「…………」
きゃはきゃは、と笑い声が聞こえる部屋の前で立ち止まる。手に持つお盆の上には湯のみが一つ。部屋の中から聞こえてくる声は二つ
「(足りない…)」
せっかく自分で淹れてきたのにこんな日に限って無駄になる
「(淹れなおすか…)」
少々めんどくさいが仕方が無い。でも二度も淹れるのは癪だから今度は誰かに淹れてもらおう
そう思いくるりと体の向きを変えた瞬間―――…
「入らないんですか?」
中から声が聞こえてきた。あぁ、気づいていたのか…と障子の前に行き
「はい、湯のみの数が足りませんので淹れなおしてきます」
そう言い足をすすめると部屋の障子が開きにっこりと効果音がつきそうなくらい笑顔の姫巫女様
「………」
開かれた障子の奥には小さな女の子がゴロゴロと寝転んでいた。その子に姫巫女様は言葉をかける
「真朱、そろそろ自分の部屋に戻りなさい」
「え〜」
俯せに寝転がったまま頬杖をつき、ぷ〜と頬を膨らませる少女に姫巫女様は優しく声をかける
「また後で遊んであげますから、ね?」
「う〜、分かった…」
まだ少し納得してない顔をしているが渋々部屋からでていく
「…………」
「これで湯のみは足りますね?」
少女が見えなくなった瞬間、先ほど少女にほほ笑んでいた笑みとは違う威圧感たっぷりの笑みを投げかけられた
「………失礼します」
「どうぞ」
敷居を跨いで部屋に入る。周囲を見渡すと案外綺麗に片付けられている。入ってすぐの手ごろな机に湯のみを置くと後ろからパタンと障子が閉まる音がした
「あの、わたし、用がすんだので…」
「せっかくですから、」
貴女が淹れたんでしょ?とほほ笑みながら目の前に迫った姫巫女様はわたしの肩を掴み無理やり座らせる
「私が飲み終わるまでここにいてください」
「え、いや…」
「あと二人っきりなんですから、その敬語もやめてください」
顔は笑っていても目は笑っていない、そんな表情をされて思わず固まる
「あ、ですから…」
「私の言うことが聞けないんですか?」
「…………」
はぁ、とため息を零しながら「我儘、自分勝手」そんな言葉が合うであろう幼馴染みを見る
「だから、ここにお茶を持ってくるの、嫌だったのに…」
ポツリと呟けば
「私は嬉しいですけどね」
敬語じゃなくなったわたしに気を良くしたのかにこりとほほ笑む姫巫女様もとい銀朱
「で、何か用なの?」
「はい?」
「いつもの銀朱ならこんなことしない…」
姫巫女と幼馴染み、この事実のせいで何かとわたしが呼び出される。それは頼られてると思えば嬉しいけれど、ただ使いやすいと思われてるのなら迷惑でもある。まぁ、確実に後者の方だろうけど…
「ただ私が貴女にあいたかった、それだけじゃ駄目ですか?」
「なっ…」
覗き込むように見つめられ不覚にも頬が熱くなる
「何言ってるの!?」
どうせ暇だからってわたしの事からかってる遊んでるだけでしょ!と言えば銀朱はポツリと
「言葉の意味くらい、分かってるくせに…」
「わ、分かるわけないよ!!」
いつもいつも銀朱はわたしをおちょくる。それが悲しくてついつい声を張り上げる。わたしは銀朱が…
「それだけなら、わたしもう戻る………きゃ!」
ばっと立ち上がると思いっ切り腕を引っ張られ畳の上に倒れ込む
「いたた…」
腰を打ち付け痛みに目を閉じていると体の上に何かのし掛かった
「え…」
「分かってないのは貴女ですよ」
「ちょっ…!」
わたしを押し倒している状態の銀朱から離れようとバタバタ暴れるが所詮は男と女、力で敵うわけがない
「私はこんなにも貴女のことを好いているのに」
「う、嘘よ…」
「嘘じゃないです」
わたしの目を見つめ顔を近づける銀朱に息を飲む
「いい加減、素直になりなさい」
お互いの呼吸が感じとれる近さで見つめ合えば自然と頬は熱をもつ
どちらかが少しでも動けば唇が触れ合うであろう距離なのに、心のどこかで期待している自分がいる
「(あぁ、もう…)」
(認めたくない)
(だけど、やっぱり、)
(憎たらしいくらい好きみたい…)
―――――――→
Dear 草原
素敵な企画ありがとうございました!
2007/12/16 水乃.
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