※中学パロ


自分が特別と思ったことはない。
ただ化け物だというだけ。


意識を集中させて指先に力を込める。ただそれだけ。
それだけのことで金属はゼリーみたいに容易く直角に曲がった。何本も何本も何本も家中のスプーンを手当たり次第試したらついに曲がらないスプーンは見つからなかった。
娯楽番組の、ほんの些細な特集だった。テレビ画面の中で次々に曲がるスプーンやフォーク。
単なる好奇心は幼い自分にはとてもきらびやかに見えていたからだったに違いない。
床に転がるスプーンとフォークの残骸を目の当たりにした両親を前に得意気にやってみせたのに、自分が望む反応は何一つかえってこなかった。
ただ怯えるように見てはいけないものを見るように目を背けた。
たったそれだけのことだった。

中学に入って何度も転校を繰り返した。
両親の仕事の都合、ではなくて自分の不可思議な力のせいで。
畏怖なる眼はどこへいっても同じ。噂はまるで腐食速度と重なるように拡大する。
救いを求めた何度も何度も。だけどそれは知れば知るほどこころの溝をえぐり絶望を促すだけ。
居場所なんてどこにもない。
誰も必要としない。
では何の為に私は生きているのだろう?
怪我にまみれた体をさする。破られた教科書を拾う。無くしたモノを諦める。
悲しくてももう涙は出なかった。
胸が痛くても言葉にすることを忘れた。
だから何も、いわない。
やがて閉じる世界など興味がなかった。
見上げた空がただ青くて私には眩しすぎた。私の存在をかすめてしまう太陽が恐ろしかった。

差し伸べられた手を容易く取ることなんて出来ない。
見返りを求める人間の性を知っている。アレは出来てコレは出来ない。
求められることに疲れた。
掴んで離すくらいならもう触れない。要らないもの。


「アキ!!」

それなのに壁は何度でも容易く打ち破られた。
どんな厚い壁もその言葉で行動でわたしを貫いてゆく。
罵倒も暴力も意味はない。私にない強さが彼にはあった。
初めて触れた手が温かい。涙がでるくらい優しい温もりだった。
畏怖もない真っ直ぐな瞳、私を慰めるのではない叱る声。
本当は寂しかった苦しかった辛かった。
ひとりぼっちで、怖かった。
逃げて逃げて逃げて繰り返しては何度でも受け止めてくれる、その温もりが嬉しかった。
小さな“わたし”をいつも見つけてくれる。
人に甘えることがこんなにも歯痒くせつないくて困難だと知った。
涙が止まらなくなってせきをきらしたように泣き続けた。
言葉ともいえないようにわんわん子供みたいに泣いた。
溢れだす感情に、どうしていいかわからない。
そして長く伸びた前髪を書き分けて涙でぬれた頬を両手でくるんで彼はいった。

「他人に信じられたいならまず自分自身を信じろ。そして他人を信じろ。俺はお前を信じる」

それは魔法よりも早く凍てついた体に染み渡る。
厳しく、けれど甘くやわらかに。
穏やかな微笑がふりそそぐ。

「ゆう、せ…い」

涙はもう止まっていた。
揺れる視界の中でたたずむ彼は静かに微笑み続けてあやすように頭を撫でる。
ずっと欲しかったもの。
それは目に見えなくてずっと自分が持っていたもの。






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22/4/26






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