「獏良くんご飯に髪ついてるついてる」
「え、嘘、うわぁ…」
「髪結んだ方がいいよ」
「僕そういうの不器用でさ」

昼休み、昼食をとる私たち。
遊戯は先生に呼ばれて本田と城之内はグランドに駈けていっていない。
珍しく二人だけなランチタイム。自分はすでに食べ終えて彼がもうすぐ終えようとしている時だった。
少し、以外だった。
彼の容姿はどちらかというと女の子みたいで例えばふわふわとした砂糖菓子みたいな姿をしている。
柔らかく笑ったり優しい眼差しはそれこそ他の女の子をとろけさすには十分で、そんな彼が不器用という事実がアンバランスだと思った。

「私でよければ結ぼうか?」

なんだか子供のように箸を加えて試行錯誤している姿はとてもかわいらしい。
余計なお世話かな、なんだか背中をさす視線が痛いような。
そう感じた時、ゆるりと視線を合わせ彼は微笑んだ。

「じゃあお願いしようかな」

正直、首を傾げお願いをする素振りはもはや女の自分より女の子らしくてかわいげがある。
素の彼は一歩間違えればちょっとだけタチが悪い。
勿論いい意味もあるんだけれど、まぁなんていうかそういうこと。
考えても埒があかないので私は頭のもやを振り払ってカバンから使い慣れたブラシを取り出した。

「ご飯食べてていいよ」
「お言葉に甘えて。」
「うわぁ髪柔らかいね、さらさらしてる」
「そうかなぁよく絡まるけどね」

座る彼の後ろに立って髪にブラシをいれた。
気持ち少しだけ絡まった髪を丁寧にとかし一つにまとめてゆく。
太陽にあたるとなおのこと、光る髪は言葉でいうならきっとうつくしいというのだろう。
わたあめみたいだと前に遊戯がいっていた気持ちがよくわかる。

「いいなぁ羨ましい」
「お前だって髪綺麗だろ」
「そんなことないよ」
「そうかなぁ」
「そう……、だよ」
「どうしたの?」

ちょっと待った。
わずかに首をあげてハテナマークを浮かべる今、これは獏良くんで間違いない。
だけどあの一瞬偉ぶって鼻にかけたような言い種は聞き覚えがある。
前にも、というか最近。

「…バクラ」
「えっ」

そうだ、これはもう確信。
全てにおいてわざとらしいこの驚きよう、雰囲気。こういうのを第六感っていうんだと思う。
やけにじっとりとした沈黙が流れた。
それでもっていい加減折れたのかやっぱりといっていいか、しばらくするとくつくつと笑みを噛み締めた背中がうかがえる。
箸を乱雑に投げ出してまたしてやられたと嘆くのは果たして何回目だろう。

「ちっバレちまっちゃあ仕方ねぇな」
「バレバレなのよ!」
「あっそ。いてっ」

ごつん。軽く頭にげんこつ。あくまでも本体は獏良くんなのでおもいっきり出来ないのは残念だけど本人は少しも悪びれる素振りもない。足を組んでえらそうに。
本当にいつもペースを乱すことが大好きで小馬鹿にされる気分。

「おい髪」
「は?」
「髪途中だろ」
「いやよ。あんた獏良くんじゃない」
「ああん?宿主には優しくて俺にはずいぶん手厳しいなァ杏子。じゃあ・ま、邪魔くせえから切るか」
「え」

なげやりな返事を返したのも束の間、ごそごそとどこからともなく取り出されたのは切っ先が驚くほど鋭利でぞっとするハサミ。
どこかの機械猫かあんたは。
でもそんなツッコミをいえるほど落ち着いてなんかいられない、こいつはやるといったら本当にやりかねないから恐ろしい。
でも何よりも周りの目が気になる。

「や、やめなさいっ!あんたの体じゃない!!」
「じゃあどーするかわかるよなァ?」
「……」
「ヒャハハハ!」

結局。言いくるめられるのが結果だ。
高らかに笑い飛ばす頭にまたこづいて作業再開。
ゆるんだ襟足を丁寧に取り直して後頭部に集めると、やっぱり彼ではあるが彼でない髪は皮肉にも柔らかかった。
ただニュアンスでは違う。温かみを持たないような、そう雪のような寂しそうな色。
こいつも遊戯と同じで長い間眠りについていたのだろうか。ただ一人、暗いリングの中で。
だからこうもひねくれたに違いない。
私はこいつのことは何も知らない、から。

「あー天気いいなぁ…このままふけっか」
「馬鹿いわないで」
「こんな日にオベンキョウだなんだそっちのが馬鹿だろ」
「頭動かさないでよ」
「おーワリーワリー」

それなのに高飛車と思えば素直に謝ることも出来る。
ずっとそうならよかったのに。そうすれば少なくともこっちも態度を改め直すことを考えたかもしれない。

「杏子」
「何?もう出来るわよ、…よしできた」
「お前の髪の触り方くすぐってぇ」
「え?」
「宿主に譲るなんて勿体ねぇな」
「は…?」
「つーわけでオレサマ専用」
「ちょ、それ」
「じゃあな」

結び終えた同時、軽やかにわたしの横をすり抜けてゆく。
とても速くて遅い。おかしい?だってそれしか例えが見つからない。

「ど、どーするのよ………コレ」

無造作に置かれたままの空の弁当箱をただおぼつかない手つきで片付けるしか、なかった。






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22/3/10 








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