公園の花壇。赤や黄色ピンクに紫。色彩に溢れたそこをぱしゃりと一枚。だだっ広い芝生が延々と続くこの場所に来るとなんとなく、高校三年間。多くの時を過ごしたグラウンドを思い出す。俯瞰でぱしゃりと一枚。次に景色をとるふりをして。ベンチにて難しい顔でページをめくっている阿部をドアップで一枚。阿部はあんまり写真は好きじゃない。カメラを向けるといつも。嫌そうにふいと顔をそむけてしまう。かくいう俺も決して得意とは言えないけど。
足裏に感じる芝生の感触が気持ちいい。コンクリートの固い感触とは違って優しく足を受け止めてくれる。その感触や緩やかに吹く風を楽しみながらゆったりと辺りを歩き回る。あ、鳥発見。白と黒の小鳥にカメラを向けシャッターをきる。するとこつりと足に小さな衝撃。目を落とすと足元にピンク色のゴムボールが転がっていた。とてとてとこっちに来た女の子。




「はい。」

「ありがとー。」




しゃがみ込み、小さなその手にボールを返すと照れ臭そうに笑みを浮かべる。その少し後ろでは母親であろう女性がぺこりと頭を下げた。




「ママと遊んでるんだ、いいね。」

「うん!おにーちゃんはなにしてるの?」

「んー・・・デートかな?」

「ふーん。」




ちょっと誰かに自慢したくなってしまい普段は絶対口にしないような言葉を思わず口にする。この距離じゃベンチにいる人間が男か女かなんて分かりっこないよな。女の子は俺の視線の先を見て、一緒にお散歩すればいいのにーと笑った。
ぶんぶんと手をふって母親の元に戻っていく女の子をこちらも手を振り見送って。先ほど視線を投げた先へと足を進めた。ポツリポツリと芝生に点在してるタンポポ。花壇の中の花のような派手さや繊細さは感じられないけど素朴さや親しみ安さを感じる。その黄色もカメラで切り取って。うっかり踏んだりしないよう気をつけながらのんびりとベンチに近付き、隣に腰掛けた。ぽかぽかと体を包むような日差しに頬が弛む。

あ、そうだ。巣山にメール返さないと。阿部に来週の予定を改めて確認すると平気だと頷きが返ってきた。ぽちぽちと[俺はOKだよー。阿部も大丈夫だって]と返信をうつ。ついでに返事をしてない他のメールやアド変連絡の登録をする。知らないうちに結構溜まってたな。ついつい登録後回しにしちゃうんだよ。こういうことしてるから阿部にずぼらだなんだ言われんのかな?
登録は忘れがちだけど、アドレスをみるのはなかなか面白い。すんごい凝ってたり。こっそり自分の誕生日をいれていたり。結構頻繁に変えるやつは変えるもんなぁ。
よし・・・完了っと。


うーんと伸びを一つ。思いっきり反り返ると視界に入るのは空だけ。こうすると、自分が浮いてるかのように感じる。そこでぱしゃりともう一枚。そのままぼんやりと空を仰ぐ。あれは恐竜みたいに見え・・あぁ、サイになった。うぅんなんだろ?つちのこ?その後も新幹線だのチューリップだのが登場し。次々と姿を変える雲相手にそんな1人遊びをしていたが暫くするとメロン、ポテト、スパゲティ、団子、ハンバーガー、おにぎりと、食べ物ばかりが顔を出すようになった。なので長閑な公園にて血みどろの殺人事件が巻き起こるミステリーを読みふける阿部をせっついて昼飯を食べに行くことにした。
阿部の手の中の小説はまだ半分くらいしか進んでいない。他のジャンルだとんなことないけど阿部はミステリーだと格段に読むペースが落ちる。なぜかと言うと読みながらトリックやら犯人やらを解こうとしてるらしい。俺だって犯人の予想はそりゃするけど。阿部みたいに筋道立ててトリックを考えたりはしない。たまに[こんなん文中にでてきてねーよ。]と1人腹を立てていたりする。[普通みんなやるだろ]そう言ってたけど絶対阿部のが少数派だと思うけどな。途中で本を閉めるのは気が進まないようだったけど阿部も腹は減ったらしい。しおりを挟み、パタリと閉められた。

どっかで適当に食おうかと思っていたんだけど。せっかくだし昼もここで食うかということになった。たまに無性にコンビニのおにぎりを食べたくなるのはなんでだろう?そう不思議に思いつつ入口をくぐる。棚を見ると新商品が結構出てて。流石春だな、とちょっと嬉しくなる。定番のツナマヨとか鮭にしようと思ってたけど桜エビの混ぜご飯とかしらすワカメとかにも惹かれてしまう。ただでさえおいしそうなのにnewってシールが貼ってあるとより惹かれてしまう。ちろっと阿部を見るとかごには既に梅干しやツナマヨが転がっている。そのかごに続いてお茶が二本放り込まれる。あのメーカーのは濃くて旨いんだよな。最近俺らはお茶というといつもあれだ。
さて、どうするか。あ!パンもいいな。ドーナッツ食いたい。蒸しパンも捨てが・・・あ!!シュークリーム!うおぉ、どうしよ。ふらふらといったり来たりする俺を見て阿部が小さく笑っていた。
結局最初に目に入った新発売の桜エビ。そして。ストロベリーのエクレア。それと半分ずつにしようと唐揚げとカツサンドを放り込んだ。そういや飲み物は酒って手もあるよな。その提案は俺におぶられて帰る気があるならいいけど。と言われてしまい。流石にそれは遠慮したかったのでそのままお茶。


[ありがとうございましたー]穏やかな天気にやられたのかなんだか眠そうな店員の声。その声に見送られて来た道を戻る。どこからか聞こえてくる鳥の鳴き声がのどかだ。
春はどこが優勝するかなぁ。残念ながら今年の西浦は惜しくも出場を逃してしまった。最近顔を見ていないけど、悔しがる監督の表情は簡単に想像することができる。[悔しがるなんてんなかわいいもんじゃなさそうだけどな]。その台詞にそれはその通りだなと思う。勿論選手の前ではそんなことないだろうけど。敗退した直後、花井はなかなか大変だったらしい。


俺らがコンビニに行っている間も太陽がせっせと暖めていてくれたらしく。触れた部分から温もりが伝わってくる。高校ん時もよく、ベンチで昼食べたな。今度久しぶりにグラウンドに遊びに行こうか。
ピリリとビニールをやぶりかぶりつく。うぅん、うま!!これはあたりだったな。ついと傾けるとパクリと一口。[あ、うま。]と呟いている。阿部は基本定番を突っ走るからな。俺なんかは新商品がでたら取り敢えず試してみるけど。まぁ外れるときも多いけどさ。目の前に出されたツナマヨを一口。うぅん、王道は強いね。平日の日中は殆ど人がいないのもここのいいところだ。遥か遠くにさっきの子だろうか。親子連れが一組見えるくらい。
[そういやいい加減タンスの洋服入れ替えないとな。][明日も天気いいらしいから明日やるかぁ。][そうだな。]
じゅわっと肉汁が染み出る唐揚げ。自分で作るよりも濃い目の味付けが新鮮でまたいい。隣の阿部も相変わらずよく食べるよなぁ。けど、旨い旨いと食べ進めていたその唐揚げはまさかの奇数で。真剣勝負のジャンケンは阿部に軍配が上がった。くそうっ、と拗ねつつデザートに突入。クリームたっぷりのエクレアを頬張る俺の姿をうげっとばかりに見る阿部はスルー。やっぱ食後のデザートはかかせないよな。甘いクリームにチョコレート。あぁ、完璧な組み合わせ。[間抜けな顔][うるさいよ]。ぽそぽそそんな話をしてたらこつりと足に小さな衝撃。

またボールかな?と足元を見てびくりと体が跳ねた。全然気が付かなかったけれどまん丸な真っ黒の目がこちらを見上げていた。くるりと丸まった尻尾。ふわふわの茶色の綿飴みたいだ。ふんふんと足にまとわりついている。[お。]嬉しそうな声を出した阿部が素早くベンチから滑り降りた。そのままわしわしと頭を撫でてやり。そんな力強く撫でて平気なのかと、見ているこっちが心配になるような手つきだと俺なんかは思ったのだけど。寧ろそれが気持ちよかったのか、短い尻尾をぶんぶんと千切れるくらいの勢いで振っていた。ちっちゃいなぁかわいいなぁと目を細めていたらそのわんこを追いかけやってきた飼い主が負けず劣らず可愛くて。少しばかり得した気分。そんなこと、顔には出さず応対したつもりだったんだけど。にっこり笑った彼女が去ったあと。阿部に嫌みっぽく[面食い]とぼやかれた。いや、別にんなこと・・・あるのか?あるのかな?・・・ふむ。
[そう、かも][認めんのかよ][だって阿部かっこいいじゃん。]うっかりそう返した時の阿部がどんな顔をしたかは長くなるからここでは割愛させてもらおう。要はとても面白かったということだ。向こう三ヶ月くらいはこのネタで笑えそうなくらいに。

爆笑した俺にぶちぶちと文句を言った後再び読書に突入した阿部。その横で俺は携帯ゲームをちょこちょこやったり、手帳をめくったりのんびり音楽を聞いたり。大好きなグループがアルバムを出したばかりだからこればかりをエンドレスリピートしている。あーいい感じ。ぬくぬくした日差し。それ以上に気持ちがいい隣から僅かに感じる温もり。んー。ほんと春らしいいい天気だ今日は。ふわぁと一つ、欠伸が飛び出した。






・・・あれ?俺寝てたのか。阿部の肩に背中を預け、いつの間にやら眠ってしまっていたらしい。もぞりと動くと[起きたか]と隣から響く低音。もう読み終わったらしく小説は脇におかれていた。もしかしたらだいぶ前に読み終わってたのかもしれない。動くに動けず悪いことしたなぁ。そう伝えると、別に構わない。そう返された。素っ気ない口調とは違って向けられる瞳がやたらと優しく甘いのが照れくさい。柔らかに降り注いでいた日差しもだいぶ傾いていた。今日の夕飯はどうしようか。冷蔵庫に野菜はそこそこあったけどメインになるような食材がなかったよな。スーパーに寄ってから帰ろうか。[肉が食いたい]もはやお決まりとなっている台詞に笑ってしまう。

唐突に、幸せだな。そう、思った。日差しはだいぶ弱まっていたのに。それでもふわりと、暖かな空気に包まれているかのようだった。幸せだな。そう思った。俺は、幸せだよ。胸の中、柔らかに笑う大切な人にそう言った。





桜が、咲いていた。
春だった。






平凡な日常にこそ幸せがある。というかどこの老夫婦?
とりあえずデジカメにはゆーとの寝顔もバッチリはいってると思う



あきゅろす。
無料HPエムペ!