やわらかな、温度。

「………」

まばたきをして俺は事実を確認するように目前を見つめ返した。
あの頃からずいぶんと大人になって色んなものをひっくるめて俺たちは月日を重ねた。
新月の宵のごとく突き刺すような硬い髪も声も背も伸びて、変わった。
あの頃はこんな未来になるなんてとても想像がつかなかった。

「ゆ、せ」

焦点は相変わらず丸い瞳を隠した瞼に定めたままつっと指先でおそるおそる触れると、眉根をあげてはしかめたものしばらくすればまた呼吸を上下させる。
その仕草にふいっとそっぽを向いて唇を掌で隠す。
あの頃と、ほんの少し違うことが沢山増えた。
それでも当たり前に傍にいてくれて光をゆくすべを、共に歩いてくれた。
静寂の空間に寝息はとてもよく響く。息づかいが震わして今度は指先をそっと捕まえる。
何だか無性に泣きそうになってしまった。
温もりに触れて心地よい場所にいられて僅かに繋がるソレから伝わる全てに俺はがゆい痛みを感じる。
暖かくて優しくて残酷な在処は俺をとらえて離せないと知ってしまったから。

「ごめんな…」

難しそうな顔をして遊星は身じろいをした。
返事に対してではなく彼は夢を追うとして俺を捕まえない。
閉ざされた瞳は何を求め写すのか、わからない。
前髪を払い顔をさらけだすといつになっても無防備な寝顔は幼い。
マーカーを爪で柔く確かめるように強く何度も触れる。

「お前はばかだな…、ばかだよ」

視界を記憶におおわれた。
心地よい暗がりの中、悲鳴をあげていた俺を殺してくれたあの日から、忘れようとしていたことに気付かされる。
優しいお前は一生俺を責めない。
それが一生俺を責める。
不器用に触れた全てが今も昔も俺を締め付けている。
想いを寄せしがみつく弱い自分が何よりも愚かだと気づかせる。
俺たちは向かい合って手が届く距離で見つめた先にお前がいる。
どれだけ満たせば満たされる?
どれだけ満たせばお前は救われる?

「き、りゅう…?」

その目が全てをからっぽにした。





*

不満足先生と遊星


22/12/15








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