瞳の奥で闇を裁く光が襲う。


ナカで出すのが嫌だと女は言った。
それまで微睡みに夢中で腰を振っていた俺には随分興ざめな言葉で、反対にこの女の屈服することでもしてやろうかと熱にうなされた頭で思い描いたのは単に一言でいうならこの時の自分はまだ幼稚で浅はかだったからだろう。
ひどく捻くれるように荒っぽく引き抜き痛みを訴える女なんぞには目もくれず、形成されてしまったどうしようもない種をご希望通り肚にぶちまけたところで女は怖ず怖ずと怨みがましく訴えた。
なぜやさしくしてくれないの、どうして、なんで。
お前気持ちよくねぇもん。外は雨が降り出していた。女の泣き声を乱すように灰色の雨音に飲まれる冤罪の雨。
中途半端な気怠さのまとう俺はさっさと廃屋を出ていった。

口うるさい女も嫌いだったが口数もない女は大嫌いだった。
そんな女は大抵挿入の感覚に見る見る顔を歪めたと思えば発狂して手に追えない。
好奇は始めの頃少しだけあったが女の欲望が傷みに変わると疑問はそのまま流れ、俄然どうでもよくなった。
繰り返しては単に快感以外に理由は求めなくした。それが安易で愚かなワケをひた隠しする。
だが適当に一連の流れに身を任せかといえば女は必ず欲張る。
勝手に満足して酔ったあかつきに濡れた腰を揺らす。鼻をつく臭いを放つ。
それに俺は妙にはっきりした意識の傍らで描き続ける至高をただただ馳せて、仕方なしに舌打ちなる光景に目をつぶり指を早める。
鮮明に細かく微々を逃さぬよう吸い付く異なる肌から出来るだけ強く。
汗が足れて強く掴んだ指の痺れと悦楽を掛け合わせ勃起まで詰めた。
望んで下にはいつくばった女の髪を掴んで口に押し込めば白濁はようやく放出し唯一の高揚を得ると耳につく声で鳴いていた女は甲高い声をあげ泣き叫ぶ。
喉を食う嗚咽と飲みきれなかった種をもう一度奥地へ押し込み、べっとりとした手は床にちらばる脱ぎ捨た女の衣服で拭った。
眠たい、体から抜けない疲労と不満を抱え町を彷徨う。
サテライトに女はそれほどいなかったが0ではない。
そうした処理が出来るならと見境なしにする奴らばかりの中、獣は益々増える一方でそれこそがこの黒黒ずむ町の象徴だろう。
汚いものが流れては欲するを吐き出す。腐ったのは何も食べ物や建物だけではなかった。

ある夜、明け方を迎えるであろう頃に帰宅した俺に遊星は声をかけた。
こんな時間に起きていたことに驚きはなかったがジャックやクロウが居なくなってからはいつも遊星は俺の帰りを待つ。
背を濡らす汗が冷ややかで今すぐにでも着替えをしたかったが水分で渇いた喉を潤しながら遊星の話に耳を傾ける。
こぽりとペットボトルの液体が揺れた。
なぜこんな無意味なことを、何の意味があるのか。遊星は確かに躊躇いながらもそう口にした。
瞳が合わない。女を抱く回数が増えた頃から遊星は俺と分かつことを徐々に少なくし、日に日に時間をかけ意識しないように距離をはかりはじめた。
暗がりだから視線が合うことがないわけではない。意図的に合うことを遊星は避けていた。
だから俺はなにがとも聞かなかったし遊星は不安をまとい必死に声にならない訴えをかけてくるのに対し俺は驚くほど涼しく理性を保つ。
もうやめてくれ、鬼柳。そんなお前をみたくない。
遊星の懇願に満ちたそれは一体何処から“虚実”を見つけてきたのだろうと、ぼんやりと考える。遊星らしい、遊星しかいわない純粋で愚かな問い掛け。
一歩、前に出た。
遊星は過剰に反応をして顔をあげると意を決し俺の肩を掴み同じ疑問を繰り返す。
ようやく紺碧に俺の瞳が映された。

「なに。お前、唇切ったのか」

思い描くより緩やかに声がでた。遊星は一瞬目をひそめて肩を持つ手を緩めた。
かさぶたを作る柔く温度を蓄えた下唇は僅かな光源ではうっすらとしか見えなかったがこの距離ならば肉眼でも確認出来る。
親指の腹を沿わせると口を舐める癖のあるそこはしっとりと濡れていた。
遊星は反射的に俺の手を勢いよく払いのけ後ずさりをしながら我に返り悪いと心底申し訳なさそうに眉を下げて声を搾り出す。
俺じゃお前の力になれないのか、室内に共鳴した遊星の声はまたたくまに冷めた理性にひどくまどろむ。
それが如何に愚かで滑稽なのか、開けてはならない蓋を遊星は開いてしまった。
いつも答えがないわけじゃない。
いつも答えはいらなかった。
己に巣くうがそれが明確になればなる程あさましい欲望で闇に紛れる。濃く深く重くさらなる下層へ沈んでゆく。
汚れた体で触れられる無垢なお前。
脅えた瞳で無知を語るお前。
唇に弧が描かれる。
頭を掴み壁に強打した体で咽せ返した息さえも惜しいからこぼさぬように塞ぐと遊星は肩を上下させて崩れたい体を支えた。
壁に這うようについた手を拘束し体を覆い重ねると益々腹から込み上がる焦燥と笑殺。
加減はない、思慮も要らない、目の前にずっと望んだ全てがある。
お前は俺が気づかぬフリをしてきたそれを安易に破壊する。それ故・いとしい。
遊星の反応一つで歓喜する指の震えに拍車がかかる。食らいつき噛み付いて爪を立て、先程の女とは異なる膨らみのない引き締まる胸部の突起に押しつく。
なれないまさぐりが混乱から自ずと抵抗の色は濃くなるが在り来たりなことがひどく愉快でたまらない。
過敏に一つ一つに荒げた濡れる吐息と必死な首ふりに頬からは熱に侵された汗が湿り、すくい舐めると塩の味に声が高揚する脳に麻痺へと化す。
すっかり硬さを見出だした突起を放り出し次にヘソから下半部へ押し寄せるとつい数時間前まで自分が湿らせていた遊星のそこは既に熱く膨脹し始めて次第にぬめりを絡ませる。
猛々しい雄として初めての機能に戸惑いを隠せない遊星は羞恥に声を殺すことを覚える。
壁に手をつき爪を立てて快楽に悶えてなお背から引きはがせれない密着した体を解くというよりは惨めな声と涎まみれの口に蓋をすることで精一杯だった。
滴る分泌液が滑りをよくしたことで焦れるようにゆっくりと爪先で円を描き上下をする。
揉みしだくたびに痙攣が遊星を襲い食い込む指の力に遊星は腰を揺らすことを懸命に我慢した。

「口開けよ」

液体にまみれた手を一気に抜き口を塞ぐ遊星の手を剥ぎ取る。
唇を撫でてやりながら手に余るものを塗りたくると恨みがましく幼い瞳を向ける同時、頭部を一気に下へ押すと腰を曲げてバランスを崩した遊星の体勢は全体的に前屈みになり頬が壁に添う。
よろけた力無きその状態で引き下げた衣服の意図も遊星には考える間もないまま痛みを体に走らせた。
身がよじれる程に完全に入り切らないそれを受け入れられない体はあれだけだらしなく開いた遊星の唇を一気に閉ざし濡らした唇を噛んだことでも衝動に中和されない。
割りに人の忠告をまるで聞かないのは遊星の悪いところだ。舌噛み切りてぇのかよ、俺の叱責の声も今は届かない。
壁についた両手は食い込み爪がいつ割れてもおかしくない圧力で遊星はただ痛苦の声を発狂じみて出さざる終えない。取り乱した呼吸すらもそれから逃れる為に足掻く。
うなだれた頭から涙か汗かあるいは唾液か、抑制しきれないそれらが床に足れる。
もはやあの理性の高い遊星は消えた。静止を必死に枯れ枯れになる喉から繰り返す。
その間にも挿入する局部から腰、背を駆け巡る悦楽の波にただただ俺は眩暈がしそうだった。
味わうことのなかった恍惚は紛れもなくこの刹那を想い馳せていた。絡まる本能の性に鮮やかに溶け込む。
だが引き下げる遊星の腰を支えさらなる欲望の快感を得る為に奥へめりこませるが異物の侵入にひどく拒むそこはきつく締めつけに苛まれ距離が詰めれない。
今さら力を抜けといったって加減の勝手もわからない器用も持ち合わせない遊星には酷であり無意味な注文だ。
一方の手をさらされた遊星の局部へ再び戻した。
硬化して十分な大きさと熱を持ってはいたからそれを出来るだけゆっくりと根元から共に愛撫する。
後押しされ痛覚に混じる快楽に少なからず順応を見出だすと呼吸が一段と荒げた。
すぐに反り起つ陰茎から白濁が放出された時ようやく俺の全てを飲み込むと上下している肩がすぐに強張る。
白みだした外の明かりに消えてしまう前に拡散する意識を確かに繋ぎ止めた。
朝焼けに鈍く照らされた遊星は目を伏せて息苦しく咳をきらして淫らな喘ぎを震えだす。
体を離せばすぐにでも崩れる、支えるには重い幼子のような空ろ。
そして結合部から吐き出された淀んだ白濁に交じる僅かな赤はまがまがしく反射した。
膨張が収まりぬるりと引き抜いた途端におびただしくもこぼれる温かで汚れた液体に遊星は目まぐるしい吐き気を催すと解放された体はようやく床へ崩れていけた。
見下ろす中で遊星はただ身を縮め虚弱な眼から涙をこぼし俺の名を小さく切れ切れに繰り返して瞼を閉じた。
しじまに漂う一片の安らぎはそっと離れてゆく。
ずっと、暗闇の中を歩いてきた。
そこに何があるかもわからないまま俺は閉ざされた鈍色の世界を恨み走り続けてきた。
それなのにこの胸に疼く痛みは、まだ埋まらない。


「…そうだ。まだ残っていた…これで全てが終わる、チーム・サティスファクションの最後が」




この日、太陽が闇に食われた時美しくも脆い流れ星は目の前から消えた。






*

遊星が鬼柳さんから離れていった日の朝の出来事。
ここから甘く重たい苦難がそして始まるのです。

22/1/28





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