Vampire団寸劇 If I was your vampire
いつもの空き地、向かい合うベンとシン。
ベン「よし、シン。いつでもいいぞ」
シン「言ったな? じゃあ行くぜっ!」

剣戟を交えながら言い合う二人。

ベン「おいおい、それじゃ俺には勝てないぞ」
シン「くそ、なんで、なんでだ! 剣のリーチは俺の方が長いはずなのに!」
ベン「そうさ、お前の方が長い。だから勝てないのさ」
シン「何!?」

ベン、剣を一閃。弾かれたシンの剣が宙を舞って落ちる。

シン「ぐ……!」
ベン「腕が痺れたか」

シン、図星で言い返せずベンを睨み据える。

ベン「それは握り方が甘いんだ。なまじ保持力が緩いから、弾かれた時の衝撃は大きくなる。そして、だ」
シン「……何だよ!? もったいぶらずに言え!」
ベン「お前が俺に勝てないのは、間合いの取り方が下手だからだ」
シン「間合い…?」
ベン「俺の剣とお前の剣は長さが違う。分かってるのはここまでか? それをお前は全く考えに入れず、勢いだけで俺の懐に突っ込んでくる。必然、お前の剣は長所のはずの長さを持て余し、弾かれて威力を削がれる」
シン「……そうか…」
ベン「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず……とは言うが、シン、お前の場合、まず敵より武器を知れ。それだけで随分違う」
シン「武器を知る…」
ベン「ま、頭で考えるより体で覚えた方が早いだろう。ことお前の脳みそにおいては尚更な」
シン「そっか、そうだな……っておい! 俺の脳みそが随分貧相な扱い受けてないか!」
ベン「あら、分かっちゃった? あらん限りのビブラートに包んで言ったつもりだったんだが」
シン「そこまで難解じゃなかったよ! あと確かに声という振動(ビブラート)に乗ってしっかり届いたけどさ!」
ベン「ふむ、バレちゃ仕方ない、大砲直撃に言おう」
シン「死ぬ死ぬ死ぬ! せめて単刀直入に言って!」
ベン「単刀直入に言うと、シン、お前は頭が悪い」
シン「やっぱそうなるのかよ……ちなみに、大砲直撃に言うとどうなるんだ?」
ベン「シン、頭悪くなれ」
シン「確かに直撃だ! 割と傷つく!」
ベン「そう言うなシン、考えてもみろ。頭悪くなれ、って言い方だともとはそう頭が悪くないように感じないか?」
シン「あ……言われてみれば確かにそうだな」
ベン「だろう? だから言われるまでそれに気づかないお前は大馬鹿だ」
シン「自分のフォローを自分でぶち壊しやがった! 上げた直後に落とされた!」
ベン「ここへ来てもう一度単刀直入に言おう。シン、お前は頭が悪い」
シン「威力が水増しされてる! 傷ついた! くっそこの野郎ベンてめぇ! ぶっ飛ばしてやる!」
ベン「やってみろ、出来るならな」
シン「言いやがったな、後で吠え面かくんじゃねえぞ……っておい、なんだその見たこともない嫌な笑顔! 明らかに俺を見下して楽しんでる顔だろそれ! お前のことは気に入らないけどその人格だけは認めてたのに!」
ベン「ほう?」

ベン、コンマ3桁以下の速度で素顔に戻る。

シン「!?」
ベン「そうか。俺の人格を認めてくれてるのか……」
シン「えっ……と、あの、ベン? ねぇ、ベンさん? ベンディアンス?」

ベン、戸惑うシンに歩み寄り、肩に手を置く。

ベン「俺も何だかんだ言うけど、お前のことを認めてるよ」
シン「えっ……///」
ベン「俺がどうしてお前の神経を逆撫ですることを言うのか、分かってくれなくてもいい。ただ、戦いの中に身を置くお前のことを、俺なりに気遣ってるんだと、思ってはくれないか」
シン「ベンディアンス……」
ベン「お前はまだ若い。それは力であると同時に、未熟さでもある。俺はそれが心配で仕方ない」
シン「……ベンは、それを俺に教える為に、いつも……?」
ベン「そうだ……だが、気付こうと意識する必要はない。それは人が一人前になる時、自然と理解するものだから……ただ、行き過ぎたこともあった…お前に接する態度が、厳しさだけに偏っていたことで、褒める所を見逃したこともあった……そのせいでお前に、必要以上に辛い思いをさせたと思ってる。済まない…」
シン「うぅん……ベンは俺のことを心配して、俺のことを想ってそういうことをしてくれてたんだろ? それが分かっただけでいいよ。俺こそ、気付けなくて、頭悪くて……ごめん」
ベン「お前が謝ることなんかないさ…お前に戦いを教えようと言いだしたのは俺の方だ。だからそれはお前の本質を見抜けなかった俺の不徳だよ。こんな俺だ…いつでも見限ってくれていいぜ……」
シン「嫌だ!」
ベン「!」
シン「俺は嫌だ! ベンと一緒に戦えないなら、ベンと一緒にいられないなら、生きてても、意味ないもん……っ、う、うぅっ、あぁぁん」
ベン「どうしたんだ、シン……泣くほどのことかよ……」
シン「泣かずにいられるわけないだろ! ベンだって相当頭悪いじゃないか! 俺がどれだけベンのこと好きか、ちっとも分かってくれてないじゃないか!」
ベン「……分かってるさ……俺だってお前が好きだ…それをこらえて言ってるのが、分からないのか!」
シン「分かってるよ! ベンは自分がだめな奴だと思ってて、俺までダメにしたくなくてそんなこと言ってるんだろうけど、ベンこそ自分のこと何も分かってないじゃないか!」
ベン「何!?」
シン「ベンは自分が思ってるようなだめな奴じゃない! そりゃふざけてて性悪な、バカでオタンコナスの童貞だけど!」
ベン「シリアスに乗じて言いたいだけ言ってねえかコラ!」
シン「だけど……俺のためにならないことをしたことなんか、一度もない!」
ベン「! ……シン……」
シン「いつだって俺の味方で、でもちゃんと叱ってくれて、褒めるときはとことん褒めてくれる、そんなベンディアンスのことを、ダメな奴だなんて思った事、俺はない! だから……」

とす、と。
シン、ベンに抱きついてベンの胸に顔を埋める。

シン「見捨てろなんて悲しいこと、言っちゃぃゃ……」
ベン「……済まなかった、シン……お前がそう言うなら……」
シン「うん……俺、どこまででもついていくよ、ベンディアンス……」
ベン「シン……」

徐々に近づいていく二人の顔。
と、その時。

ジェシカ「くぉるぁあああああアアアアアアア!!」
ベン「アボヴ」

ジェシカの見事なライダーキックがベンの鳩尾に直撃。ベン、10m吹っ飛ぶ。

ジェシカ「ふううぅぅぅぅぅぅ……シンちゃん大丈夫? 変なことされてない!?」
シン「え、う、うん、大丈夫」

ジェシカのすぐ後に、黒音も続いてやってきた。

黒音「いい時間だからそろそろお昼にしようと言いに来たら……何と言いますかまぁ、熱いね、二人とも」
ジェシカ「悠長なこと言ってる場合じゃないわよ黒音くん! 我らがアイドルシンちゃんが不逞の輩に襲われそうになってたってのに!」
黒音(小声で)「自分の相棒捕まえてよく言うよ……(苦笑)」

その時、倒れていたベンが起き上がる。

ベン「うおぉ……ジェシカ、いきなりライダーキックはナシだろ……」
シン「ベン! 大丈夫!?」
ジェシカ「シンちゃん近づいちゃダメ! 手負いの獣は危険よ!」
黒音「空き地の真ん中で男の娘といちゃこらしてるおっさんのほうがよっぽどナシだと思うよ」
シン「ううぅダメだ、絵面的にフォローが不可能に近い……;」
黒音「次こんなことしてるのがバレたら縛り首だね」
ジェシカ「そうね、ベン、あんたがそう簡単に死なない丈夫な体でよかったわ。次にシンちゃんに何かいかがわしいことしてみなさい、洒落じゃ済まない拷問攻めだからね!」
黒音(拷問ってことは殺す気はないわけだ……そして実際やるにしろ後一回分の猶予を与えてる辺り、そしてそれに自分で気づいてないあたりジェシカちゃんもまだまだ甘いねぇ)
ジェシカ「? どうしたの黒音くん」
黒音「ううん、なぁんでぇもない☆ それより、そろそろみんなでお昼ご飯にしない?」
ベン「そうだな、シンも午前中稽古詰めだったし、腹減ってるだろう」
シン「そんなにヤワじゃないぜ俺は。まあみんなが言うならここらで何か食べるのもいいけど、俺としてはまだまd」

くぅぅ。
台詞の途中でシン、腹の虫が鳴く。

シン「あ……//////」
ベン「よし、じゃあ行こうか」
シン「え?」
ジェシカ「そうね! れっつごーとぅ黒音くんちー」
シン「あの」
黒音「え、僕が作るの;」
シン「ちょっと、ねえ、ツッコんですらもらえないって、そんな、ねぇみんな、お、置いてかないでええええぇぇ(泣)//////」

シン、顔を真っ赤にしながら3人のあとを追っかけて行く。







Vampire団寸劇 beginning
足早にさっさと歩くジェシカ。そのあとをついて歩くベン。

ジェシカ「……ちょっと! なんでついてくるのよ!」
ベン「ん、なんでって言われてもな……他に当てもないし」
ジェシカ「あんたくらいの腕があれば一人でも大丈夫でしょう? なんでわざわざ私の後を金魚のフンみたいについて回るのよ!?」
ベン「いや、そんなつもりはないけど、生憎俺みたいなのにも義理ってものはある。助けられてハイありがとうじゃ気が済まないんだよ」
ジェシカ「思いっきり余計なお世話よ。恩を着せる為に助けたわけじゃないし、そもそも私はあんたを助けたとすら思ってないわ」
ベン「なら今後の振る舞いには気をつけた方がいいぜ。自分はそう思ってなくても、受け取られ方ってのは結構違うものだからさ」
ジェシカ「それも余計なお世話。あんたに説教される義理は、それこそないわよ。千年生きてるんだか何だか知らないけど、上から目線で説教垂れるのは感心しないね」
ベン「そういうつもりはなかったんだが、まあいいさ。とりあえずそろそろ食事でもどうだね。俺がおごるからさ」
ジェシカ「あぁ?」
ベン「いや俺結構耳良くてな。胃袋空になってるのも音でわかるんだ」
ジェシカ「……!!////」

ベン、散々殴られた後ジェシカと一緒に店に入る。

ジェシカ「これとこれ、あと飲み物はアイスティーお願いします」
ベン「じゃ、俺も同じ奴……飲み物はコーヒーで」
ジェシカ「ん、あんた冷たいの苦手なクチ?」
ベン「冷たいと切れた口の中に沁みんだよ……;」
ジェシカ「あぁ、なるほどね。ま、年頃の女の子にああいう口叩く方が悪いのよ」
ベン「普通年頃の女の子はああいう口叩かれたからって十回も殺すような真似まではしねえだろいやすいませんなんでもないです」
ジェシカ「ったく……つくづく腹の立つ奴ね、あんたは。で? どうして私についてくるのよ」
ベン「さっきも言ったろう。恩返しってところだ」
ジェシカ「結局それなわけか……余計な御世話だって言ってるでしょうに……」
ベン「自分で言うのもなんだが腕は確かだぜ。ジェシカ、東の反乱って知ってるか」
ジェシカ「ええ、東部のヴァンパイアが一斉蜂起した話でしょ? でも確か結局、たった一人の戦士に鎮圧されたって話じゃなかった?」
ベン「ああ、そのとおりだ。その鎮圧を一人でやってのけたのがこの俺ってわけだよ」
ジェシカ「な……っ!?」
ベン「信じてくれなくても構わない。いずれ見せてやるさ」
ジェシカ「ちょっと……それ本当なの!?」
ベン「ああ。単なる噂がこんな辺境に尾ひれもつかずよく正しく届いたもんだ」
ジェシカ(それだけこいつの力が圧倒的ってこと……? それなら私が助けに入るまでもなかったはず…)
ベン「だがしかし、今回ばかりは流石にしくじっちまったよ。友達のことを引き合いに出されるとどうも情に流されるわ」
ジェシカ「友達…?」
ベン「ああ。まだ話してなかったが、長くなるからそれもおいおい、な」

食事を終え、店を出る二人。

ベン「で、ジェシカ。次はどっちの方向に向かうんだ?」
ジェシカ「そうね、北の方はかなり凶暴なのがうじゃうじゃいる……今の手勢で乗り切れるかちょっと疑問だから、少し遠回りになるけど西を迂回していこうかしら……(って、何ナチュラルにこいつと旅する流れになってるの私!?)」
ベン「なるほど…とすると、あっちの道でいいわけだな。よし、行こうかジェシカ」
ジェシカ「あっ、ちょ、待ちなさいよー!」

渓谷を抜ける細い道を進む二人。やがて大きなつり橋に行きあたる。

ジェシカ「この橋を渡れば、次の街は目と鼻の先ね」
ベン「しかし随分古い橋だな……二人一遍に渡るのは危ない、一人ずつ行こう」
ジェシカ「そうね、それじゃ最初に私が行くから」
ベン「おい、ちょっと待てジェシカ!」
ジェシカ「レディファーストって奴よ。ちゃんと渡り切ってから来なさいよね」

ジェシカ、橋の中ほどまで進んだところで立ち止まり、下の景色を見下ろす。

ジェシカ「おぉー……落ちたらひとたまりもないわね」
ベン「ジェシカ! 何やってんだ、早く渡れ!」
ジェシカ「分かってるわよ、大丈夫、この橋見た目ほど脆くないみたい」

その時、不意に突風が吹きつけ、橋が大きく揺れる。

ジェシカ「わっ、ちょっ、え、あっ」

その弾みでジェシカの体は空中に投げ出された。

ジェシカ「ちょっ、嘘! わああああああぁぁぁぁ!」
ベン「ジェシカ!」

恐怖に目を閉じたジェシカは、突然誰かに抱きかかえられる。
ベンがつり橋の端から跳んで、ジェシカを抱えたまま対岸の崖に張り付いていた。

ジェシカ「ベン……ディアンス…?」
ベン「ふぅ……危なかったぜ」
ジェシカ「嘘、ありえない……あそこからここまで、どうやって…」
ベン「ふふ、何、これが俺の力の一端さ。いずれ見せてやるといったろ? ふっ!」

ベン、崖に引っ掛けたままの足で一足飛びに跳躍、対岸のつり橋のもとに着地。

ベン「よっ……と。怪我はないか?」
ジェシカ「う、うん……ありがと」
ベン「どういたしまして。このまま俺が連れて行ってもいいが、歩けるか」
ジェシカ「あ、当り前じゃない! 降ろしてよ!」
ベン「はいはい」

ベン、ジェシカを降ろしてそのまま歩きだす。

ジェシカ「あっ、ちょ、ちょっと、待ってよ!」
ベン「レディーファーストだか何だか知らないが、お前みたいなうっかり者に前を歩かせてるとこっちの身が持たないからな。俺がエスコートしてやるよ」
ジェシカ「〜〜〜〜〜〜っ! 余計なお世話よっ!」
ベン「素直じゃないなお前は……それとも何かな、俗に言うツンデレって奴なのかな。ひょっとして今俺にドキドキしてたりするのか」
ジェシカ「だ、誰が!」
ベン「聞こえてるぞ、心臓の音」
ジェシカ「こ、これは落っこちそうになってビックリしただけなんだからねっ!」
ベン「それにしては心拍数が下がらないな」
ジェシカ「〜〜〜! この!」
ベン「あいた! こらジェシカ、子供じゃねえんだからカンチョーとかするな!」
ジェシカ「うっさいこのヘタレ! 死ね! 一回死んで馬鹿を直せ! あるいは馬鹿のままでいいから一回死ね!」
ベン「どの道死ぬのか俺! ぅわ! 打撃の連続の中にあろうことか膝カックンを交えてきやがった!」

言い合いながら二人は、転がるように山を越えていく。






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