意外と優柔不断。雰囲気に弱い。お人好し。こだわりが少ないぶん押しに弱い。気がいいから拒絶という行動が苦手。平和主義。ハプニングに弱い。できれば誰も傷つけずに生きたいと思ってる。流されやすい。周りの人間を大切にする。たいていの事は受け入れる。滅多に怒らない。鼻先が触れ合いそうな距離で目の前の男の面倒かつ俺につけ込まれる要因である特徴をつらつらと列挙してみる。ほんと隙だらけ。


あ、やっとまばたき。こんな目ぇ見開いたまま固まって。眼球カピカピになんじゃねぇか?
自分の目の前、至近距離。手を握る、抱きしめる。その時もテンパってはいたけれどそれでも栄口はどうにかこうにか笑顔を形作ってた。
友達の過剰なスキンシップ。かなり苦しいけれど可能性としては0ではない。現に田島や水谷にそんなことをされるのはよくあることだろう。俺にとって苛立ちをかき立てられるその光景を目にすることは珍しいことではない。苦しい言い訳だけどそのまま現実を受け入れるよりはよっぽど楽だったんだろう。へたくそな笑顔を浮かべ栄口はいつもそっちをとった。




本当は、分かっているくせに。本当は、知っているくせに。
なんで、何度も繰り返した俺の行動を止めない?逃げない?止めも逃げもしないから。止めることも逃がすこともできない。
意外と優柔不断だから?雰囲気に弱いから?お人好しだから?こだわりが少ないぶん押しに弱いから?気がいいせいで拒絶という行動が苦手だから?平和主義だから?ハプニングに弱いから?できれば誰も傷つけずに生きたいと思ってるから?流されやすいから?周りの人間を大切にするから?たいていの事は受け入れるから?滅多に怒らないから?けど、いくら、そういう特性があったとしても、男相手に。しかもリスクばかりが高い俺相手にそんな特性だけで流されるほどに迂闊ではないはずだ。
それとも俺がそう思い込みたいだけなのかも。分かんねー分かんねー。栄口がほんとのとこなに考えてんのかなに感じてんのか分かんねー。ずっと見てたし一緒にいたから予想はできるけど正解かどうかなんて分からない。
スイッチ切ったみたいに固まる栄口。処理能力が限界を超えたらしい。爆笑ものの表情だけど流石にこっちだってんな余裕はない。



「栄口。」



多分栄口の頭んなか今ぐちゃぐちゃ。なんで?どうして?なんだこれ?夢か?きっとぐちゃぐちゃの支離滅裂。それが落ち着くまで待つべきなのかもしれないけど待てない。どっちに転ぶとしても一度したなら二度も三度も結果は変わらない。だったら遠慮したって意味などない。もう一度触れる。唇に、触れる。あ、びくっとなった。拍子に机にぶつかった腕。地味に痛そうな音。



「っ!」



その刺激に我に返ったのか、思いきり押しのけられた。じんわり右肩に痛みが広がる。落ちてたスイッチが漸く入ったらしい。止まっていた栄口の時間が流れ出す。顔がみるみる赤くなる。見開かれた茶色の目が揺れる、揺れる揺れる揺れる。これもしかしたら泣くんじゃねぇか?そりゃ泣きたくもなるか。寧ろ男に唇奪われて平然としてたらそれはそれで心配だ。こんだけ女大好きで色々と夢見てるタイプなのだから。あ、けど夢見るだけ夢見て結局行動とか起こせないタイプだし。彼女がいたこともないと言っていた。ってことはこれもしかして初めてか?あぁ、そりゃ泣きたくもなるか。二度目の納得。妄想力を駆使してファーストキスを夢見てただろうに。悪いことしたな。けどどうせなら初めてがいい。きっと栄口は一生忘れられない。や、初めてじゃなくても男にキスされるとかなかなかにパンチのある出来事そう易々と忘れられないか。泣きそうな栄口を前にんなこと思う俺は大概ひどい奴だ。やってることが既に十分酷いから今更だけど。



「栄口。」



頭ん中は言葉が溢れて余計なことまで考えてるってのに口からは出てこない。バカみたいに栄口の名前しか出てこない。
でも栄口よりはましか。唇震わせたまま、なんも言葉が出てこないらしい。いきなりこんなことされて。俺以上に言ってやりたいことがやまほどあるだろうに。微妙にあいた隙間。それを埋めたくて腕引っ張ってみたけど栄口は動かなかった。けど、腕は振り払われなかった。だからこっちが動いた。距離が戻った。またびくっとなった。怖がられてんならやだな。って思う。怖がってるというよりびびられてんのかもとも思う。そうっと頬に触れてみた。うまくなぞれなくて苛立つ。原因は明白だった。栄口に触れた手が、震えていた。まばたきに、栄口がそのことに気がついたことが分かった。かっこ悪いな。止めたいのに止まらないから諦めた。震えたままの手を頬に添える。



「嫌なら嫌って言えよ。」



そう告げたくせに。いいも悪いも言わせる間もなく唇を塞いでしまった。意外と優柔不断。雰囲気に弱い。お人好し。こだわりが少ないぶん押しに弱い。気がいいから拒絶という行動が苦手。平和主義。ハプニングに弱い。できれば誰も傷つけずに生きたいと思ってる。流されやすい。周りの人間を大切にする。たいていの事は受け入れる。滅多に怒らない。背に回されることも先程のようにこちらを押しのけることも選べずに中途半端な位置で止まっている腕。宙に浮いたままのその手。どちらも選択しないその理由はなんなのか。本当の理由はやっぱり俺にはわからない。






意志疎通のできない2人とか



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