う」
独り言のような声音で呟く。しかし、僕の耳には確かに聞こえた。何が違うと言うのか。
さらに彼は、しっかりとした芯の通った声で言葉を続ける。
「俺は、お前なんか必要としていない」
軽く、握っていた手を叩き落とされる。胸元の布を握り締めていた拳が解かれ、汗ばんだ手に握られていたシャツはその部分だけ集中して皴になってしまっていた。口を開いて何か発言をしようとしたが、何故か息苦しくて思い通りにいかない。ぱくぱくと動くだけで、何の音を発することもできない。
「お前が、俺を必要としているんじゃないか」
鈍器で後頭部を殴られたようだった。何が起こっているのか、全く分からない。目前がゆっくりと暗転していく。
…ああ、彼の頭がおかしくなってしまったんじゃないか。こんな状況下で、何を狂った事を言っているのか。僕が彼を必要としている?そんなわけが無い。追い詰められて、必死に搾り出した言葉がそれとは。もっと聡明な人かと思っていたのに、失望した。こんなことで僕に食いついてくるとは。あなたなんて、黙って僕の言う事だけを聞いていればいいんだ。何でそれが分からない。











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