寒い日、だった。
吹き荒れる外の風と冷気を遮断した室内は暖かく、むしろこんなにも熱かっただろうか?
背を濡らす薄ら汗と反らせなくなった瞳の行方は歯痒いじれったさを生唾を飲むことで逃がした。

鬼柳が熱いといって冷凍庫からアイスを取り出したのは本の5分前にも満たない。
それなのに俺にはそれ以上に長くのろく、些細でささやかに俺を喰い殺す時間にすぎなかった。
矛盾した体感温度で陽気にアイスを食す鬼柳が口に含み滴らせた様、不意なる刹那。
暖気に晒されたアイスは通常よりも溶解速度が上がり、重力に沿い棒を流れ手の指にまず絡み付く。
唾液と溶けたアイスと絡める舌はてらてらと蛍光灯に光り、なんと官能的に食すのだと作業の手を止めさせる。
舐める、仕種。執拗以上になる水音、喉に流れた液体。
全てがただひたすらに目を奪わせて、服に染みを作ったバニラアイスは驚くほど甘く芳醇な香りを生み出し鼻腔から意識へ犯した。
胸が疼く、この締め付けるように滲む熱はなんだろうか?
鬼柳の舌が欠けたなだらかなアイスの形状にぴたりと淫らに滑るとまたひどく己の口腔の乾きを感じた。
指につくバニラの液体を爪の先まで丁寧に舐めとり舌が掌を過ぎ手首まで這って唇が離れればもう少し、もっと奥まで、まだ。
口に出していえるはずもない。
俺は離せなくなった双眸の葛藤に身震いを必死に堪えた。
口に指を押し入れ掻き乱し、己の指にバニラと唾液がまとわりついたらそれを丹念におのが口腔に入れれたならばこれ以上の至福はない。

「きりゅ、う」

もう後には引けなかった。
こぼれ落ちる懇願の瞳をようやく捕らえてくれた鬼柳は微笑んだ。
ただ溶けたアイスが床で液体になり鬼柳は手招きをしてしなやかに唇を動かす。
躊躇いはとっくに消えた。
ふらふらと引き寄せられた恍惚の先に鬼柳がいる。
俺の名を呼ぶ口が舌がある。
夢中で貪る口腔はいつしかバニラの味を殺し血の味に変わる。
鼻をかすめるその香りが堪らない。
くぐもった声を押さえて舌を懸命に伸ばした。
むせぶ息の通路を遮ると背中に込めた爪が食い込む。
もっと、もっと。

すると突如引きはがされた体と手で塞がれた唇。
鬼柳は俺より背が高い。だから少し見上げる形で中断された行為に不服を無言で訴えた。
声が出なかったというほうが正しく全身を俳諧する熱に欲望が前のめりをするのだ。
服を掴み近づこうとする距離を鬼柳は顔色一つ変えずに保ち続けた。
締まりのなくなった口からは涎が鬼柳の指を過ぎ顎からまた落ちる。
物欲しげな顔だなと鬼柳は耳に唇を寄せて囁いた。
薄い上唇が耳に触れた次の瞬間、ねっとりと舌が穴を掻き混ぜ下半身に伸びた指が弄んだ。
突如の快感に現れた不本意な声に羞恥が込み上げて自ら口を閉じた。
鬼柳の手がするりと顔から離れる。あれほどもどかしかった制止の蓋が今度は羞恥を暴くだけのものになりその手は首筋へと移動した。
徐々に離れた距離がまた戻る。
食らいついていた形のいい唇が目の前にあるのに今度はそれからただ離れたくなった。
違う、離れなければならなかった。
濡れた舌がちろちらと動き、唇をなめづって音を出す。
堪能していた口腔を涎が出るほど欲っするのに涼しげな目元の笑み・まさぐる指は強く刺激を与え視界を下へ落とさざるえなかった。
そして額と額がこすりつくと俺の吐息は小指一本満たない距離で吸われていく。
首筋に添えられた指がべっとりとした汗を柔く撫でた。





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2010/12/17






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