靴音が去り静寂に見舞われた時、長い空白の始まりを告げる。
口内を満たす血液の味が意識をねっとりと呼び起こす。
光りに魅せられた網膜に張り付く残像が目の前を何度となく繰り返されて閉ざされた休息の世界へは行けない。
雨・軋む体・折れた、絆。なんと脆く醜いのだろう。ちっぽけな自尊心を削るなど出来ないと思っていた。それ程自分を誇っていた、なんてことはない誇りを容易く躙ることなど造作ない、と。
囲われた鉄を掴むことも諦めた。切れた喉がやがてじわじわと膿むといよいよ体は鉛をくるむ。
光の消えた冷たく硬いコンクリートにただひたすら時を重ね、飢えていく。
心がずるりと蝕まれまた喰われた。
希望・約束・存在の、ありか。

鼓動の止め方をふと考えるようになった。
指に染み付いたカードの存在がかすむ視界に映されては消える。
一枚ずつほむらの中へくゆらせて屑灰となった塵は裏切りものと名を囁きとり憑いた。
共に過ごした魂の欠片のカードは永久の死へ入口をこじ開けられ、散々人殺しの道具として操い続けた俺は今だ死を迎えいれることを無様に躊躇う。
戒めと称する永久の罰を拘束され暗い闇のいざないだけが優しく待っている。
何もない。何もかもが無くなった。
体を刺す痛みも想いをこめたカードも、信じ続けた心さえも喪失した。
飽きられ捨てられ腐敗しては孤独に俺は消えてゆくのだろう。

生まれ変わるなら自分がいい。
ただほんの少し時をずらして、笑えたらそれがいい。
きっとまた違う出会いをしても、いつかきっと出会ってしまう。ただ、そんな気がした。
だから、望まない。

「不動…ゆう、せい…」

鉄格子から狭い空が見える。
暗雲が立ち込めよどんだ湿り気のある生暖かな風が独房へ毒を巻くそれは知らせ。

「………く、くく」

閉ざされた闇へ引き戻せるならば、この癒えぬ修羅を与えることが出来るなら。全てを代償に冥府から蘇えりし復讐の業火を宿し天をえぐれ。
絶望に溶けた光を吐き汚す時、この眼に彩りが戻る。

「…死ぬほどの、…苦しみを……!!」




世界は廻る。
ゆっくりと鮮やかで残酷な幸福を招きながら死の螺旋を見下ろす。
そして俺は世界に見離された。






*


24/2/2


あきゅろす。
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