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ある時計屋の日誌

長針はせかせかと
追いつかない何かを
必死に追いかけるように、進む


2010.06.04(金) 01:03
街に出かけた時、たまたま通りかかった店に赤色のカーディガンがあった。
覇王は寒がりで、この日がカンカンに照りつける時期でも二枚も三枚も洋服を重ねて過ごしている。しかし、やはり暑い時はそれなりに暑いらしく、夏場は温度調整が難しくて困ると言っていた。
夏物の少し薄めのカーディガン。それに、赤色は「彼女」の好きな色だった。それに、似合っていた。「彼女」に似ている覇王なら、きっと赤色は似合う色に違いない、と。

しかし、そのカーディガンが逆に覇王の機嫌を損ねた。似合う色だと思って買ったのに、どうやら気に入らなかったようだ。
もの悲しそうに無言で家事をこなす覇王に、どう声をかけていいやら判らない。理由が判らないのだがそれを尋ねるのは流石に野暮な気がする。

どうしよう。困った。

2010.05.31(月) 20:39
連日の雨に鬱々しくなりつつあったが今日は昨日までが嘘かと言うようにカラッと晴天を迎えた。
いつまた天気が悪くなるやもしれないので夏物のシーツやらシャツやらを一気にベランダへ干した。(虫を落とすのにはやはり日光が一番だ)流石にタンスにあったもの全てを干すとベランダは人が入る隙間もないくらいに白の森と化した。

せっせと植樹のような物干し作業に徹していたらジムが突然シーツの森に飛び込んできた。連日働きづめだったから(水没した時計の修理だ。この時期は毎年のように忙しいらしい)気分転換でもしたかったのだろう。
シーツの波を掻いてけらけらと快活に笑う彼を見て私も心が浮いた。いつもは何にでも大人の余裕を見せる彼が子供のように楽しそうに笑う姿は新鮮だった。

私も久々に腹から笑った気がする。

2010.05.20(木) 08:19
以前、時計が欲しいとジムに言ったことがある。
外出先で時間を知りたくなり、ふと漏らした言葉だったので私自身もすっかり忘れていたのだが、今日随分と立派な懐中時計を渡された。
大分前に自作したものらしいが、素人目の私が見ても精巧で安くはない品だと解った。
メイドごときがこんな高級時計をつけるなんてどう考えても可笑しいと思い(しかも彼がつけているのと同じ、番の時計らしい)断ったが、随分と神妙な顔でどうしても持って欲しいと頼みこまれ、断りきれなかった。

今も首に下げているが、秒針の小さな音が耳に心地いい。前の持ち主が居たと言うがどんな人だったのだろうか。

大切にしなければ。

2010.05.18(火) 19:21
友人にアモン・ガラムという男がいる。実家の貿易業を継ぎ、若くして世界単位の活躍をしている。彼とは家絡みの付き合いだ。
今日は腕時計の調子が悪くなったということで(この時計もまた海外の高級ブランドものだ)うちで修理を頼みに来た。暇無しで彼方此方へ営業に出ているというのに半年に一度は必ず何かしらの理由でうちに来ている。
彼もまた覇王を見て大層驚いていた。まるで彼女の生き写しじゃないかと。それに、どうやら酷く覇王を気に入ったらしく、やたらちょっかいを出していた。
あまりに度が過ぎるので仕事に戻れと追い返したが、あの様子だとまた近いうちにやって来そうだ。
覇王にも気をつけろと言っておかなくてはいけないと思う。

一夫多妻なんて恐ろしい文化だよ全く。

2010.05.05(水) 09:18
日記をつけるといいとジムが言ったので日記をつけることにした。

この家にやとわれてからもう大分経った。
ジムはメイドをやとっている主人にしては優しすぎると思う。わたしはまるで同居人のようにあつかわれている。もっと主人なら主人らしくすべきだ。
メイドとしての仕事が無くなるではないか。

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