現パロ



「遊星ーゆうせー」
「どうしたんだ鬼柳」
「体貸してくれ」
「ぶっ!!」

鬼柳の至って真面目な顔から出た爆弾発言は当の本人よりもその後ろで今夜の狩りの準備をしていたクロウに盛大な打撃を与えた。
飲んでいたお茶が勢いよく吹き出され、軽く蒸せかえる。
少しはひいてみろ!といいたくなる、多分何もわかっていないすっとぼけな遊星にすかさず詰め寄ろうとする鬼柳を目の当たりにしたクロウは大急ぎで正義の鉄槌をくらわせた。

「って!?何すんだクロウ痛ぇだろ!!」
「知るかそんなもん!!鬼柳!あれ程遊星に変なこと吹き込むなっつっただろこのバカ!!」
「はぁ!?意っ味わかんねぇ!!俺がいついった!?」
「そーか忘れてんなら親切にこのクロウ様がいってやる!今!まさに一瞬前だ!!」

お互い胸元のTシャツを掴みあい、それこそ唾が当たるぐらいの距離で言い合いをするものだから遊星が自然と弾き飛ばされたのはいうまでもなく。
きょとん・とどうするものかと戸惑う遊星に二人は正直お構いなしに続けた。

「ハッ、俺はなんっもやましいことなんかゆってねぇ!!今日このモンハン合宿においてここの旅館は抱きまくらがないから遊星をその代わりにしようとしただけだもんね!問題ねぇし!このムッツリめ!」
「問題がねぇだと!?大ありだ!!あとムッツリじゃねぇ!!」
「ああん!?じゃあなんだ俺に抱きまくらなしで寝ろと?つまり死ねということか!?」
「んなことはいってねぇだろ!たかが抱きまくらなしで死ぬか!!」
「たかが?」

ぴくり。
くだらない言い争いをどうするべきか、元はといえば自分が原因だということも忘れた薄情な遊星が止めに入るタイミングをうかがっていたところ、予想外の反応が出たことによってクロウはわずかに身を引いた。
あの遊星でさえ、目を吊り上げ異様に睨む鬼柳に言葉を飲む。
すごむ空気に押された時、クロウはしまったと今さらながら後悔をした。
大抵こうなると鬼柳の劇的に飛躍した話は長くなる。身振り、声の抑揚、内容、どこぞの新米劇団員かと問う演技力である。
途中で止めたって無駄だ。むしろ止められる者なんかいない。
巻き込み事故はいつだって一方通行・停止不可能だ。

「俺はなぁ昔から度重なる不眠を抱えていた…長かった…苦しかった…辛かった…悲しかったぜ…そしてその苦難を乗り越えようやくたどり着いた解決策が抱きまくらだ!!」
「…いやちょっと待て、そのセリフどっかできいたことあるぞ」
「クロウ、俺もある。前に十代さんから聞いた。確かあれは…」
「3世代を思い起こせる映画のDVD、Blu-ray好評発売中!!」
「お前は宣伝部の回し者か!!」
「遊戯さんや十代さんは元気だろうか…」
「遊星、ややこしくなるからもう黙っててくれ」
「そんな映画には一瞬しか出なかった可哀相な俺と共に夜を超えてきた戦友を…、まくら様をバカにするとはクロウ…ぜってぇ許さねぇ!!」
「いやいや明らかに私怨混じってんじゃねぇか」
「お前はいいよなぁクロウ!映画には長く出れてセリフもあればドアップもある、その上布団に入りゃあ三秒で夢の世界だからよ。俺の味わった苦しみなんざ一欠けらもわからねぇしなぁあ!!」
「はぁ?俺は別にそんなつもりじゃ、」
「いーや。“たかが”抱きまくらっていわれちゃあ黙ってられねぇ。“されど”抱きまくらだ!!」
「鬼柳…!そんなに悩んでいたのか……俺は…気づかなくて…」
「ううっお前ならわかってくれると信じてたぜ遊星…!」
「遊星、頼むから黙れ」

それこそ、肩で息をしながら言い放つ鬼柳の言い分は痛いほど切なるものだった。
大袈裟に泣き真似をしながら悲愴を訴える姿の必死なことときたらなんの。
だがクロウが今一つ煮えきれないのもまた事実である。
どうしてだろうか、素直に同情できない。したくない。
だが、クロウは不条理に折れることが出来る唯一の常識人だ。腑に落ちない展開にも悲しきかな、なれっこである。

「……わかった今回は俺が悪かったから謝るぜ。だ・が・な!」
「なんだよ」
「だったら予備のまくらか布団でも丸めて代わりにすりゃあいいだろ!何でそこに遊星がでてくる!!?」

そう、つまりはそういうことだ。
前者の話はこの際どうでもいいとして、まくらの存在を求める理由=遊星の図式が間違ってるからこそクロウは納得がいかなかった。
しかしいいきった本人は実にケロッと首を傾げ子供のような瞳を向けるのだ。

「えっお前知らねぇの?遊星抱き心地半端なくいいってこと。こう何とも言えない癖になる感が」
「誤解を招くことをいうなあああああ!!!思わずゾッとして鳥肌が立ったっての!!」
「あ、でも遊星は前からでもいいけど特に後ろからの…」
「やめろおおおおお!!」
「ッチ、だってお前やジャックは抱き締め心地良くねぇもん。頼まれたって嫌だね!だから…っいて!また頭殴ることねぇだろ!?」
「お前が悪い!!」
「く、クロウ」
「お前も感化されるな遊星!頭いいくせにそういうとこはバカだな!!」
「遊星はバカじゃねぇ!ずれてるだけだ!」
「どーでもいいわ!!」

クロウの鳥肌と怒りの沸点が達した時、すでに遅し。
普段あまり仲間内では手が出ないクロウでも鬼柳に厳しい灸をあたえなければならないとふんだ結果だろう。
屁理屈と理屈の罵りあいはもはやただのうるさい口論と称するだけ。
勢いに負け大人しく見守るという選択肢をとらざる終えない遊星もさすがにこの二人の会話へ再び飛び込んではいけず、右から左へ、左から右へ通過する言葉にいつしか諦めを決した。

「なんだ騒がしいな。クロウと鬼柳はまた喧嘩か」

と・そこに売店に飲み物を買いに出かけたジャックがようやく部屋に戻り現場をとらえた。
はじめは見守ることをしていたが段々と興味が反れた遊星は何食わぬ顔でPSPの画面に向き合い電源を入れる。
この状況説明が脳裏に浮かんだが極力面倒だったので適当をきめこむことにした。

「そうだな」
「毎度くだらないことばかりでよくやるな。今回も原因は鬼柳か」

手にしたコーラの缶を空け喉を潤す何もしらないジャックを相手に、とても自分が原因だとは言いたくない遊星は生半可に返事を返すとゲーム画面で肉を焼き戦闘態勢を整えるのだった。



*

モンスターハンティング、略してモンハン合宿の夜のこと。
多分この話だけならジャックが1番まとも。
遊星がお供をスタダと名付けてむっちゃ強化して溺愛してたらかわいい。
イビキの海月氏のかいたハグ設定をお借りしました。さんくす!



23/08/15




あきゅろす。
無料HPエムペ!