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パロ
ずっといっしょ 6(柔勝)



≪柔造side≫




久しぶりに付き合ってる女性から電話があった。
「久しぶりに会わない?」と。

そういえば最近坊がこっちに来てから、なんやかんやで忙しく、メールのやり取りくらいしかしてなかった。
元々仕事が忙しいので、そんなに頻繁には会っていなかったけれど、それでも、以前はもっと会う回数が多かったのは確かだ。

きっと俺が離れて行ってしまうことが不安なのだろう。

俺にはそんなに相手に対する感情が無くても、相手はきっと俺のことを好いてくれている。

今、この関係を崩すのは俺的にも日常生活の逃げ場がなくなるから、それは避けたい。
だから彼女の誘いを二つ返事で返したのだった。



「坊」

「なんや?」

「今日・・・ちょっと帰りによる所があって、ひょっとしたら帰って来れないかもしれませんよって、ご飯一人で食べといてくれませんやろか?」

「・・・・彼女んとこ?」

「あー・・・まぁ、そんなところですかね・・・・」

「そうなんや。やけど、柔造・・・」

「はい?」

「俺が来てからちゃんと彼女さんに会うてるんか?」

「え?」

「俺の世話と仕事ばっかりで、何やどっこも出かけてへんことない?」

「あー・・・まぁ・・・どうですやろ?」

「彼女さん大事にしやなアカンのやで?俺のことは気にせんでええさかい、ゆっくりしてきて」

そうやって坊はにこりと笑った。

少しはヤキモチ焼いてくれはったらええのに、なんてありえんことを考えてしまった。
そりゃ、彼女は大事にしやなアカン。
もっともな意見や。
なんや、俺はやっぱり最低な奴やな・・・・と、心の中で溜息を吐いた。





***


≪勝呂side≫



授業も終わり、何の予定も無いから真っ直ぐ家に帰る。
いや、帰りに最近仲のええ友達、奥村兄弟に呼び止められたけど、今日はちょっと気分が優れなくて断って帰って来たんや。

頭が痛い。
何時もの偏頭痛やろか?
家帰ったら薬飲んで寝たらええわ。

そう思って帰ってきた。


「ただいま」


誰もいない静かな家。
実はあんまりこんな静かなんは好きとちゃう。

いつも回りにたくさん人が居ったから、家に帰ればたくさんの声がかかる。
たまに、鬱陶しいなぁ・・・・なんて思うこともあったけど、それがないとやっぱり寂しいのは確かや。

家に帰り、とりあえず手洗いうがいをしてから、しんどいから部屋に直ぐに入る。
制服のままぽすっとベッドに飛び込んだ。


(頭・・・・痛い・・・・)


昔はこうやってしんどなったら、いつも柔造が直ぐに飛んできてくれたことを思い出す。

風邪を引いたらずっと側に居って、頭を冷やしてくれたり、おかゆさん食べさせてくれたり。
おかんは仕事で忙しいから、いっつも柔造が側で面倒を見てくれてた。


――――寒ないですか?


そう言って、布団を掛けなおしてくれて、きゅっと手を握ってくれた。


(・・・なんや、寒いなぁ・・・・)


そう思って、布団をもそもそと頭まですっぽりと被る。
柔造の手が無い代わりに、布団の端をぎゅっと握った。

頭がズキズキと痛いし、寒気も増してくる。

(アカン・・・・これ、風邪ちゃうやろか?)


ぶるりと震える体をぎゅっと自分で抱き締めた。

(薬飲まな・・・・せやけど、飲む前にはちゃんとなんか食べな・・・)


そうは思うけれど、体がちっとも動かない。
それに良く考えれば風邪薬など持ってはいない。
何時もの頭痛薬でちょっとはマシになるやろか?なんて考えてはみるけれど、やはり動く気すら起きなかった。


(せや・・・柔造・・・・に電話・・・)


そう思って、はたと朝の会話を思い出す。


『今日・・・ちょっと帰りによる所があって、ひょっとしたら帰って来れないかもしれませんよって、ご飯一人で食べといてくれませんやろか?』


あー・・・そういえば彼女の所へ行くって言ってたっけ。
久しぶりに会うんやし、邪魔なんかしたらアカンわな。

そう思うと、なんだかじわりと涙が込み上げてきた。


(彼女・・・ええなぁ・・・)


なんやろか?

風邪を引くと心がとてもナーバスになる。
普段はそんなに気にしないでいようと思うことも、やけに心の中に入ってくる。


東京に出てきたら、ホンマはもっと柔造と一緒にいられると思ってた。

もっと、たくさん一緒にご飯も食べて、会話もして、休みの日なんかも一緒に出かけたり出来るんかな?
なんて、甘いこと考えとった。

せやのに現実は違った。

仕事で忙しいって聞いてたんやから、そんなん一緒に居られへん時間が長いんは当たり前やのに。


(俺、阿呆やなぁ・・・)


それでも一緒にいる時間が少しでも欲しいから、柔造が帰ってくるまで晩飯は食べないようにした。
柔造は気ぃ使わんと先に食べといてって言うけれど、別に気を使ってるわけやない。

俺が寂しいからそうしてるだけ。

柔造に心配される度に、ちくりと胸が痛む。


もっと一緒に居りたい。
もっと一緒に話がしたい。
もっと傍に居りたい。
昔みたいに撫でてもらいたい。


成長したら、大人は離れていくもんなんやな。
そりゃ、俺かて自立しやなアカンのやけど。

せやけど・・・・。
せやけど・・・。


(寒い・・・・)



心も、体も、フルフルと震える。


(頭痛い・・・)


目に浮かぶ涙がより、頭をぎゅうと締め付ける。


(・・・柔造・・・)


ここにはいない主の声が頭に響く。
優しく自分を呼ぶ声が、頭の中を何度も何度も木霊する。



(どこにも・・・・行かんとって・・・・)



体を抱き締めて、寒さと流れる涙を堪えた。






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