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横溝少年の事件簿
1.5探偵倶楽部誕生




「なぁ、横溝」

「何だい? 助手の宮内よ」

「助手って……。というか、この貼り紙は何なんですか?」





 これは、身の回りの小さな謎を解き明かし、自分の推理に酔いしれてしまうというちょっぴりナルシストな少年(+α)の事件簿である。


「な、何だよ! +αって!」

「何だい、遂に気が狂ってしまったのか? いきなり叫ぶなんて」


 今、横溝少年は助手の宮内少年と一緒に屋上にいる。他でもない横溝少年が呼び出したのだ。
 彼はあの告白劇から何かにつけて宮内少年を呼び出している。宮内少年の方もすっ飛んでくるので問題ないだろう、と彼は思っているようだが、第三者の目から見れば呼び出し方にはかなりの問題があった。
 つまりは、惚れた弱みにつけ込み、告白したことをバラす、などと脅して呼び出しているのだ。
 しかし、呼び出した用件というのは、たいていが一緒に屋上で昼食を食べようという可愛らしいもので、宮内少年は毎回嬉しそうに屋上に向かっているので良いことなのかもしれない。それに、宮内少年は、横溝少年の脅して呼び出すような所までもが好きなので、始末に負えない。
 話が逸れてしまったが、つまりは今日も同じように横溝少年に呼び出された宮内少年だったのだが、いつもと様子が違ったのだ。そこから今回の話は始まったのだ――。



「気が狂ってなんか……。って、そうじゃなくて、この貼り紙、何なんだよ!」

「ああ、それか。見ての通りだよ」


 そこに書いてあったのは――


『探偵倶楽部始動!
探偵:横溝(1の3)
助手:宮内(1の2)
顧問:東野先生
何か困ったことがあれば、気軽にご相談下さい。』


「あの、俺何も聞いてないんですが……」

「あぁ。言ってないからな!」


 貼り紙を指し示しながら尋ねる宮内少年に対して、爽やかな笑顔を浮かべて返答する横溝少年。


「それにいつ東野先生が顧問になったんだよ。第一、正式な部活なの?」


 何も聞かされていなかった宮内少年は、情けなく悲しい思いに浸りながら至極まっとうな質問をした。


「東野先生は顧問というより実際は見張りみたいなもんだ。あと、正式な部活ではない」


 横溝少年の言うとおり、この探偵倶楽部というのは、正式な部活ではない。と言うのも、実は横溝少年が探偵部を作ろうと、職員に申請すると、部員が足りない、と理由で断られてしまったのだ。
 しかし、その理由というのは建て前で、本当の理由は職員会議で、


『あんな問題児に部活など作らせたらろくなことにならない! かといって横溝も諦めないだろうから、部員が集まるまで教師を見張りに付けるという条件で活動を許可しましょう。まぁ、部員など集まるわけもないですし』


 というある教師の発言がそのまま通ったからである。
 その教師というのは、横溝少年のクラスの数学を担当している人物で、彼は、授業中にいきなり、『謎が解けた!』などと叫びだす横溝少年のことを問題児と見なしているのだ。まぁ、それも当然なことかもしれない。というのも、横溝少年が授業中に叫んだのは一度や二度ではないからだ。
 結局、その案が採用され、見張り役として白羽の矢がたったのが、東野という新米教師だったというわけだ。


 今、説明したことを横溝少年は全て知っている。何故なら、職員会議を調査(という名の盗み聞き)したからだ。
 そしてそんな事情を宮内少年に今日やっと伝えた横溝少年。全ては昨日までに起こったことだった。


「で、部員を何人集めたらいいわけ?」


 これらのことを聞き、宮内少年がまず思ったことは、何故相談してくれなかったか、ということだったが口に出せばますます情けなくなると思い、別のことを口にした。


「え?」

「だから、正式な部活になるために必要な人数は?」


 至って普通の質問をしたと思っていた宮内少年は、聞き返されたことを不思議に思い、聞き取れなかったの、とでも言うように言葉を変えて、質問し直した。
 一方、横溝少年は、びっくりしていた。彼はそのゴーイングマイウェイな性格ではあるが、一方でその性格のせいで数々の友人を失ってきたので、少し、ネガティブな性格にもなっていた。よって今回、無理やり助手にしてしまった宮内少年はこの話を嫌がるだろうと思っていたのだ。
 ところが、宮内少年は最初こそ、嫌がりはしたが今となっては、この話を受け入れてくれているようなのだ。


「あと六人。……宮内が入ってくれるならあと五人だけど」


 最終確認、そのつもりで横溝少年はそう言った。


「何を今更。だって俺は、横溝の助手なんでしょ?」


 呆れ顔で答える宮内少年。
 その答えを聞いて横溝少年は本当に嬉しく思う。


(宮内のそういうところ、好き、なんだよな……)


 これまでにいなかった、自分を受け止めてくれる人。横溝少年とっての宮内少年のことだ。
 横溝少年がそのことについて色々と思い耽っていると、



「ところでさ。あの、この前の告白のへ、返事なんだけど……。」


 宮内少年が言いにくそうに話しかけてくる。
 そう、横溝少年は告白の返事をまだしていないのだ。


「あぁ、そ、それはだな……。」

「それは?」

「え、延期だ、延期! 探偵部が正式に発足してからだ!」


 横溝少年がそう言い放つと、しょんぼりとうなだれる宮内少年。


(……まあ、男同士だし、戸惑うよな。しょうがない。待つしかないさ)


 そして宮内少年はそう思い、ゆっくり待つことに決めたようだ。
 一方、横溝少年は、というと。



(……毎日呼び出して昼食を一緒にしようって言ってる時点で、答えは分かるだろ! この鈍感野郎、推理力を鍛えてやる!)



 こうして、宮内少年は探偵倶楽部の助手としてしごかれるようになったとか。



 
【END】



 

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