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パロ
ずっといっしょ 7(柔勝)




≪柔造side≫



深夜2時。

一通り彼女との時間を過ごすと、俺は帰宅することにした。
彼女は朝まで泊まっていけばいいのに、と言ったが、朝はやはり坊の食事の支度をしなければならないし、早めに帰りたかったのだ。

「また来るし、今日はもう帰るわな」

そう言って、彼女の唇に軽くキスをすると、俺は部屋を後にした。


彼女のマンションの前でタクシーを拾い、自宅へと帰る。
家に着き、明かりをつけるとなるべく物音を立てないようにしてキッチンへと向かった。

そこで様子がおかしいことに気が付く。

なべの蓋を開けてみると、朝作って行ったままの状態で、煮物が残っていた。


(・・・・食べてはらへんのか?)


炊飯器を開けてみても、やはり手を付けた形跡が無い。

お腹が減っていなかったなんて事は無いだろう。

もしかして、誰かと夕ご飯を食べに行ったのであろうか?

もしかして、あの双子と?

そう思うと、少しイラっとした。
が、坊が望んでした事なんやったら、仕方あるまい。

・・・せやけど、やっぱりおかしい。


坊の性格やったらきっと、俺にいらん負担をかけないように、お腹いっぱいでもちょっとは手を付けてくれはるやろう。

そこが坊のええところなんやから。


なんやおかしい・・・。


少し不安になって、そぅっと坊の部屋を覗くことにした。


小声で「失礼します・・・」と呟いて、扉を開け覗き込む。
勉強机の上にカバンが置いたままになっていた。

そこで何かが違うと気付く。

几帳面な坊は、帰ってきたらきちんと片付けはる。

ベッドに目を向けると、頭まですっぽりと布団を被った姿が見えた。


「ぼ・・・ん?」

ゆっくりと足を踏み入れ、ベッドへと近付けば、荒い呼吸が聞こえる。

「!!!」

そっと、布団をめくって、覗き込めば眉間に皺を寄せて苦しそうに息づく坊の姿があった。

「坊?!」

慌てて、坊の額に手をやると、伝わる熱は想像以上に熱かった。
体が少しだが震えている気がする。


(熱がありはるやんか!!!)


なんでや?
なんで、こないに高熱があるのに、何の連絡もなかったんや?
それとも携帯に着信があったことすら気がつかへんかったんか?
いや、坊の連絡を気付けへんわけなんて無い。


とりあえず冷やさないといけない!


そう思って、部屋を出るとキッチンへと向かった。


氷枕・・・・
そんなもん自分が風邪なんかひかへんから無い!

どないしよか・・・。

とりあえず氷があったはずや。
それを袋に詰めて・・・それから。


ちょっと起こして水分取らせんと。

制服のままで寝てたことを考えると、もしかしたら帰ってきて直ぐに倒れはったんかも知れん。
せやったら、ずっとなんも飲んでへんのかも。

冷えたお茶と、冷水でしぼったタオルと、氷を袋に詰めてタオルに包んで、坊の部屋へ戻り明かりを点ける。


「失礼します」

と、坊の頭を抱え、氷の入った袋を枕代わりにして置いた。

「ん・・・」

「坊・・・ちょっと、起きれますか?」

「・・・じゅ・・・ぞ・・・」

「ちょっとお茶、飲みましょか?」

「・・・・彼女・・・は?」

「こないな時に何言うてますんや?」

「今日は・・帰ってけぇへんかったんとちゃうん・・・・」

「もう、日付変わってますよって」

「そ・・・なんや・・・」

「坊、お茶・・・飲めますか?」

「ん・・・寒い・・・」

「水分とって熱下げやんと」

「おん・・・」

坊の背中を支え起こし、口元にグラスをつけるとゆっくりとコップを傾けお茶を流し込む。
飲み終わると、またゆっくりとベッドに寝かせてやる。

「いつから熱出てましたん?なんで連絡してくれへんかったんですか?」

「・・・彼女と会うてるのに連絡するほど・・・俺、空気読めん奴ちゃうで・・?」

無理して笑おうとしてそう告げる。

「そんなん!彼女なんかより坊の体の方が大事に決まってますやろ!!!」

思わず、声を荒げてしまった。
彼女なんかより、坊が苦しんでる方がどれだけ心が痛むか・・・!


「・・・堪忍・・・俺になんかあったら、柔造がおかんに怒られてしまうもんなぁ・・・・」

「そないな事言うてるんちゃいますやろ!坊になんかあったら、柔造が正気でいられるわけなんかあらしまへん!」

「・・・堪忍・・・・」

「帰ってきてから直ぐ寝込みはったんですか?」

「おん・・・なんや、学校帰る時から頭痛うて・・・・」

「お薬は?」

「なんも飲んでへん・・・」

「お腹は減ってませんか?」

「おん・・・・」

「今、夜中やさかい、薬局も開いてませんし・・・・朝まできばれますか?」

「大丈夫や・・・」

「お茶・・・もうちょっと飲んどきましょか?水分ようさん取ったら大分マシになるでしょうし・・・」

「おん・・・」

お茶を取りに部屋を出ようと、枕元から立ち上がると、くいとズボンを引っ張られた。

「どないしました?」

「・・・・・あ・・・・・」

「坊?」

「なんも・・・・ない・・・」

「なんや言いたい事あったら言うてくださいね。冷たいもんやったら食べれますか?アイスとか買うてきましょか?」

「いらん・・・」

「そうですか?」

「なんも・・・いらん・・・から・・・」

「?」

「手・・・・」

「て?」

「繋いどって・・・」

「・・・・・ぼ・・・ん?」

「あ・・・うそ・・・嘘やっ!!!風邪うつったらアカンし!・・・早うあっち行っとき!!俺、もう寝るからっ!!!」

そう言うと、またすっぽりと頭まで布団を被ってしまった。



手・・・繋ぎたいって・・・・。





ああ・・・
俺はなんて阿呆なんやろか・・・・。


昼間から一人で熱を出して寝込むやなんて、きっと心細かったに違いないだろうに。
それに、見知らぬ土地に一人で出てきて、不安で不安で仕方ない事だらけだっただろうに。

せやから自分でも気が付かんうちに色々疲れてしもて、普段は体も強いはずやのに、こないに熱まで出しはって・・・。

何で俺はなんも気が付いてあげられへんかったんや。
結局俺は、自分の事だけしかなんも考えてへんかったんや無いか。

自分がどうやって、坊から逃げるかだけを考えて、坊の寂しさやとか、辛さやとか、不安やとかなんも考えてあげられてへんかった。


なんて、情けない。
なんて、大馬鹿者や。
こんなんで坊を好きやなんて、そんな風に思える資格なんてありもしない。



「坊・・・」

「おやすみ・・・っ!!」

「手・・・繋いどったら、ゆっくり寝れますか?」

「せやから、もうええって!風邪うつったら仕事行かれへんし!」

「仕事なんか休みますから、そんなん気にせんとってください」

「柔造?」

「手、繋ぎましょか?昔ようやったみたいに」

「・・・・・ええのん・・・?」

「それで坊が安心して寝れるんやったらなんぼでも」

ゆっくりと坊の顔と手が布団の中から姿を見せる。

その手をそっと掴んで、ぎゅっと握り締めた。

「熱・・・早よ下がるとええですね」

「おん・・・」

「ゆっくり寝てください。ずっとここに居りますから」

「おん・・・・」

「おやすみなさい」




暫くすると、坊の寝息は帰ってきた時ような荒い呼吸ではなく、静かな落ち着いた寝息へと変わって行った。





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あきゅろす。
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