肌をかすめる仄かな熱に微睡みだしたのは仕方の無いことだったような気がする。
背中にまとう固いマットレスを押すように腹からかかる重力が現実味を引き出した。
柔らかい弾力が唇に残る。すっと、まるで随分と前からしっているようなしっくりとくるそれが始め何なのか、就寝前に窓の外で見た雲に埋もれる朧げな月灯かりのようすぐには捕らえられなかった。
うつつを彷徨う中で時間をかけて繰り返すついばみに次第に生温さを感じたところでそれが唇を塞いでいるということを理解した。
その間にも挙動は勤しむ動作が進み、熱が意識を波紋のように波打つ。
遊星はお世辞にもキスが上手いとはいえずどちらかといえば下手だ。
キスをするというよりは唇を押し付けるという表現が一番近いが、はたしてそれの一体どこがキスとはいわないか?そう聞かれても俺の知ったことじゃない。遊星が下手クソなりにキスと思わせればそれを俺はキスと呼ぶことにした。
ああ、閉じた瞼の向こうから息づかいが口内まで広がる。それは少し焦燥にかられるように忙しなくて歪んでしまいそうな唇をたっぷりと随時奥へ深くへと貪りつく。
イロイロ覚えたその舌が歯をねって侵入すると俺はただだらしなくそれに順応して急ぐ先を委ねた。
上下絡まる舌が口内を蓄える唾液を口端からこぼすと、その唇は名残惜し気にこぼれた液をべろりと舐め拭う。
震えるような吐息が深く吐き出され首筋から鎖骨へ曲線を描くかの如く下がり僅かな吸い付きが肌を傷めた。
無機質を支配するその冷たい指が鎖骨に触れた時、違和感となる。Tシャツの襟刳りを捕まれ伸ばし拡げるとそこへまた先ほどよりも長い傷み。その跡をしっかりと歯を立てて舐めとられた。
無骨な仕種がいやに可笑しくて所々の迷い指が未だ無知の名残を思い出させる。
遊星の愛撫は時々ぞっとする。撫で回すというよりねっとりとまるで接着する何かが付着してるかと思えるほど指先が肌から離れない。
汗を吸い行き来し強弱に変化をつけそれでも普段精密機械を使いこなすせいか不思議と繊細さが見える。
これだけみれば淫らなことも本人は喘ぎも囁きもこぼさずにそっと薄気味悪い微笑みだけを残して卑しい思考のフィルターで忙しい。
それでいて拙い仕草で首を傾げ本能のまま俺の上にまたがる。
ただ、悪寒に似た恐怖すら募らせるそれが堪らなくクセになる。
遊星の本質か異質かはこの際どうでもよくて、いつからか闇の漂う真夜中に訪れる悪戯に遊星もまた虜となったようだった。

そんな遊星のアソビはまだ続いた。
俺にまたがったその姿勢のまま今度は後方へ重心をかけ爪先に向かい下がり始めるとある一定の中途半端な場所でそれを止めた。
するとどうだろう。脱力したままの右手は感触から両手によって宙へ持ち上げられたようで、次の刹那中指の腹にざらりと濡れる温度を感じた。
ああ、また。
遊星は決まって指を好んだ。好きだと口にして聞いたわけではないが嫌いじゃないとははっきりと口にした。
嫌いじゃない・は、遊星の中でいわゆる特別な言葉だ。だから遊星は自ら指に対して価値をより多く見出だしている。
それが林檎が好きという意味と同じで、ただ指という魅力に恐ろしい程執着をしていることを除けば普通のニュアンスに違いない。
指が性器の形の化身ということを知って以来、遊星が見つめ動かし舐めるたびにそれがひたすら軽薄で卑猥な行為に見えた。
時には傷を負い、血液を滴らせたあかつきには傷口をえぐる気なのかと思えるほど止血という名の貪りが待っていた。
感情無きモノへまるで感情を訴えかける素振りで遊星は指という一つを過剰に愛でた。誰でもない俺の“指”を。
俺には正直そこまで指に取り憑かれた遊星の気持ちなんてこれっぽっちもわからない。それなら気のむくままに腰を振っていた方がよっぽどいい。
物欲しげに目で訴える遊星をほくそ笑みではぐらかす方が愉快で実用的なオアズケだ。
どうしたい?選択を預けると遊星は迷う。そして眉根をしかめて口を微々に尖らすのだ。
勝手にすればいいといってやれば触れることさえ躊躇ってひそやかに愁いを出してすがる目を向ける。言葉にはしない。遊星はそこが他の奴と違って利巧だった。
そんな性格が時々面倒で時々浅ましい。それがたまらない。
今、一人遊びに夢中な遊星は相も変わらず執拗に出し入れを楽しむのかと思えば第二関節まで含むと舌で撫でられる指は爪を噛まれ、様々な角度を弄りては他の指へも強引に移動しまた戻り、指紋を潰すかと思えるほどふやける愛撫。遊星は丁寧に懸命に楽しむ。
喉から渇いた声が出ることだろうか。身じろぐこともなくただ傍観でもなく傍聴に馳せ、暗闇の中に鋭く尖らせた微かな音だけがこの戯れを支配し彩るとカタカタと揺らす外気と隔ての薄い距離がさらに遊星の醸し出す音を引き立てる。
水音がいやに響く。否、わざと。
それが首を絞め苦痛にもがく最中の一瞬として過ぎる不毛な快楽に似ていることから、この状況下を遊星は自ら無意識に望んでいた。
夢中になる乏しさ飛ぶ瞳が下で顎まで涎を垂らせて舌を這わせてる猥らの欲望。

しばらくしてようやく遊星の唇から解放された指たちは付着した唾液を遊星の手によって拭われてシーツの上に丁寧に戻された。
渇いたシーツがいやに冷え冷えと置き去りにされた手を迎えいれる。
一つの仕種を終えるたびに遊星は疼いてまたがる足を動かす。些細な揺れ。
遊星はおぼつかない手取りで生半可な熱を蓄え硬化してしまったソレを取り出すとくわえたぬめる先端を本当に柔く歯で噛む。
視界を閉ざす中では反応が意識と体で異なる。加減を学んだ舌でまるで旨く指と同じ過程を歩むかと思わせるほど奥まで含んだ時に今が宵闇であればいいと切に思った。
漆黒にこのまま粘液の放出をしてしまえばいっそ楽だろう。このままならそれが叶う。でもそれじゃあ意味がない。誰でもない遊星自身が。
口から性器を引き抜かれ身震いを感じた。背を撫でる心地好い快感。拡がりゆく毒の仕掛け。
肌をさする渇いた夜が熱に充満した甘美とは程遠い夜へと化ける。

「……っ、挿れたい……」

熱をじっとりと孕んだ声が耳元でか細く囁いた。
ついに堪え切れずに鼻で笑みを飛ばしながら徐々に光源を眼球に取り入れる。
遊星の跳ねた髪が頬をくすぐり離れると節操ない唇はてらてらと濡れた艶が滴れてきそうだった。長らく空白の暗闇から解放された先には両膝、両手をついて覗き込む遊星。見上げると上下する肺の動き。
頑なになった指に力を入れて宙に浮かせると重みに沈んでいたせいでとても意思速度よりも鈍い。
遊星の紅潮した左頬を撫でると瞬きを数度繰り返し急かす眼に宿るふしだらな欲求がにじむ。
まるで引っかくように下降するとぴくりと歪んだ眉。
吐息を惜し気もなくたらして開いた遊星の水気を帯びた瞳の中には薄く笑う卑しい俺が居た。
誘惑に酔った頭部を強引に寄せると期待に満ちた僅かな喘ぎ声が漏れたことを遊星は止めなかった。
俺は耳元に唇を添わせ、そっと囁きをこぼす。

「どっちを?」

挿れたいか、挿れてほしいのか言ってごらん―――

淫靡を搾り出す遊星の言葉をただ俺は髪を撫でながら舌舐めずりをして待った。



*

遊星の夜ばいビッチ妄想が高ぶって出来ちゃった作品。
なんとイビキのげっちゃん宅に素敵遊星バージョンがあるよ!こちらから。


23/5/25






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