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横溝少年の事件簿
(6)




「犯人は、あなたです!」



 横溝少年の指が指した方向をみんなが一斉に見た。そこにいたのは……。



「……駒田先輩、あなたが犯人だ!」


 しかめっ面をした駒田だった。


「……証拠は?」


 低い声で短くそう質問した駒田。


「俺たちは犯人が副会長が一人きりのところを狙って盗撮していたと初めは考えていました」


 確かに。宮内少年はそう思った。そう考えたからこそ技術があるであろう写真部を疑ったのだ。


「しかし、実際はいつも一緒にいるあなたがいないから一人になっただけでした。……何故あなたが写真に写っていないのか、それはあなたが撮影者だったからだ!」


 横溝少年は鋭い声でそう言い放ち、駒田を指差した。しかし、それは数秒のことで、次第に指は下ろされていった。


「でも、これは証拠とは言えない。駒田先輩が否定すれ――」


「……そうだ。俺が犯人だ」


 横溝少年の声を遮って駒田は自分が犯人であると認めた。その顔は、駒田にしては珍しく、微笑んでさえいる。


「……唯のこと好きだから、それが理由だ」


 そして、彼は唯をしっかりと見つめて、次の言葉を口にした。


「唯、……どうか俺を嫌いになってくれ!」


 頭を下げてそんな願いを言う駒田に宮内少年は唖然とした。好きなのに嫌いになってほしい? 宮内少年も恋をしているが、そんな気持ちになったことは一度もなかったし、これからもそうなることはないと思えた。


「嫌だよ……祥、お願い。僕も祥のことが大切だよ? ただそれが友愛だってだけで……」


 唯は泣きそうになりながら、駒田に近寄る。しかし、駒田は後ずさりし、ドアへと近付いた。


「……もう、辛いんだ!」


 駒田は、最後に唯の目を見て、苦しげに叫び、生徒会室を飛び出してしまった。
 それを見て、唯、宮内少年、芽は追いかけようとしたが、それを横溝少年が止めた。


「待ってください。まだ話は終わってませんよ、副会長」


 その言葉に、唯は横溝少年をキッと睨みつけた。


「何!? 僕は祥を追い掛けなきゃ――」


「俺は、あなたに話があるんです!」


 その声はよく響いた。唯は顔をしかめてしばらく横溝少年を見つめたが、結局、ソファーに戻った。


「……早く済ましてくれる?」


 盛大なため息を吐いた唯は、イライラとしながら、ドアのほうを気にしていた。


「じゃあ、単刀直入に言わせてもらいます。……あなた、知ってましたね?」


「知るわけないでしょ。祥があんなこと……」


「あれ? 俺は、『何を』知ってましたね、とは言ってませんよ。何で分かったんですか?」


 わざとだった、そんなことは宮内少年にも分かった。唯を引っ掛ける為の質問だったのだ。唯は眉をピクリと動かしたが、すぐに落ち着いた声で冷たく言葉を返した。


「そのぐらい、会話の流れで分かるよ。これでも副会長だからねー」


 黒いオーラを全面に押し出しながらの間延びした声。その後にとってつけたかのような笑顔。目が笑っていないのが丸わかりで、ゾッとするものがあった。


「それはそれは。……では、こちらを聞いて下さい。これは、最初に駒田先輩に聞かせようと思っていたのですが、あっさりと認められてしまったのでね」


 カチッという音を立て、ボイスレコーダーの再生ボタンが押された。


『ストーカー……罰して……? それは、もっとちゃんとした機関に頼んだほうが――』


 最初に聞こえてきたのは宮内少年の当惑した声。つい先ほどの昼休みの依頼内容の聞き取りの時のものだ。


『うん、そうだねー。でも、大事にはしたくないんだよねー。第一に男が男にストーカーなんて信じてくれると思う?』

 宮内少年の次に唯の声が聞こえた。

『まあ、罰するなんていうのは祥のやり過ぎな考えだけどねー』


『……そんな! 唯は、ストーカーした野郎を許せるのか?』

 そして、駒田の憤慨した声だ。

『僕はただ、謝ってほしいだけだよ。本当にそれだけー』


『それは、建て前だろ? ……俺は、許さない。絶対に。唯にそんな顔をさせるストーカー男を俺の手で……』


『では、こうしましょう……』


 カチッ。その音と共に再生されていた音声は止まった。


「何か引っかかりませんか?」


 横溝少年は唯をじっと見つめたが、唯はすぐに目を逸らし、腕を組みソファーに深く座った。


「……別に何とも思わないけど?」


「そうですか? ……男が男にストーカー、ストーカーした野郎……」


「……は?」


「駒田先輩は『ストーカーした野郎』という言葉を使いました。もちろんそれは、駒田先輩自身を表します。当然、駒田先輩は犯人のことを知っていました……自分自身ですからね」


 ゆっくりと説明する横溝少年。しかし、宮内少年は頭が混乱してきた。横溝少年が一体何を言いたいのか、まだ分からないのだ。


「しかし、あなたは犯人のことを知らないはずだ。それなのに……『男が男にストーカー』……あなたは何故、犯人が男だと知っていたんですか?」


 男が男にストーカー……読者の皆さんも最初に読んだ時、違和感を感じたかもしれない。――いや、BL小説ということで違和感を感じなかった方もいるだろう。確かにこの高校は男子校。しかし、唯は校外で男女問わず人気があるということは屋上での会話でおわかりいただけたはずだ。
 ――横溝少年はこの言葉を聞いた瞬間、つまり依頼内容の聞き取りの一番最初だが、そのときから駒田を、そして唯を疑っていたのだ。


「……それはただ……。それに、それが証拠になるかは微妙で……」


 明らかに動揺している唯。横溝少年はここで追い討ちをかけなければならない。


「あなたは、駒田先輩の好意が友情ではなく恋愛感情だということに気付いていた。でも、あなたはそれに応えなかった。……カメラ視線の写真があるのは、撮られていることが分かっていたから。そしてあなたは――」


「ひ、酷いですよ! 駒田先輩の好意が嫌だからって……盗撮した駒田先輩も悪いけど、そのままにさせておいた上に、僕たちに調査させて犯人を暴くなんて!」


 横溝少年の声を遮ったのは芽だった。目に涙を浮かべて駒田を擁護している。横溝少年はそのとき気付いた。芽たちが唯を非難の目で見ていること、信じられないと思っていること、そして若干の恐怖心を抱いていること――。


「その通り。だって僕は男に恋愛感情を抱けないし、しつこい祥にも嫌気が差してた。だから……だから、ちょうどいいでしょ? 君たちも探偵活動ができたんだし、文句言われる筋合いなんてないよー?」


「……そんな……!」


 唯の言葉に明らかに愕然とした芽。それに木下もかなり失望した様子だ。そして横溝少年は困っていた――。


(違う、違うのに……どうやって説明すれば……?)



 

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