短文
2013.09.08(日) 17:30
ガイナタ
※ちょっと汚い表現があります。



魔獣を弓で射る姿は凛として美しいが、安堵したことにただ当たることを喜ぶだけの競技でないことは彼女も承知していた。
殺傷能力が他の武器より劣る分、離れていることは出来るがそれでもリスクはある。
戦いにおいて同等とは言わないまでも等しく存在する。

ふとガイがナタリアを振り仰いだ時、接近してきたソレに至近距離から弓矢を射たところを見た。
少しだけ肝が冷えた。
ほっと胸を撫で下ろして彼女の足下を確認した。
光を宿さなくなった瞳。
絶命したソレが濁った目をして彼女を見据える。

返り血を浴びた彼女は頬に掛った生暖かい体液を純白の手袋で拭うと、何となしにため息をついてみせた。


「温かいですわ」

汚れた、と言うのかと思った。



ゆらゆらと洗面器に浮かぶ血の落ちない手袋。
白が紅黒く染みをつくり、茶色く広がって全体を被っていた。
直ぐに洗うことは出来なかったし今回は捨てたほうが良いのではないかとガイは思って、ナタリアに言って汚い物を持つかのように――実際に汚れているので語弊はないが――摘んで歩き、捨てた。


彼女は、また、純白の手袋を着ける。


気品溢れるそれは、誰もが彼女をキムラスカの姫君と見なくても、ただのナタリアとして出歩いたことがない彼女にとっては、必要のものなのだろう。


汚れた手袋を捨て、翌新しい白を着ける。

宿の客室から食堂へと出てきたナタリアの手袋を見て、血に汚れた王家は白を取り繕って民と交わってきたのだろうと、何となしに考えて彼女に朝食の石窯パンを渡した。

味気ない食事。
いがみ合っているとは言わないまでも、共に行動することが苦痛という位には好き合っていないのだろうメンバーでの食事。

沈黙を咀嚼して、アニスの漏らす鋭い言葉に苦笑いを零す。
ナタリアの皿から物音なく無くなっていく食物に、綺麗だなと思いながら手を進めた。





今日食べた石窯パンは何処まで出てきたのだろうか。



無慈悲にも去っていく仲間を横目に、目を細めてこちらを見据えるルークを視界に捉えた。

何処か気分が悪そうなルークに、言葉を掛けようかと思ったが、そのまま足早に去っていきそれで良いと胸を撫で下ろす。


嗚咽を漏らした後、はあっはあっと苦しそうに身体を丸めて掌を木に押し付けて支えるナタリア。
もう片方の掌はこちらに向けて暗に来るなと伝えてくる。
そんなことをしなくても、ガイ以外はもう誰も居ないのに。


草むらの隅で呻くナタリアにお構いなく休憩をする少女たちに目を向けて、またナタリアへと戻した。

油汗を額に浮かべ、嘔吐感を嚥下して必死で奥まで飲み込もうとする様子は見ていて苦しい。
どんなに出すまいとしてもすっぱい悪臭は臭ってくる。
寧ろ一度嘔吐してしまった方が楽になるだろうに。

背中をさすってあげようかと一歩彼女の方へ足を踏み出すと、ナタリアが涙を浮かべながら必死で唇を噛み締めているのがよく見えた。


片手に持っている水をぐっと持ち直しながら、ああ二度目だ、と思う。

初めて人を殺した、という人を見るのは。


「分かっていると思うけど……泣くなよ、ナタリア」

「………向こうへ、行っていてください」


ガイの方へと向けていた掌を口元へ持っていこうとして留まり、手の甲で口を押さえた。
掌には人の血が黒く付着しており、見るだけで思い出すのだろう。

振り抜いた弓矢が肉を貫く鈍い音と、相手の射殺さんばかりの鋭い眼光と、低く呻く声と。
生に執着を見せる人の死に際は綺麗なものではない。
強い眼差しが、絶望に染まる。
その瞬間を目の当たりにしたのだ。


行ったのは、人との、死のやりとりだ。


もしかしたら殺されていたかもしれない。

生き残った安堵と、興奮と、罪悪感。
命を摘み取った実感。
その人物の表情と対峙した、生きた背景。
無情にも全てを飲み込んで、消化しなければならない。


うっとナタリアは顔を沈める。

涙が頬を伝った。

仕方ない、と思う。生理的な涙だ。


物語のお姫様は吐いたりするのだろうかと、どうでも良いことを考えながらしゃがみ込んで彼女の薄い背中に手を回した。

消化液と共に吐き出された朝食。
低い呻き声に冷たい体温。
汗と異臭と震える肩。


高潔な彼女には全く似合わないそれに、ガイは歓喜とはいかないまでも高揚する自分を自覚していた。

ガイが失って、また二度とたどり着けない場所に佇んでいた彼女が、勝手に堕ちてきたと思った。

彼女もまた道徳面でいうところの罪人だ。

彼女の背中に折れた翼を想い描く。
ゆっくりとその背をさすりながら可哀想に、と心の中で呟いた。

これで皆やっと仲間だ。

胃液まで出てきたナタリアに水を飲むように促すと、彼女は振り返って苦笑するガイを胡乱な瞳で見てきた。
きっと人を殺めて平気な顔をしているガイが信じられないのだろう。



「君が死ななくてよかった」


最もな台詞を吐き出して水袋を彼女の血にまみれた手袋に押し付けた。






end
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CP要素薄いですか。ガイナタです。
女性陣みんな手袋白いよね、とかいってみちゃったりなんかしちゃったり←


2013.07.31(水) 20:34
ガイナタ



たまに、この子は頭がおかしいんじゃないかと思うことがある。
おかしい、とは何とも曖昧な表現でそれを言うと不快な顔をされるのが常なのだが。
しかし、それが率直に頭に思い浮かんでしまうのだから仕方がないだろう。
上手く言えないのが、何処かおかしい、ということだ。


「俺の好みねえ。それを知ってどうするの、ナタリア」

「どうともしませんわ。誰に言うという訳でもありませんし」


早く教えてくださいと、指を組んで落ち着きなく視線を彷徨わせ頬を染めている姿は可愛い。
かなり可愛い。うん、可愛い。
もう一度思う、可愛い。

何この子、俺をどうする気なの。
何なの、むしろ可愛すぎて怖いんだけど。


「……女の子の好み、だよね」

「だから、そう言っているではありませんか」

むっとしたように見上げてきたナタリアと目線を会わせてガイは大人しい子、と告げた。

「小さくて、儚くて、何処か守ってあげたくなるような子。笑顔がころころ可愛くて、気が利いて、俺の一歩後を付いてくるような、無意識に俺を立ててくれそうな、そんな子」

かな、と首を傾げ笑みを浮かべながらナタリアを見据えていると、言葉を噛み砕いていたのだろう、少し放心したように光を浮べていなかったペリドットの瞳が徐々に潤んできた。

ショック、だったのだろう。たぶん。

何か声を出そうとして、嗚咽を漏らすことしか出来なかったナタリアにまた可愛いと思う。
小さく唸りながら必死で涙を出さまいとしているナタリアが見れただけで何となく得した気分だ。

別にナタリアの泣き顔が好きなわけではないが、俺の所為で泣きそうになってしまうナタリアがいつも可愛いのだから仕方ない。


「私、ガイに好かれる自信がありませんわ」

「いやいやいや、何言ってんのナタリア。俺は君のこと好きだよ」

「気休めなど入りませんわ。もういいです!」

後ろを向いて走り出そうとするナタリアに、ガイはもう笑うしかなかった。
何なの、本当おかしいんだけど。

「何処をどう捻じ曲げたらそうなるのさ」

ナタリアの腕を掴んで振り向かせると、いやいやっと首を振って逃げようとする。
ふわりと舞う髪の花の香りに胸を疼かせながら、バカだなあと声に出して言った。

「好みなんか聞いてきて、どうぞ苛めてくださいって言っているようなもんだろ」

「そんなつもりはありませんでした!」

「あのね、若干期待をされながら聞かれて、望み通り言ったら、つまらないじゃないか」

正に絶句。
そう表現出来る顔をしたナタリアに声を出して笑う。

「正直に言えば、恋人が一番好きに決まってるだろ」

「……それは、私のことですわ」

「それ以外いちゃ困るんだけどね。世間体考えても」

ため息をついて見せたが、ナタリアは気にした様子を見せなかった。

困ったように、でも嬉しいのだろうはにかんで笑うナタリアにガイも嬉しくなる。
何だかんだ、最後にはやっぱり彼女に喜んでもらいたいのだ。

あーもー堪らなく可愛い。

照れたように口元に手を添える様子も、もう誘っているようで、吸い寄せられるように顔を近付けると、瞬間きょとっとしたナタリアが口を開いた。


「でも、ガイの好みに私が当てはまってないのは確かですわ」

「……頭おかしいでしょ、君」


雰囲気台無しにしてくれたナタリアに、でも可愛いときつく腕の中に閉じ込めた。






end
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辛辣さを前面に出したガイ。

2013.07.31(水) 20:34
ルク→ナタ



――唐突にそんな気分に襲われた。


そんな気分とは、足場を失ったような、ぽっかり胸に穴が空いたような、じくじく痛むような、喪失感だ。
ぐらぐらして、笑顔が固まるような、咽返るようなそれ。

しかし、その時はそれほど明確に表現できるようなものではなく、何となく、に留まる程度だった。


「ふーん、物好きな奴もいたもんだな」

「私もそう思います。まあその物好きが貴方の身内な訳ですが」

「アッシュなあ、愚弟だがよろしくなナタリア」

「長くお付き合いさせてもらえるよう頑張りますわ」


にっこりとナタリアは笑った。


弟のアッシュとナタリアが付き合うことになったらしい。

どちらかと言えば、アッシュよりも俺の方がナタリアと長い付き合いで、ナタリアのこともよく知っている。
しかし、アッシュがナタリアを好きになって、ナタリアもアッシュに惹かれた。
その経過を近くで見てきただけに、付き合うのも時間の問題であろうことは分かっていた。

付き合うなど、火を見るよりも明らかなことだった。


「ルーク、どういたしましたの」

いきなり心配そうに近付いてきたナタリアに驚く。

「なっなんだよ、ナタリア」

「何って貴方、こちらの台詞ですわ」

泣いているのではありませんか、とナタリアの言葉に視界が少し歪んでいるのが分かった。

「何かありましたか」

「何ってわかん、いや眼にゴミが入ったんじゃねえの」


顔に手をあてて、それっぽくしてみたがゴミが入っていないことは自分では分かり切っていた。

分からないが、己の内側が冷えている感じが分かった。
何だこれ、と思いながら気持ちの良いものではないなと思った。




ナタリアと別れて、家に帰って、先に帰っていた弟と顔を会わせた。

こいつがねえ、と眉間にシワを寄せて睨み返してきた弟に鼻で笑って、手を洗ってうがいをして部屋に閉じ籠るとテレビゲームを始めた。
携帯が何度か鳴ったが無視してゲームに集中する。

何時間経っただろうか。
窓の外は真っ暗で、電気も点けずに行なっていたことに気付く。

視界がいきなり悪くなり、コントローラーから手を放して目元に指を当てると湿っていた。
今度は驚くことなく受け入れることが出来た。
指を擦り合わせて震える息をゆっくりと吐き出す。


「……俺ナタリアが好きだったのか」


喪失感を自覚して、いきなり煮えたぎってきた感情を抑える術がわからず、椅子にしていたクッションを弟の部屋側の壁に向かって投げつけた。






end
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現代パラです←

2013.07.03(水) 07:53
ガイナタ



サモワールの摘みを回して温めてあった真っ白い陶器のティーポットへ湯を注ぐ。
コポポッと小気味よい音が聞こえてくると共に多目に入れた茶葉が膨らんでくる様子が見えた。
紅い茶葉をポットの蓋が、その上から花柄のティーコゼーが覆い隠す。
一連の動作を見ていたナタリアがほんの少し期待を含ませながら給仕を見上げれば、温められたカップを手に取りつつ苦笑された。
待っててね、と暗に言われて瞬きで返す。
テーブルにコンッと置かれた白砂の砂時計が時を滑った。



「ガイってさ、気持ち悪いよな」

ルークのあまりの発言に、斜め向かいでミュウの毛を梳かしていたティアはため息をついた。

「貴方、あそこまで尽くしてもらっていて、よくそんな事が言えるわね」

尊敬するわ、と冷たい眼を向けられてルークはむっとしながらもいやだってなあ、とソファに寝そべりながら奥のテーブルで行儀よく紅茶を待つナタリアに視線を向けた。
隣に佇んでいるのは給仕基元使用人の伯爵であるガイだ。


砂時計が最後の一粒まで落ちると、常温のミルクを先にカップに入れて片手でポットから紅茶を注ぐ。
ナタリアが純白のミルクと琥珀色のお茶が合わさる様子を見詰める。


「アッサムをベースにした特製オリジナルフレーバー。紅茶とミルクの対比も、琥珀色の濃さも、温度も全てナタリア好み」

次いでに言えばカップもナタリアが好む花柄をあしらったものとまでくる、とまああそこまで徹底してるって鳥肌ものだろ、とルークは言う。

「……貴方もよくそこまで知っているわね」

「隣で見せ付けられて、あまつさえ毎回飲ませられれば嫌でも分かるっての」

「分からないわよ」


お茶に好みなんてものはないがルークはストレートティーを所望する方だ。
しかし、ナタリアはフレーバーティーを好む。
使用人時代だってガイはナタリアが来訪すれば一度ティーポットを下げる徹底ぶり。
好みを熟知してる時点でどうかと思うが、それを飽きることなく爵位を取り戻した今でも行なっているというのは、如何なものか。


「でも、あそこまで行なってもらえたら嬉しいわね」

「ミュウも好きなものがあったら、いつもニコニコですの!」

「黙れブタザル」


ルークはソファから起き上がると先程ガイが入れてくれた、もう冷めてしまっているそれに手を付けた。
渋味がない良いお茶だ。

丁度ナタリアもカップを手に持ってすんっと香りを楽しむと一口カップに口付けていた。
飲んだ後、ナタリアがふにゃっと笑ってガイを見上げると、ガイも嬉しそうに笑みを浮かべた。


「このクッキーもガイの手作りなのよね」

「はいっ!甘さひかえめですの」

「……俺もう腹いっぱい」






end
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ナタリアにただ喜んでもらいたいガイ。
ホッと息をつける瞬間を与えることが出来るのが嬉しい。そんで誰にも譲りたくないから続ける。


2013.07.03(水) 07:50
ギンナタ



意地が悪い訳でも、大切にされていない訳でもない。
背中にぺたりとくっついてみても反応を返してくれないのは、それだけ集中しているということなのだろう。
寧ろ少し後ろが煩わしいと思っているかもしれない。


聞こえるのは彼の用紙を捲る音と時々書き込みをする音だけ。
呼吸さえも聞こえてこない。
温かい背中が上下して呼吸を繰り返しているのが分かるくらいだ。

同じ仕事でも、機械をいじっている時は近付くことが出来ないのだから良い方なのだろう。
いや、勿論作業姿を見るのは好きなのだけれど。
そう思って、ナタリアは少しだけ頬が熱を持つのが分かった。

求めれば受け入れてくれるし、優しく笑みを向けてくれる。従者のように奉仕はしてくれないが、ベタベタに甘やかしてくれる。
その分、求めなければ程よく距離を置いてくれるし、目で訴えてみても気付かないふりをしてくれる。
あ、そこは甘やかしてくれない。

上手く掌で転がされている気がしなくもないが、それが好ましかった。
何でも言う通りにならないところが良い。
彼には彼の世界があって、ナタリアの分からないことが多いのも、さらりとそれを熟してしまう彼を見るのも好きだったりする。

どちらか一方通行では成り立たないと。
二人寄り添って少し妥協したり、我がままを言ったりして築いてきたそれも好ましい。


「ギンジ、仕事は終わりそうですか」

「やることに切りはないですよ。こういう生業だと」

「……ベルケンドの最先端技術評論は読んでいて楽しいものなんですの」

「そうですね。これから何かヒントを貰えたら良いなと思います」


ちらりと見てナタリアにはちんぷんかんぷんだったそれを、熟考しながら読んでいる姿なんて、堪らなく格好良いと思ってしまう。
だから、ちょっと妥協したりしてしまうのだ。


「あと数頁読んだら一緒に出掛けませんか」

「そういえば、先ほど空中散歩が、したいと言ってましたね」


操縦士でもある彼は職権乱用という大層なことを仕出かそうと考えているのに、とても穏やかな顔で笑った。






end
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ギンナタ好きだけど上手く伝えられない。
自分の中ではガイナタとは全く違うと思っているんですが。
なっちゃんが本当に全く全然分からない仕事ってジェイドの研究とか、ギンジの開発的な仕事とかかなとふと思って書いてみました。


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