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「できましたよ」
猫の模様の配われたお皿に焼いた鮭を盛り付けて、彼の前に置く。
僕も自分のご飯を持って彼の後ろにあるテーブルに座った。鮭を買った時に一緒に購入したお弁当を取り出す。温めたほうが美味しいのだろうけど、面倒なので冷えたまま頂くことにした。
冷たいご飯を箸でつつきつつ、ソファに座ったまま鮭に食いつくウチの猫の背中を見る。左手にはしっかりと携帯電話を握りながら。
酔っ払ったサラリーマンごとく情けない痴態をムービーで録画して、正気に戻った時に見せてやるんだ。そして今後からその生意気な態度を少しは改めるといい。
…しかし、ずっと彼の背中を観察してはいるものの、いつまで経ってもまたたびの効果が出る様子は無い。
まさか不発なんて事は無いですよね。少し不安になって、にゃんにゃんふりかけの裏の成分表記を読み直してみた。主成分は確かにまたたびと書かれている。間違いは無いはずなのだが、彼に効果が出ている様子は無い。もしかして不良品…だとか。これはあまり売れていないらしく、商品の陳列棚の中で埃を被っていた。賞味期限も表記されていないし、これはどうにも怪しい。
うだうだと悩んでいたら、突然彼がぱたりと横に倒れた。まさか本当に不良品!?
焦った僕は、ソファに横たわる彼に駆け寄った。もしかしたら変な物質でも入っていたのかもしれない。僕のみみっちい復讐心で、大切な同居人…じゃなくて同居猫を失ってしまうだなんて冗談じゃない。
「だ、大丈夫ですか!?」
近寄り抱き起こしてみる。柔らかい彼の肢体は、力無く僕に身を預けてきた。
「キョンく…!」
名前を呼ぼうとしたら、ぱちりと瞳が開く。そして抱き起こされたまま、ゆっくりと両腕を僕の後ろに回した。
え、と思った時にはすでに抱きしめられていて、そのまま体重をかけられ流されるように二人で後ろへ倒れる。カーペットしか敷かれていないフローリングの床に、二人分の重みがかかったまま倒れこんでしまったため、背中に痛みが走る。
「あ、あ、え?」
そしてそのままぐったりと動かなくなった。僕の真上で。
これはにゃんにゃんふりかけの効果だろうか。真横でぼんやりとしている顔を横目に見てみると、目元まで赤くなっている。
「どうしました?」
どうしたも何も、原因を作ったのは僕なのだけど。一応、聞いてみる。
「…ん、む」
言葉になっていない声を発しながら、擦り寄るように僕の首元に顔を寄せてきた。毛がくすぐったい。
今ならば大丈夫かと思い、そっと頭に手を乗せて撫でてみる。いつもならばここで引っ掻かれてしまうのだが、気持ち良さそうに目を細めただけだった。そのまま手を頬に移動させても、顎のしたをくすぐってみても、嫌がる様子は無い。むしろもっと撫でろと言わんばかりに、僕を見つめてくる。
家に来たばかりの彼を思い出した。あの頃は可愛かった…今でも十分可愛いけど。
暫く頭を撫で回していたら、ちらりと彼の視線が泳いだ。何かを発見したようにそちらばかり見ている。
なんだろうかと視線を追ってみれば、そこには僕が落としたにゃんにゃんふりかけが。
「あっ」
彼が手を伸ばしてふりかけを拾おうとしたので、急いで先に回収した。むう、と不機嫌そうな声が聞こえてくる。
少量ご飯に振り掛けただけでこの酔い様だ。さらに体内に入れたら、害が出てしまうかもしれない。普通はそんなことは無いだろうけど、万が一を考えておく。
しかしそんな僕の心境など知らず、遠慮なく彼が手を伸ばしてきた。
「それ、よこせ。なんか良い匂いがする」
「だ、駄目です!」
頭上に高く上げて、彼の手から逃れさせようとした。
しかし、勢いよく振り上げてしまったのがいけなかったのか。それとも僕がきちんとふたをしていなかったのか。
持ち上げたとたん、袋から粉末状の粉が溢れ出た。いや、落ちてきた。
「うげほっ!ごほ、うぇっ…」
気管に入ってしまい、思わず咽る。目の周りの粉を振り落としてなんとか視界を確保した。
カーペットの上に茶色い粉が撒き散らされ、僕自身に至っては少し頭を振っただけで髪の毛の間からぱらぱらと粉が落ちてくる有様。最悪だ。
「ああああっ!もう、何でこんな…!」
立ち上がって掃除に取り掛かろうとした瞬間、ぺろりと頬を舐め上げられた。
何事かと驚いて彼を見てみれば、うっとりしたように僕を見つめている。その目は酔ったように潤んでいながらも、すっかり据わっていて…これは、酔っ払いのサラリーマンよりたちが悪い。










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