く


嘲 笑う

鼓膜をつんざく旋律の雨が滴る




吐息を震わせて背なから意識に行き交う麻痺に支配された体を呼び起こす。
俺の肩に顔をのせ遊星はだらしなく熱の孕む呼吸を行き急ぎ、生暖かな液体が肩から流れこぼれる感覚がした。
唾液は火照る体を焦らすようにゆっくりと伝うものだからその緩急が憎たらしい。
まずその目が口が表情が見れないのがとても残念でならない。
だが眉をひそめ溶けた瞳は一体何を映して濡れた唇はどう開くのか、俺はそんな想像にはせることがたまらなく愉快で恍惚に笑む。
汗で湿った背中に腕を回すと肩がにわかに揺れた。左右それぞれ上下に波を描き滑らせる。
先ほどの手淫から始め、爪の細部まで潤いを持つ指は難なく遊星を再び揺り動かした。
穴から粘液は生温かく吐き出して浮いた腰と引き剥がし仰け反るための微かな力を抱き込んで制圧する。
すると抜けきれず沈んだままの欲望がごぽりと遊星を鋭利についばむ。
声にもならない擬音に緩んだ腰だけ引き寄せて肩に再び埋めた顔を引き剥がした。
嫌悪と興奮が色濃くとてもよく混ざっている。
汗で張りついた前髪を払うことを拒み、静かに肺から吐き出した呼吸。その唇はてらてらと蜜を塗った艶。
重ならない双眸は唯一のハンコウキだ。指をねじ込んで口を割ると綺麗な歯列が備わる中は簡単に侵入を許す。
舌を引っ掻くとむせることを抑え、迷う眼球は素直にならず弱く瞬く。
熱に紅潮する頬が遊星を昔のように幼く見せる。あの、頃のように。
これほどの至福を伝えるすべがない。
火照る体が冷え焼かれ、繰り返ししてきた獣の行為はずっと響き続く雨音を惑わせる。ほんの一時でいい。かき消してイけるなら。

ひどく冷たい牢獄に繋がる格子窓から死の囁きが何度も聞こえた。
傷はさらに膿み、まどろむ記憶が孤独と絶望をとめどなくえぐる。
今も残る。消えない、消えない。
鼓膜に痕が呻き枯渇する感覚さえ。
一体どうしたら消えるのか、一体どうしたら雨音が止む?
流れた一滴が膝の上にまたがる遊星の太股に落ちた。


「 き、 りゅ」

爪を鋭くたてた。
遊星の鎖骨に頭部を置き傷みに唸る声をもっと絞るように。
胸から腹へ筋が生まれ、褐色の痣と交ざりゆく。
鮮明に身体が奮う。
骨の髄まで唸る己の謳う悲鳴のこだまが甦る。
肺から喉へ口へ押し出して嗚咽が止まない。触れるこの体温すら贖罪を責め立てようだった。

「俺は…ちが、!…ち…ちがう!おれ、のせいじゃ…ちが、う…!!」
「っ鬼柳、落ち着け!」
「さわ、る…な、さわるなさわるな!!」
「っ!」
「アァァアア!!」

永遠という言葉が嫌いだ。
永遠は容易く裏切り、重圧に絞めあげて“記憶”の断面を永遠に繋ぐ。
逃げれない、逃がさない。
それなのに光が眩しい。
喉から手が出るほどまばゆい光を求め続け掴んだそれはなんて脆い幻。
羽根から鱗粉をまきちらしてはオカされた白い花はもう咲かない。
毒の根を張り巡らせて養分を腐敗させる。

「鬼柳ッ!!」
「はなっ…はなせ、はなせえ!!」
「…い、やだ」
「お前さえ!!お前さえいなければ!!」
「泣くな、っ…頼むから、泣か…ないで、くれ…」
「お前さえ…!お前が!お前、が…!おま、えが」
「きりゅ、う」
「、おまえがいなくちゃ…!なにも…なにもできない、のに…」

この優しい強い瞳は虚言より呆気なく真実より重い。
だから好きだった。嫌いだった。


「もう…殺してくれだなんだいわねぇし死にたいとかは言わねぇよ。だけど…刺殺でも撲殺でも溺死でも銃殺でも絞殺でもいつか殺されて死ぬ時がくる」
「やめろ、やめてくれ」
「俺はそれだけのことをしてきたしお前にもした」
「違う、…」
「遊星、聞いてくれ。俺はお前の傍で死にたい。だからもう」

男ただそう呟いて寂しそうに笑った。


「おいていかないでくれ」







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H22/3/22






あきゅろす。
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