学パロ



階段をのぼり空をあける。
開いた世界はちっぽけな日常を謳う。
見上げたそこはいつだって広く照らしてる。

「遊星。こっちこっち」
「鬼柳」

担任からいわれ鬼柳を探しに出てほんの数分後、案の定 本人から呼び出しを受けて俺はある場所を目指した。
立入禁止の南校舎の屋上。
太陽と風向きが抜群で、なおかつ喧噪が途絶えたその場所は音楽準備室に続く鬼柳のお気に入りのひとつだった。
(音楽準備室はいつのまにか配置されたパイプ椅子と古びた机の組み合わせがいいらしい。よくそこでハーモニカをふいている)
どちらもこっそり拝借して作った合い鍵で、すっかり鬼柳の入り浸りの住み家だ。
今日も鬼柳はそのどちらかにいると思い天気を考慮した結果、そして案の定そこにいた。本人がそういってたような気がする。宣言してサボるのが鬼柳の妙なポリシー だ。

「どうしたんだそれ」
「んー?もらった」

屋上のさらなる高みに位置するタンクを背中にし、鬼柳は何かを作り出している。
見上げた青い空にとけこむふわふわした球体は光の屈折に光を放ち、鬼柳が息を吹き込むたびにうみだされる。 宙をただよう姿は水を泳ぐ魚のように優雅だった。

「お前もやらね?」

まるで無意識にそれを追いかける俺に、鬼柳はどこからともなくもう一つのストローを差し出した。 用意周到とはこのことだろう。 鬼柳の中では俺が迎えにくるのが当たり前で、引き戻されるなど二の次だということだ。だから俺の分がある。わかりきったことだった。 そして俺はいつも決まってつき合わされる。
しかしそれが嫌ではないから、鬼柳が調子にのるんだとクロウに毎回怒られるはめとなるのだ。

「俺達もう卒業だろ?別れる前にさ、思い出づくり。しよーぜ」

さて、どうしたものか。
今日はしばしの躊躇いの理由があった。本当ならば。
だがこののんびりとした心地好い空間に無粋なことは出来るならしたくない。 そう思ってしまった。
ゆらゆらと目の前に作り出される7色のシャボン玉に俺は目を奪われて考えをまとめる。
時間は短くとも悩んだ末、である。
結局・鉄のはしごをのぼると、あどけない笑顔の鬼柳の隣に腰掛けてストローを受け取った。 鬼柳の持つシャボン液の入る小さな容器に先端をつけ、くわえたストローから息を吹くとふわりと舞い上がるいくつものシャボン玉。
時の流れを無視してゆるやかに泳ぐ。揺れる。

「あそこらへんビル増えたよな」

目をこらえた先にあるのは田舎に作られた仮初めの都会の姿。
入学したころなんてまだ空地ばかりだった土地もたったの2年たらずで高層ビルやマンションが立ち塞がった。
その中を忙しなく毎日をこえて今を迎え明日に進む間に街はもう俺達を置き去りにする。
そして俺達もまたこの景色に別れを迎える。

「また、新たにビルを作るらしい」
「まぁたか!いっそ校舎立て替えてくれればよかったけどなぁ」
「おもにお前は食堂だろ?」
「そうだ!あとはだなー」

いくつもの変化を目の当たりにして、本当にぼんやりとただ昔を鬼柳はぽつりぽつりと振り返る。
懐かしい記憶とともに鬼柳の抑揚ある声が栄えて俺はそれに耳を傾けた。
行事や学業、学校生活でいつも中心にいた鬼柳。 そこにジャックとクロウがきて四人で色んなことをした。 楽しい出来事はもちろん、散々だった出来事も今となっては本当にいい思い出だ。
なぜだろう。あれほど明日に焦がれていた自分が嘘のように後ろ髪を引かれる思いに変わった。 その多くの要因は大袈裟かもしれないが鬼柳がいたからだ。 饒舌に語る鬼柳が寂しくないはずはない。 それをわかっているから会話を途切れさせたくなかっ た。


「よし。そろそろ練習おわったな」

鬼柳は太陽に照らされた体育館を眺めると満足そうに頷いた。
時間がきた。実は渋っていたのは鬼柳だけじゃなく自分もだったのだろうか。不意に物足りなさが芽生えてしまった。
そんなこともしらず、口には出さないが湿っぽいのが誰よりも苦手な鬼柳はとうとう一度たりとも練習に参加し ないまま、今日の卒業式本番を向かえる。 校門に並んだ桜を眺め2年。 開花は無いが晴れてよかったと思う。 次の満開を地上から眺めるのもきっと圧巻だろう。

「ところで鬼柳」
「んー?」

シャボン玉を片して立ち上がった時、大きく背伸びをし首の骨をならす鬼柳にふと途中から疑問に思ったことを問い掛けた。

「俺達は同じ高校へ行くはずだが」
「そうだな」
「いや、別れって」
「だからぁ、この校舎ともお別れしとこうぜってこと だ」
「…」
「はー散々サボりで世話んなったし最っ高の日当たりだったから惜しいぜ!遊星もそう思うだろ?」
「…ああ」
「あー高校も屋上あるかな」

マイペースに独創的、少し脱力。 そうだこれが鬼柳京介という人間だ。
苦笑した俺の頭を手でガシガシと屈託のない笑みで乱す彼はいつだってこうだった。 そしてさらにそこにはあと二人。 唐突に開いた屋上の扉に立ち塞がる影のお出ましだ。

「おい鬼柳に遊星!」
「っとに協調性のない奴だなーお前は」
「よークロウにジャック!」
「最後まで世話のかかる…」
「遊星も遊星だ!しっかりつれてこんか!」
「たまには、いいだろう」
「よっしゃ、お前ら行くか!」
「お前がいうな!」

春。 別れと新たな出会いを胸に、俺達は――卒業する。





*


flapの前物語的な。


24/12/12




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