パロ
ずっといっしょ 5(柔勝←双子)
「え?お弁当?」
「おん」
坊が東京に来て漸くこちらの暮らしにも慣れてきた頃、突然坊が言い出した。
「学校の奴が作ってくれるって言うてんねん」
「え・・・?なんでです?」
「柔造も仕事大変やろ?せやから自分で作ろうかとも思てたんやけどな、なんやごっつ料理上手な奴がおってな」
少し遅めの夕食の席、坊はお腹が空いているであろうに、いつも俺の帰りを待って一緒に食べようと言ってくれる。
遅くなるから先に食べておいてもいいと言ってはいるのだけれど。
料理を口に運び、もぐもぐと咀嚼して飲み込むとまた次の言葉を発する。
因みに坊の箸の持ち方も食べ方もとても綺麗である。
女将さんの躾の賜物であろうか。
「そいつ、いっつも弟と自分の分作ってるんやけど、それやったら3つ作るのも一緒やからって、俺のも作ったろかって」
「ええっと・・・坊、彼女出来ましたん?」
いつのまに。
そんなん聞いてない。
いや、別に俺に言う必要も無いんやろけど。
せやけど、心臓の音が煩い。
もう・・・彼女が出来たんか?!
「ちゃう、ちゃう。男やし」
「え?彼氏?!」
「なんでやねん!!」
「え?」
「アホ!なんで彼氏なんぞ作らなあかんねん!!!友達やし!!」
「ああ!」
内心ほっと胸を撫で下ろす。
ビックリした。
まさか彼氏が出来たとか、そんなんありえへんやろってめっちゃ思った。
坊が男でもええって言うんやたっら、そんなもん他の誰でもなく俺がすぐに立候補するに決まってるやないか!
女の子にやったら100歩・・・・いや、1万歩・・・いやいや、1億歩譲って、許すとしても男になど微塵も触れさせてなるものか。
「せやからな、当分弁当作らんでもええよ」
「・・・柔造の弁当、美味しないですか?」
「ちゃうやん!そんなん言うてへんやろ?そりゃ・・・柔造の弁当の方がええけど・・・いっつも大変そうやろ?仕事帰ってくんのも遅いし、休みの日かて仕事行ったりしてるし、あんま負担かけるのも悪いなと思ってやな・・・」
「そんなん!坊を預かってる以上は、坊の健康管理も、食事管理も柔造の立派な仕事のうちですよって!負担とかそんなん関係ありませんえ?」
「・・・・仕事・・・な・・・」
「坊?」
「ま、そう言うことやから、明日から当分ええよ」
「そうですか?」
「その分朝ゆっくり出来るやろ?」
「そうですけど・・・」
「ちょっとは体休めなあかんのやで?」
「ええ・・・そうですねぇ・・」
なんや、めっちゃもやもやする。
自分から一生懸命距離を取ろうと、家に居る時間を少なくして頑張ってきたのに。
いざ、坊から距離を取られるとこんなにも心が寒いものか。
せやけど、普通男が男の弁当作るやなんて言うもんやろか?
なんやねんソイツ。
なんかイラっとする。
「で、その子どんな子なんです?」
「おん?オモロイ奴でな、めっちゃアホやねんけど、なんや何しても許せるって言うか」
「へぇ・・・」
「弟は弟でな、って、ああ、双子なんやけど、そいつはごっつ頭良うてな、俺が勉強で分からん事でもすらすら答えれるねん。せやしなんや話してても気が合うっていうかな、よう二人で勉強すんねんやけどな」
「そしたらいっつも3人で遊んではるんですか?」
「おん。最近はそうやなぁ」
「仲ええ人出来たみたいで良かったですわ」
「あ、今度な、3人で買い物に行こうって言うてるんや」
「日曜とかですか?」
「おん。俺1日居れへんし、柔造もたまにはしっかり休んどきな?」
「そうですか?おおきに。ほんならそうさせてもらいますね」
坊の優しさが身に染みる。
ホンマにこないに優しい子に育ちはって、ええ子やなぁ・・・・。
せやのに俺といったら、必死こいて距離を取って・・・。
ホンマ最低な大人や。
「坊・・・堪忍・・・」
小さく小声で呟いてみた。
「おん?なんか言うたか?」
「なんでもないです」
***
そして、日曜日。
俺は坊の言うように、久しぶりに1日をゆっくりと過ごした。
坊が傍らに居ないのは寂しいが、何の葛藤も無く1日部屋で過ごせるというのは本当にありがたかった。
日々精神修行をしているようなものだと、流石に俺も参ってくる。
夜ご飯も外で食べてくると言った坊は、20時頃に帰宅した。
「坊のおかげで今日ゆっくり出来ました。ありがとうございます」
「そうか!それやったら良かった」
満面の笑みで応える坊。
あー・・・アカン。
1日リフレッシュした心にはその笑顔は眩しいわ・・・・。
「坊は何かええもん買えましたか?」
「おん!何やええデザインのデニムとなぁ・・それからシャツと・・・」
と、持って帰ってきた袋から取り出して俺に見せてくれる。
それと同時に何かが1枚ひらりと床に落ちた。
「?なんです?」
拾い上げてみると、シール状になったシート。
俗に言うプリクラとか言うやつ。
ひっくり返して写ったものを見ると
「!!!!」
俺は瞬間的に固まった。
「あ!アカン!それ恥ずかしい!!!」
そう言って、ぱっと手の中から奪い取られる。
「これは・・・・なんでこないな事になってるんですか?」
「え?何や知らんけど流行りなんやろ?」
「流行り?」
「おん・・・仲良うなったら男同士でもこうやって取るのが、ええんやって・・・やめぇって言うたんやけど・・・」
そこに写っていたもの。
真っ赤になった坊を中心にして、二人の少年が挟んで、その柔らかで愛らしい坊の頬に二人ともが唇をくっつけていた。
これは・・・どう考えたって・・・・流行とかそう言うもんちゃうやろっ!!!!
こいつらマジ危険度1000%やないか!!!
「坊・・・・」
「何?」
「あんま人の言うこと信用したらあきませんえ」
「何が?」
「坊は気を許したら何でも信用してまうさかい・・・・」
「何のことや?」
ああ、でもせっかく東京で出来た初めての坊の友達。
友達止めろなんてそないな事言えるわけもなく・・・。
楽しそうに帰ってきた坊の姿を見ると、何とも言えない思いが込み上げ、はぁ・・・と深く溜息を吐いた。
「坊・・・」
「だからなんやねん!」
「楽しかったですか?」
「え?ああ、めっちゃ」
「そしたら・・・ええです・・・」
「?」
また新たな悩みが増えるとは思わなかった。
さて、コイツらをいかに坊に気付かれない様に阻止させていくか・・・。
ああ、もう、ホンマ、坊が可愛すぎるのがアカンのやっ!!!!
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