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台風警報#夏

私、杉下智早の部屋の窓からは丁度バス停が見える。近くて便利なのだけど、人の目が気になる今日この頃。
そんなことを思いながら、私は朝から夏休みの宿題に取り掛かっていた。特に真面目な人間ではないけれど、気が付いたら時計はもう昼の11時を指していた。

すると突然、ザーッという音と共に部屋の中が少しだけ暗くなった。雨が降ってきたのだ。きっと台風9号だろう、でも天気予報では明日の朝に関東直撃だったのに。

なぜかふと、窓からバス停を見る。人がいる。後ろ姿からして、男の人だろうか…傘を持っていない。風も吹いてきたし、第一この雨じゃバスも来ないだろうに。
私の心に不安が過ぎった。まさか、あの人帰れないんじゃないか、こんなにも雨と風が強くては帰れるものも帰れない、と。たしか、お父さんの大きな傘があったはず。貸してあげよう、と思った時にはもう飛び出していた。

「あのっ…」
「えっ?」
そう言って振り返った男の人は、若いお兄さんだった。不覚にも私の心臓はびっくりしてしまったみたいだ。ドクドクいってる。

「お父さんのなんですけど、良かったら使って下さい!」
そう言うと、お兄さんは恥ずかしそうに頭を掻きながら、言った。

「いやぁー、傘を貸してくれるのは有難いんだけど、俺ん家ここから遠くてさ、この風で借りた傘壊しちゃうかもしれないし。」
ああ、なんて優しい人だろう。でもここで待たせておく訳にはいかない。この雨と風で、私の足下はもうびちょびちょだし、お兄さんなんて膝まで濡れている。…そうだ、なら

「じゃあ、私の家で雨宿りしていきませんか?すぐここなんです。」
「えっ?いや、大丈夫だよ?迷惑かけられないし。」
「全然迷惑じゃないですっ!今日お母さんの仕事が休みで、フレンチトーストたくさん焼くんです。だから食べていってください。」
我ながら、こんな誘い方ってどうなんだろう。と、一人で考えていると、隣りのお兄さんはくすくす笑っていた。
「そんな風に誘われると、断われないな…じゃあ雨が上がるまで、お邪魔します。」


家に招くと、予想通りにお母さんは、たくさんフレンチトーストを焼いていた。それをお兄さんはおいしそうに食べている間、私の心臓はバクバク鳴りっぱなし。30分もすると、雨が止んで風が治まってきて、お兄さんは帰ると言う。帰り際の、「俺、笠井良介。」という言葉に、私の心がざわついたのは言うまでもない。

夏休みの宿題が終わっても、夏の台風が去っても、私の夏はまだ終わってない。


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