暖かな空気を生み出す機械の下、袖から出た指はそっとまるで衣服何てないように肌を舐め撫でることに夢中だった。
長らく。さほど長らくでないはずが鬼柳にはとても長く感じた。
開いていた雑誌のページの文字や写真を追いかけていた眼はいつしかその下でちらついて仕方ない無骨な指ののろい動きに集中を削がれたのだ。
しかしこれが単なる甘えでしでかしたことのほうがよっぽどよかった。彼はこれを一種の趣味に近い行為だという。
その上で声のない欲望を悟らせる。

「あーとーで。」

外した視線をなだらかな曲線美の持つ裸体に戻しながらページをめくった。
外身に騙されてハズすのはいわゆる化粧と同じで、さらけだされた女の顔は表情がなんとも作られたもので比例してがっかりした。
首から上はいっそないほうがいい。
作り出した瞬間が嘘くさくてはどんなに美しいラインも興ざめな仕上がりとなる。

「なぁ聞いてた?」

鬼柳の視線がどこを泳ごうが、またどんな制止を促そうがたえず執拗な愛撫に制圧の声を低く唸らせると、ようやく一度ぴたりと止んだ手は未練がましく離れた。
きっと顔をあげなくてもわかる。
遊星はいつだって名残惜しいことをしても顔色一つだって変えなかった。それが遊星の変化なき変化。

「仕方ねぇな」

開いた雑誌を指で挟み閉じて遊星の肩を寄せると容易く無防備に薄く開いた唇を塞いだ。
吸い付きながら角度を変えちろりと唇を舐めると遊星は待ち望んでいたのか同じように舌を出してくる。
それを押し込んで彼の口腔に割入ると遊星は懸命に舌を動かした。
ぶつかり合う舌先同士をねり、裏の筋を前後してやると遊星の肩はわずかに揺れた。

「はいおしまい。」

それを確認したら引き寄せていた体をぞんざいに離すと遊星は眉をひそめた顔で濡れた唇を小さく噛んだ。
気づかぬふり気づかない。
遊星は不服を言葉にはしなかった。
再び閉ざしていたページを開き女の裸体に目を向ける。
ああもう少し素朴でそのままであればきっとよかっただろうに。
評価をつけたところで女はポーズを変えたり媚びた目つきを変えるわけでもないが、ぱらぱらと代わり映えのない女達のサディスティックな眼やマゾヒストな眼はとても興ざめで美しく磨かれたボディだけが彼女達の価値を語る。

「何だよ?」

ふと、遊星の存在に違和感を覚えた。
耐え忍んでいたようにゆっくりと呼吸をしていた。
かすれる紙の音との合間に押し殺していた吐息を震えさせていた遊星の瞳は湿り気がある。

「?」
「まだ、」
「は?」
「まだ足りない」
「!」

ぷつりと理性の切れた遊星は鬼柳の首を強く掴み固定すると再度自分の唇を鬼柳に押し付けた。
それは一瞬のことで拒絶なんてとうに間に合わなかったからだ。強引に一心不乱に遊星は鬼柳の唇を貪った。
首に回された腕と固定をする手によって逃れる手間を足されたのは厄介だ。
いつの間にか体勢はずるずると後ろへ流れ、覆いかぶさるよう半ば馬乗りに跨がれた以上容易くいいわけは出来ないとソファに爪をたてた。
声がもれるわずかな隙間も逃さないといったところに遊星は歯がぶつかってもお構いなしだ。
唇を離すのは本当に短くてずっと涎が垂れっぱなしに衣服に染みを作るのを目というよりは肌で感じる。
熱い肌に冷たい刺激が心地好くて、欲望にうなされた遊星を見る暇もないのがただ悔しい。

「あと、一回」

熱い吐息をゆっくりと吐きながら長いキスを味わうように最後舌を唇にはわせ己の口内に戻すとふっと遊星は息を吸い込んだ。
のろく最後の唇が塞ごうとやってくる。
憎たらしい遊星の焦り無い唇に噛み付くように貪りついた体はその体をソファに沈んでいった。
ただ腰を動かすことが面倒だった。何もしなくてもそこに快楽をくれるから。
目があった先で遊星は唇からよだれをたらして舌を懸命に動かしている。前に頭をよせたら喉に達したせいで嗚咽をもらすとひどく苦しげに眉根がシワをきざんだ。
汗が流れそれはまるで蜜のように甘美だった。

「こんな生殺しのままで終わるかバカ」





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鬼柳さんがみてたの裸のオネエサンが沢山乗ってる雑誌です。
いやだって思春期だし?



24/2/2


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