親愛なる宿敵くんへ!
俺には、敵がいる。
ずっと昔から、そう、幼い頃からの敵、つまりは宿敵だ。
例えば、学校の成績。小学校の頃はアイツがほんの少し勝っていた。中学校になると、今度は俺が少しだけ上回った。それから同じ高校を受験し、二人とも受かった。高校での成績は五分五分。二人して理系に興味を持ち、就きたいと思う仕事も同じものだった。一時は、真似をしただのしてないだのと喧嘩をしたが、結局は同じ大学の同じ学部を目指した。
そして、合格。選択した授業も全く一緒だったので、ほとんどいつも一緒に行動する羽目になった。ちなみに成績のほうは、抜きつ抜かれつだ。ただ、そこにも微妙な違いがあり、アイツは試験の点数が良い、本番に強いタイプ。俺のほうは、レポートや課題を完璧にこなす、地道に頑張るタイプだ。
しかし、周りに言わせるとほとんど違いはないらしい。
例えば、人望・人徳。
これは、明らかに俺が勝っているだろう。俺は誰にでも分け隔てなく接するようにしているが、アイツは自分が気に入った奴としか話さない。
例えば、見た目。これは、……悔しいが完敗だ。身長だってアイツの方が高いし、顔は無駄に整っていて、平凡な俺とは比べものにならない。悲しいが、それが現実だ。
例えば、恋愛。驚くことなかれ、告白された回数、今までの彼女の人数は俺のほうが断然多いのだ!
……ただ、俺を踏み台にしてアイツと付き合うことが目的の子がほとんどだ。
クールで無口な(俺に言わせれば、女の子に対してまでも冷酷で無愛想な)アイツと付き合う為に、アイツととても仲が良い(いや、こっちとしてはそんな気は全くないのだが)俺と付き合い、アイツに近づく。
そこまではしょうがないとしよう。アイツと俺じゃルックスにかなりの差があるし、女の子を悪く言うのは好きじゃない。
俺が一番、腹を立てているのは、女の子がアイツに近づいた時にアイツが言った言葉だ。
『俺と付き合いたいなら、純と別れて』
アイツがこの言葉を言ったと知ったとき、俺はどれだけ傷ついたことか。(ちなみに純というのは俺の名前だ。)
宿敵とはいえ、幼なじみでもある俺のことを思いやり、
『お前純の彼女だろ? 純のこと大切にしてやれよ』
と、言うのが普通ではないだろうか。
前にそのことをアイツに問い詰めてやったら、
『これは、俺の人生最大の娯楽であり、人生最大の義務なんだ。』
と、訳の分からない返答をしてくれた。俺の国語力が落ちてしまったのだろうか。
このことについて、あるお人好しの友人に尋ねたところ、
『それは、航樹なりにお前に悪い虫が付かないように頑張ってるんだろ?』
……そう。おかげで俺は童貞のままだよ! と叫ぶと、お人好しの友人は、いや、そういう意味じゃなくて。と笑いながら言った。
『あんな軽い女と付き合って、いずれ傷つくのは絶対お前じゃん? 他の男より航樹に盗られた方がお前も慣れっこになってるから傷も浅いだろ? 航樹はそれ全てを分かっててやってんだよ。』
今までの彼女、ユミちゃん、レイカちゃん、トモミちゃん……その他みんな軽い子だったの?!
そうやって落胆すれば、友人は、これだから航樹は報われないんだよな、と苦笑いした。
『航樹はお前と別れた女たちに「誰がお前みたいな軽い女と付き合うっつんだよ。」って言ってさ、刺されそうになったことなんか何回もあるのに。それでも、お前を守るために必死なんだよ。』
最後に友人は、呟くようにしてそう言ったが、俺はただただ聞こえなかったフリをした。
何はともあれ、アイツ、航樹は宿敵である。
そんな航樹が今日は俺のところに泊まる。なんでも、親と喧嘩をしたそうだ。俺は一人暮らし、航樹は実家で暮らしているので、俺のアパートは、航樹が親子喧嘩をしたときの良い逃げ場所になっているのだ。
「どうもどうも。今日はお世話になりまーす。」
「てめぇ、そんなこと言うくらいなら宿代ぐらい出せよ!」
「何言ってんだよ。飯作るのは俺だろーが。純だって料理の腕も俺のほうが上だって認めたじゃん。」
「料理の腕“も”って何だよ!」
「まあまあ。純くん、落ち着きたまえ。」
「お前が言うなよ!」
馬鹿みたいに口喧嘩して、ふと目があって互いに笑いあう。こんな日常が実はとても幸せだったりする。
俺とアイツは宿敵。これは永遠に変わらない。
例え、俺かアイツが消えたとしても、死んでしまったとしても、血迷って恋人になったとしても、そして別れてしまったとしても、絶対変わらない。俺たちはそんな深い絆のようなものを長い間で築き上げてしまったようだ。
さあ、照れるけれど言ってみようか。
お前が俺のことを大切に思っているように、俺もお前のことが大切だ。
これからも、二人で喧嘩して、騒いで、競い合って、笑いながら生きていこう。
親愛なる宿敵くんへ!
……なーんて、な。そんなクサい台詞言えるわけねーよ!
【END】
あとがき
第43回ウロコボーイズ様に投稿させていただきました。
お題ギリギリの話ですが……orz
でも、設定的には気に入ってたりします←
最後まで読んで下さって本当に有難うございます。
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