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薄明かりの部屋で



 機械音にふと目が覚めた。入口に備え付けられた機械が光って来客を告げている。前髪をかきあげながらのろのろと床に足を下ろし、スウェットから制服のスラックスに穿きかえようかと一瞬思ったがまあいいかと思い、そのままドアに向かった。時計を見れば、2時を回ったところで、少し意識がはっきりしてこれば、緊急でもないのにこんな時間になんだろうと苛立ちが湧いてきた。これで酔っぱらった下士官だったら蹴飛ばしてやろう。

「はい」

 通話ボタンを押してドアの向こうにいる相手に声をかけると、沈黙。酔っ払ったのか寝ぼけたのか、どっちにしろ睡眠を邪魔されてため息が出た。とりあえず廊下に出ようとした瞬間、声が聞こえた。

『遅くに、ごめん』

 機械ごしな上にとても小さかったけれど、俺がその声を聞き間違えるはずもなかった。どうしてこんな時間に、こんな場所に。驚いてドアを開けようとした手を止める。

「いや、いいけど…どうしたんだ?」

 声がかすれてうまく出なかったのは、寝起きのせいだけではなかった。ドアに触れようとした手を、意味もなく閉じたり開いたり。士官用の宿舎にこんな時間に軍の、国のトップである人物がいる理由が分からず、制服に着替えればよかったと頭の隅で考えていた。

「そこで、そのまま聞いてくれ」

 どんな姿で、どんな顔をして君はこのドアの向こうにいるのだろうか。その言葉は命令?

「あの…誕生日おめでとう」

 言われてようやく自分の誕生日であることを思い出した。わざわざそれを言う為に来たのだろうか。もう彼女とはしばらく距離を置いたままで私的なやり取りをしたことがなかったから、戸惑ってありがとうとも言えず立ち尽くしていた。

「それ、言いたかっただけだから。お休み」

 お休みと言われてようやく、目が覚めた感じがした。ドアを開けて、もう俺の部屋の前から離れているカガリを視界に入れる前に走りだしていた。常夜灯の下の彼女は一応お忍びらしく、私服で、上着のフードをかぶった姿で足早に階段に向かっている。俺の足音に一瞬振り向くと、彼女もまた走りだした。

「待ってくれ」

 必死に手を伸ばして、彼女の肩をつかんだ。思ったより自分の声が大きく静かな廊下に響いて、辺りを見渡すけれど誰も出てくる気配はない。事務所の人間は多分カガリに言いくるめられているから出てこないだろうが、ここで立ち話するのはまずかった。

 カガリの手を引いて、自分の部屋へと戻る。カガリは小さく、戻らないと。と呟いたきり、もう何も喋らなかった。

 さっきは気付かなかったけれど、小さな包みが部屋の前におかれていて、それを拾い上げて部屋に入った。

「こんな恰好で御免、適当に座って」

 明るい場所で彼女の顔を見る勇気がなく、寝ていた時と同じベッドライトだけがついた状態でその姿を眺めた。正装以外を見るのは久しぶりだった。昔のように男っぱい恰好だったけれど、もう男には間違いようがなかった。フードから長くなった髪が少し見える。

「私こそ、すぐ帰るつもりだったんだけど…」

 お互い会話にもならないような言葉ばかりを言いながら突っ立っている。

「わざわざ来てくれてありがとう」
「ううん。こんな時間にきて悪かった」

 沈黙。次に何を喋ろうかと考えていると、カガリの唇が先に動いた。

「…最初に言いたかったんだ」

 自然と手が伸びた。一歩踏み出して抱き寄せると、昔から愛用している香水の香りがして懐かしい気持ちになった。

「ありがとう」

 彼女が小さく震えた。愛おしいという、封じ込めていた気持ちが溢れて、その体を壊してしまいそうなほどきつく抱き締めた。彼女はまた小さく、戻らないと。と呟いた。

「ごめん」

 明るい場所で君を抱きしめられる日は、まだ見えない。それでも、君はまた俺の腕の中に納まって、ぶっきらぼうな言葉を呟いてくれていた。








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