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こんにちは。一樹です。
僕がこんな特異体質になってしまってから、一年程経過しました。

ご主人様であるキョンくんも、無事に大学を卒業して、第一希望だった小動物診療に就職しました。
その病院は、僕がよくお世話になっている所で……そうです。事故に合った時に、お世話になった病院ですね。
気絶しただけの僕を心配して、ぼろぼろ泣いていたキョンくんを見て顔を覚えていたらしく、面接に行ったらすぐに内定が取れたそうです。そこまで自分の飼い猫に真剣になれるのなら、彼はきっと良い獣医になるだろう。と先生は言っていました。

そして就職先も決まり、卒業と同時に僕を連れて家を出ました。
理由は前々から一人暮らしがしてみたかったから…と言っていましたが、もしかしたら僕がこんな変な体質だからかもしれません。
妹さんには知られてしまっていますが、それでも異常な体質には変わりは無いため、三人…二人と一匹ですかね?以外には秘密、ということになりました。
つまり、ご両親にも隠し通さないといけないため、たまにですが咄嗟に変身してしまうため、彼や妹さんには随分ご迷惑をかけてしまいましたね。
だから…もしかして一人暮らしも、僕のため、じゃないかな…と。
自惚れかもしれませんが、それでも僕にとって嬉しい事には変わりはありません。
家から出て暮らすようになり、彼がお仕事でいない時間など、一人でゆっくりと過ごす時間が増えました。
色々と考える、時間も。

僕が、人になりたかった理由。
猫のままでもずっと側にいられたのに、何で人間じゃないといけなかったのか。
彼と対等な立場になり、彼の役に立ちたい。恩を返したい。
ずっとそう願っていたから、それが理由だと思っていました。
だけど、そうじゃなかった。それらは、一つの結論を辿るための道標でしかありません。
だって、猫のままでも彼のために出来る事柄なんて、いくらでもある。人じゃないと出来ない事。猫のままだと出来ない事。それは…

それに気付いた時、なんだかとても泣きたくなりました。嬉しいのか、悲しいのか、よくわかりません。
だけど、その時僕の胸の中に存在していたのは、とても暖かい気持ちでした。




夕方の七時。
彼が帰宅するだろう時間を見計らって、僕は玄関先に座って彼を待ちました。
そして、ガチャリと鍵が開けられる音がして、扉がゆっくり開かれます。出迎えた僕の姿を見て、やや疲れた面持ちの彼が顔を緩ませました。

腕を伸ばして、僕より少し小さい身体を抱き締める。
驚いているのか、腕の中の彼は動かない。僕から触れる事なんて、滅多に無いから。
耳元に口を近付けて、囁く。



―…あなたが、好きです。





ずっと、伝えられなかった言葉。
ずっと、伝えたかった言葉。

答えは、とても簡単なものでした。












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