寒い。まだ夜明け前だった。
隣に並んで、まるで息をしているかもわからないような遊星が起き上がった俺の腕を掴む。
薄らと開く紺碧の眼球はどこはかとなく泳いでいて力加減の引き合いは容易く解けてしまいそうだった。
遊星は繰り返した。寒い、と。真冬でもなければさほど人一人抜けようとも堪えきれないわけでもない。
朧げな意識の中で遊星は子供のように見上げた視線を送る。
隙間を埋めてくれ。空間にそう切なに語りかけている指の力なき束縛。
夢見が誰よりも悪い遊星は最近、口にはしないもの一人では睡眠をたりたがらなくなった。
それの流れが最終的に“コレ”になったわけで、言葉にしなくとも遊星なりの引き止め方を覚えたのだろうか。
どんな時も自分を殺し相手をたてる皮肉で虚しい犠牲愛。この年で一体いくつもの犠牲を望んで払ったか反吐がでると思ったくらいだ。
だから今さら奴の望みを問うのは本当に些細だ。
実際俺がそれを裏切るのは容易く、しかし結局空洞を見つけてしまったのは自らであることが堪らなく屈辱であったことはこのふざけた体勢の本人はしらない。
俯せになった体で首と顔だけを器用に動かしては遊星は不機嫌な催促の瞳を細めた。早く・戻れ。
いつでも順応そうなくせに頑固は変わらず、寝起きの生意気なのは年を重ねても健在中。殴り合いの喧嘩に発展したのも更新、中。
つまるところ俺から見ればまだまだ子供染みているとしか思えない。
いつも生温い友情に囲まれて、それなのに去る者には容赦なく付きまとう。遊星は神経を煽るのが無意味に上手かった。

「むー…どっきんぐー…」

月明かりに照らされて残り五つの内一つの影が動いた。
遊星の向かいに位置する龍亞である。そろいも揃って床の雑魚寝姿。
龍可は大人しく寝ているのに隣の龍亞の寝相の悪さはひどいもので、直撃しているクロウはずいぶん寝心地が悪そうだ。机に突っ伏しているのはブルーノ。
遊星は完全に瞼を閉じたまま意識は再び夢の中だった。腕を掴み続ける器用な図太さには感心する。
腕ごと乱雑に取り払うと偶然か否か、その手は行き場をなくし空を踊りながら横向きに寝転がっている十六夜の、腕に落下した。
鼻で笑い飛ばせば遊星は再び眉を寄せたようだが、聞こえてくる呼吸音は相変わらず一定だった。

いつからか、こんなことが当たり前になった。
もしも過去の自分が今の自分を見たら何と悲観するだろうか。あの時築き上げた全てを投げ生温い友情ごっこなどと憤るかもしれない。
だがそういわれたら返す言葉は当に決まっていた。
“絆”が今の俺にはある。一人よがりで生きているだけではけしてわからぬかけがえのないものを手に入れたと胸をはっていってやれるだろう。
散々と振り払ってきたものは実は1番近くに厄介にも寄生しており、今じゃ取り払うことなど不可能だ。
それも悪くない、と思った。


彼は冷たい空気のまとう朝焼けの街道へDホイールを走らせた。
ツンとした向かい風が頬を撫で暖かな光に満ちはじめていた。
それはおそらく世界の果てにある光。
そして、今日がまたやってくる。





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24/2/2




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