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お嬢
ぶち壊せ!1(柔嬢←金)


≪金造視点≫


お嬢が小さい頃、それはそれは柔兄は可愛がって、可愛がって、いつも抱き締めていた。
何時だって一緒に居て、何時だって二人で笑いあって。

それが何時の頃からか、柔兄はお嬢に触れなくなった。
いつも遠くから見詰めては、愛しそうに眺める。

お嬢もそんな柔兄には触れなくなった。

触れなくなったけれど、見詰める回数は多くなったと思う。
顔を合わせれば、二人とも優しげに微笑み合うのだ。
二人とも愛しくて仕方ないように。
けれどどこか切なげに。

二人はお互いの想いを決して口にはしない。

どう見たって、一目瞭然に好き合っているのが分かると言うのに。


そんな柔兄に気持ちを聞いたところで素っ頓狂な答えが返ってくる。

「なんで柔兄はお嬢に告白せぇへんの?」

「何をや?」

「好きやて。ええ加減付き合ったらええのに」

「好きは好きやけど、そんな付き合うとかの好きとはちゃう」

「は?」

「お嬢のことは好きやけど、そないな風には考えたことなんてない」

「え?」

「なんや?おかしい事言うたか?」

「いや、柔兄!どっからどう見てもお嬢のこと好きやん!」

「好きや」

「やろ?ほんなら付き合ったらええって思うんやけど」

「それは無理や」

「なんで?」

「お嬢はお嬢やからや」

「・・・・意味分からん」

「分からんでもええ」



なんて会話。
さっぱり意味がわからへん。

好きやのに、付き合いたくない好きってなんや。
あんだけ「好きや――――――っ!!」言うオーラ出して見詰め合ってるのに、

それどころか、今朝の会話聞いて俺はホンマにびっくりしたんや。

おとんが飯食ってる時に言い出した。

「柔造、この間の見合いの話進めるけど、ホンマにええんやな?」

「ああ、かまへん」


ぶふぁぁっ!!


俺はガツガツと掻き込んでた飯を吹いた。

「何しとんねん!」

柔兄の拳骨が飛んでくる。

「だっ!!!」

「汚いわ、阿呆!」

「せやかて柔兄!!見合いってなんやねん!」

「見合いは見合いや」

「柔兄結婚すんのんか?!」

「もうそろそろええ年やからな。早めに嫁さん貰とくに越したことはない」

淡々と喋っては普通に飯を食ってる。

いや、ありえへん。
ありえへんやろ?!

なんで?柔兄にはお嬢がおるやん。

柔兄めっちゃお嬢のこと好きやん!
お嬢かてめっちゃ柔兄の事好きやん!

なのになんで見合いなんかして何処の誰かとも分からん奴と結婚なんかするつもりなん?!


おとんが行った後、柔兄に聞いた。

「なぁ、ホンマに見合いすんのん?」

「せや」

「やってお嬢は?」

「なんでお嬢が出てくるねん」

「やって柔兄お嬢の事好きやろ?結婚するんやったらお嬢と結婚したらええやん」

「・・・お嬢にはお嬢の人生があるやろ」

「は?」

「俺がいらん事言うて失望させたない」

「え?」

「男女の関係がないからこそ、俺はずっとお嬢の側に居れるんや」

「・・・意味分からん」

「分からんでもええ」

「え?でも好きなんやろ?好きやのに我慢して違う人と結婚するんやろ?そんな事してその見合い相手幸せに出来るん?その誰とも分からん人好きになれるん?」

「好きやなくても結婚は出来る」

「は?」

「相手が好いてくれたなら、いくらでも優しくは出来る。なら別に問題はないやろ?」

「は・・・?」

「遅刻するしもう行くで」

柔兄はがたりと席を立ち、食べた食器を洗い場に持っていくと、部屋を出ようとした。

「ちょ!!!待ってや柔兄!!」

無言で俺の方をチラリと振り返ったが、すぐにまた歩みを進めた。

「ほんならお嬢が他の誰かと結婚してもええのん?!」

ピタリと柔兄の足が止まる。

「お嬢が何処の誰とも知れん奴と結婚しても柔兄は納得出来るん?!」

「・・・・お嬢が選んだ人なら」

「っ・・・ほ・・・ほんなら」

「もう行くで」

「俺がお嬢と結婚するっ!」

「・・・・は?」

柔兄がはっとこちらを振り向いた。

「今まで柔兄がお嬢の事好きなんやって、遠慮しとったけど、柔兄がもうお嬢のことええって言うんやったら、俺がお嬢と付き合う!」

「おま・・・何言うとんのや?」

「お嬢が選んだ奴やったら誰でもええんやろ?」

「っ・・・・」

「お嬢は俺がもらう!」

顔中苦渋な表情を浮かべて、ギリッと奥歯を噛む音が聞こえた。
なのに言うた言葉は、

「・・・・好きにせぇっ」

やった。
そのまま柔兄は部屋を出て行った。


意味が分からん。

なんであんな嫌そうな顔をするのに、反抗して来ぉへんねん。
あないにお嬢の事が好きやのに、俺が取る言うてもなんで怒らへんねん。

なんで好きって言わへんの?
失望って何?
告ったら失望されるとでも思ってんのか?

ええ、そんな、まさかっ!!


俺は柔兄の考えがさっぱり分からんかった。






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