・・・めんどくせぇ。
さらさらと順調に部誌を埋めていく阿部。普段なら阿部など気にもしてないから気付かなかっただろうが、こうして見ると若干テンションが低いっつーか元気がない。
今日1日、栄口に避けられたのをなんとなく感じたんだろう。挙げ句の果てに[今日は先帰んねー]と笑顔で言い渡されてたし。その時、栄口から[泉ごめんな。]目だけでそう言われた。あー、ったく。何度でも言うぞ俺は。めんどくせぇー。




「阿部。」

「あ゛?」

「ほらよ。」




ぽんっと部誌の上に手紙を載っけてやる。それには[阿部くんへ]やや丸みをおびた字でそう書かれている。それを興味なさげに一瞥。差出人の名を確認することもなく脇へどけると何事もなかったかのように再び部誌を書き進めている。
人のこと言えねーけど随分な態度だな、おい。まーいい。とにかくこれで義理は果たした。部室の鍵をチャラチャラと回しながら阿部を見る。




「泉がこうゆうことすんなんて珍しい。」

「まさか。俺が引き受けるわけねーだろ。めんどくせぇ。」




そう言うと部誌を書いていた阿部の手が止まった。おざなりに脇によけた手紙をおそらく初めて視界にいれるとくるりと裏返した。そこには表書き同様丸っこい字で女の子の名前。そしてご丁寧にもクラスまで記されていた。ピクリと阿部の片眉が上がった。




「・・・栄口か。」




俺に尋ねる訳でもなく、確信をもって、阿部が呟いた。











放課後、なんの当番もなく、真っ直ぐ向かった部室には先客がいた。ぼんやりと一通の手紙を眺めていた栄口。俺が来たことには少しも気付かずにぼんやりとそしてどこか泣きそうな顔をしてその手紙を見ていた。
声をかけると慌てて笑顔を浮かべていたけどそれはかなり下手くそな笑みで。見られてしまったことに焦りを感じたのか、それとも誰かに不安を吐き出したかったのか。ぽつぽつと栄口が言うにはー

[クラスの子に頼まれた。]
[阿部ってひどい奴なのに何気にもてるよなー]
[可愛くていい子なんだよ。羨ましいなぁ。]
バカだよなぁ。んな顔で言ってもなんの説得力もない。

[栄口も言えば。]

俺が思わず言ってしまった言葉に顔を赤らめてしまうくらいならいい加減白黒はっきりさせりゃいいのに。相手が阿部ってのが微妙に気に食わねーけど。まったくどこがいいんだか。栄口はなかなか趣味が悪い。

盛大にどもりながら[なんのこと?]と言った栄口をそれ以上追い込むほど俺は性格が悪くないのでそこはあっさり流してやったけど。まぁここにいたのが阿部なら嬉々として追い詰めてやったとこだけどな。


結局何がどうなったのか。どっからどう見ても嘘だろっつう言い訳(今日は用事があって早く帰らなきゃなんない)された末に渡すのを頼まれちまったわけだ。あんな顔するくらいならはなから引き受けなきゃいいのになぁ。っつってもあの性格で更には相手が女なら頼みをはねのけるなんて栄口にはできっこねぇか。
つらつらと巡らせていた思考がため息に邪魔された。ため息を吐いたのは当然阿部。




「・・・どうゆうつもりで引き受けたんだか。」

「んなこと知るか。本人に聞け。」

「それもいいかもな。」




さっきまでのひっくいテンションはどこへやら。その顔には合点がいったとばかりに黒い笑みが浮かんでいた。うーわー。栄口に、そして手紙を書いた女子に言いてぇ。お前らこれのどこがいいんだ??
この様子を見ると今や阿部はきっちりと現状を把握してるみてぇだ。ここでいう[現状]とは勿論栄口の気持ち込みだ。そりゃいいっちゃいいことだけど・・・あんだけ悩んでヘコんでた栄口をよそに阿部だけこんな余裕だと理不尽というかなんつーか。バランス悪くね?バランスっつうかこの正反対っぷりがいいのかもしんねーけど。しんねーけどぉ・・・




「余裕ぶっこいてるとこあれだけど頼んできた女を好きなのかもよ。栄口が。」

「・・・は?」

「そういや可愛くていい子だっつってたし。」

「・・・栄口が、好きだっつってたのか?」

「さぁ。本人に聞け。あとお前書くの遅すぎ。」




目に見えて焦りだした阿部に部室の鍵を投げ渡し、とっとと帰ることにした。
阿部のことだ。野球の作戦一つとっても分かるように欲しいとなったら何が何でも手に入れる。どうせ明日には蹴りをつけるんだろう。だったら、今日1日、栄口が悩んだくらいにお前も悩んでもいいんじゃね?・・・うぅん。俺もけっこーいい性格してるわ。

ま、手紙の女子には悪ぃけど現状打破にはなかなかいいタイミングだったかもな。そんなことまで考えてしまった俺はけっこーどころではなくかなりいい性格をしてるのかもしれない。






うぅん、うちのサイトはみんな阿部に厳しいなー。ゆーとは甘やかしまくってんのに(笑)


あきゅろす。
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