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「消毒するぞ」
「…自分でやる」
「だめだ」
「……」

豪炎寺は、梃子でも動かない、そんな表情をしていた。俺は仕方なく、渋々と膝を擦り剥いた脚を突き出す。すると豪炎寺はどこか満足気な表情をして、救急箱を手に取った。
一瞬の浮遊感、スローモーションで近付いてくる地面。咄嗟に突き出した両手が土を掴むと同時に、膝がフィールドに擦れる。ありたいていの言葉で言うと、俺は転んだのだった。
選手が軽傷の怪我を負った場合、本来ならマネージャーが手当てを担当する。しかし今は朝練も終わろうとしている頃合い、マネージャーたちは朝食を作るため、少し前に食堂へと向かってしまったのであった。
消毒液がしみて、ひりひりと痛みを増す膝をじっと見つめる。しかし、豪炎寺がくすりと笑う気配がしたので、俺は視線を膝から彼にと向けた。

「なんだ?」
「いや…鬼道も痛いんだな、と」

俺は呆れて豪炎寺を見やった。豪炎寺はいったい俺をなんだと思っているのだろうか。その旨を伝えると、豪炎寺は再びひっそりと笑った後、気を害したのならすまない、と謝ってきた。じいと真っ直ぐに目を見つめられ、恥ずかしくなる。

「……害してはいない」

ゴーグルを着けているはずなのに、まともにかち合った視線から動揺を悟られてしまうような気がして、俺は豪炎寺から焦点をずらした。
豪炎寺がガーゼを傷口に押し当てる様子を、フィールドを駆ける仲間たちを見ている隙にこっそりとうかがう。いちいち丁寧に傷の手当てをしてくれる彼に、気持ちがくすぐったくなった。
最後に、豪炎寺はテープで傷を覆ったガーゼをきっちりと固定し、救急箱を閉めた。

「…ありがとう、豪炎寺」
「どういたしまして」

そう言うと、豪炎寺は俺の頭を一撫でして、救急箱をベンチに置く。それから時計を見て、朝練はもう終わるな、と伸びをした。それと同時に、全員集合、という監督の声がグラウンドに響いた。

「行くぞ、鬼道」
「あ、ああ」

俺は慌ててベンチから立ち上がり、普段よりゆっくりと走る豪炎寺の後を追った。先程まで鈍く痛んでいた膝は、もう痛くはなかった。いや、痛くないどころか、豪炎寺に撫でられた頭のてっぺんがほんのりとあたたかいような気がして、怪我のことは俺の頭からすっかり抜け落ちてしまっていたのだった。




豪鬼フェスタ様に提出











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