学パロ・従兄弟設定


「相棒」

空は赤い。
土手の乾いた土の上をからからと音を出して車輪は回る。
どこからともなく聞こえたカラスの鳴き声と少しの小川のせせらぎも混じえて、いよいよ気分は哀愁に拍車をかけるようだった。

「どうしたんだ黙りこくって」
「かえりたくない」

口を尖らせたのは後ろの荷台の上にまたがって足をゆらゆらぶらつかせている遊戯だ。
前でペダルを扱ぐアテムがわずかに目を後ろに向けると遊戯は地平線に傾く太陽をぼんやりと見ている。
もともと遊戯は人を困らせることをいう子ではない。
人の意見を第一に尊重する子だ。
だからアテムはそんなわがままをいうことは普段の彼をよく知る上で進歩だと思った。

「お前がそんなことをいうなんて珍しいな」

穏やかな声で問いかけるアテムに、遊戯は申し訳なさそうに俯いた。
放課後、自転車に乗る前はお腹がすいた・課題をやる為に早く帰ろう、和やかに口にしていた言葉がどういうわけか反転している今。
ゆるやかにまっすぐの道は続いている。

「今日の現国を思い出したんだ」
「現国?」
「うん」

遊戯とアテムはクラスが違う。
だから必然的に時間割も違うし習う速度も異なる。
アテムの授業に今日は現国はない。

「夕焼けを見ながら将来の夢を語った二人が事故で死んじゃう話」

まるで子供のようにアテムの背中に頭をごつんとぶつけて反動で自転車は少しだけバランスを崩した。
地面の小石があるはずなのにあまり振動がないのはアテムが予め避けてくれるから。
遊戯はそんな自然体でやってのける姿をいつも後ろで見ていた。

「約束を果たせないままって、何だか、悲しいよ」

ぽつりと呟いた遊戯は別に泣いているわけではない。ただアテムには寂しそうに聞こえただけ。
遊戯は感情移入がいい意味では素晴らしく、悪い意味では鋭すぎる。心が純粋で素直だから。
人が“たかが”ということも無碍にしない。正面から受けとめて向き合うすべを持っている。
今までずっと対称的だなんていわれた二人は当たり前に違う人間で当たり前に対称的ではなかった。
それを、アテムより先に気づいたのが遊戯だった。

「優しいな、相棒は」

そういうアテムの細めた瞳は以前と比べ、とても柔らかかった。
遊戯がアテムから貫ける意志を貰ったのと同時にアテムは優しさを彼から貰っていた。
強さの定義が異なる二人だからこそ、お互いが羨ましく・誇らしい。

「あと、少しだけ寄り道をして帰ろうか」
「うん」

いつの間にか背中で沈む太陽がいなくなっていた。
藍色の空は小さく星がきらめきだして、からからと響く音は二人の心に静かに染み渡っていった。






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22/2/28




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