夜の空気は重い。密閉した箱のように部屋が狭く感じる。
たちこめてはくぐもるその繰り返し。暗がりなそこはわずかな隙間から灯りを拾う。
それもこれも窓を開けるのは嫌だ機械を使うのは嫌だ、駄々をこねたからだったが今となっては良し悪しはもう七分三分。
彼が声を押さえてどれぐらいだろう。

「……」

緩急が理性と本能をずぷりと壊してゆく。喉から求めた空気は単なる声、それがさらなる羞恥を刻ませてじわじわ脳髄を侵した。
動悸と脈は体の熱に溶けて見据える先、彼は指先一つだけでもと力をこめるが吐息がそれを制止させた。

「…っあ…、ッ…」

肌をなぞる己の指が皮膚にはう汗を絡めとってまた喘ぎがだらしなくもれた。粘液が見える。
鼓膜を震わすそれは不意だといわんばかりに眉根をひそめ唇を血がでるほど噛みしめている。
ああとても。とてもユウエツカン。
そのへし折られた全てが治るわけはない、背中にまた“一つ”増えるだけ。
柔な瞳は要らない、だから憎しみをくれ。喰らわしてくれ。

「オマエはいいこだよ」

鬼柳いわく紅き痕はもう飽きた。散々埋めつくした後だから?そんな理由ではなくて。
嗜好を変え先日から内股の奥ばったそこへ鬱血の花を入れる過程から入る、なんとも奇妙な悦楽を産み出しては心底楽しむことを覚えた。
耳元で甘い囁きをするよりも強引に唇を裂くよりもありきたりは要らない。

「や…、…!…め」

恍惚をねじるのがたまらなく彼をおいやる。やける眼とやける唇、冷たい指先が麻痺をうながすと最近のお気に入りを再開した。
熱のよう潤む眼球は普段の遊星にはない。歪む唇に無理矢理指を押し入っても彼は親友を咬みちぎることなど出来ない。
ただ鬼柳はこういうだろう。咬みちぎられたってまだ左手がある薬指がある親指が小指が。お前が望むなら。つまりそういうことだ。

「がっ、ア!」

刹那、怯んだ遊星は背から首筋をえぐる痛覚に思わず指を噛みそうになるのをこらえた。
眩暈のしそうな体の火照りに僅かに開いた口からは鬼柳の指を伝い唾液がすでに汚れたシーツをまた湿らす。
その隙にまた背中に一つ、二つ、鋭い痛みは流れ続ける。
鬼柳は満足気に皮膚から牙――もとい歯を抜くと綺麗な楕円の痣は本日八つ目を迎えた。
紅く滴りそうな傷はアートされたモニュメントを思わせて鬼柳はそれを堪能如く舐めた。
もう名を囁いても返事もなくなった。
代わりに淫らに濡れた指と腰の疼きが皮肉めいた双眸を貫く。


罪状――愚かなオマエをまだ飼い馴らせれない。

この視界からオマエを隠そう。
そして呼んでくれ。
オマエにたゆたう俺が喉を舌を咬み切る前がいい。






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22/2/24





あきゅろす。
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