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パロ
ずっといっしょ 番外編 勝呂誕生日2(柔勝)






(どうしよう・・・・)


このままじゃ良いわけなんてない。
きちんと帰って謝らなければ。



「堪忍」

プレゼントを差し出してくれた奥村兄弟に向かって、頭を下げて侘びを言う。

「堪忍・・・折角祝ってくれるのは嬉しいんやけど・・・俺・・・やっぱり帰らなあかん」

「勝呂?」

「堪忍。俺、大事な約束忘れとった。せやから・・・ごめんやけど・・・」

「そっか。分かった」

深々と頭を下げると、燐の軽く返事をする声が聞こえた。

「奥村・・・」

「ダメモトで誘ったのにすんなりOKの返事が来たからおかしいなって思ってんだよな。雪男」

「うん。誕生日の日を僕らの家で迎えてくれるなんて、思いもしなかったから」

「雪男・・・・」

「でも、僕達が一番にこうやって勝呂君におめでとうって言えて、嬉しかったよ」

顔を上げると、雪男も燐もにこやかに笑っていてくれた。

「堪忍・・・また明日・・・か、明後日とか・・・ちゃんと礼に来るからっ!」

「お礼は良いけど、もう一度ちゃんとお祝いさせてね」

「おおきに・・・」

俺はそんな二人の寛大さに再び頭を下げ、荷物を纏める。
玄関先まで二人で送り出してくれて、それから、

「途中まで送っていくよ」

と、雪男が家へと帰る道をほんの少し付いてきてくれた。

「別に送ってくれんでもええのに。俺、女の子やないんやし」

「男の子だって夜道は心配だよ?それに少しだけ話がしたくて」

そう雪男は俺の方を見て優しい笑みを零した。

「せやったら雪男かて帰る時危ないやんか」

「僕は大丈夫」

「なんやそれ」

くすくすと笑いながら家路を辿る。

「ねぇ・・・竜士」

「なに?」

「柔造さんと喧嘩した?」

「ああ・・えっと、喧嘩っちゅう程の事やないんやけど・・・って、やっぱり分かってまうんやな、雪男には」

「そりゃ、君の誕生日に僕らの家に泊まるだなんて、柔造さんが簡単に許すわけなんて無いでしょ?だから何かあったのかなって」

「大した事や無いから大丈夫や」

「そう。早く仲直りできると良いね」

「おん・・・・おおきに」

奥村兄弟の家から大分歩いて進んで、半分くらいまで来ると、

「竜士」

と、声を掛けられ、雪男にふわりと抱き締められた。

「わ!」

「お誕生日おめでとう」

「あ・・・おん・・・」

それから何の言葉を交わすわけでもなく、暫くこのままの体勢が続いて、俺はどうして良いのか分からず雪男の為すがままに抱き締められていた。

「あの・・・雪・・・男・・?」

余りにもその腕が離れることが無いので、声を掛けてみれば、するりと離れる。

「ごめん。やっぱり帰したくないな・・・て思っちゃって」

「あ・・・えっと・・・」

そして、急に顔をが近付いたかと思うと、ちゅっと俺の唇に柔らかな感触が触れる。

「っ!!!」

「柔造さんと上手くいくおまじない・・・じゃ、帰るね。気を付けて」

そして、俺が何を言う隙も与えず、雪男は来た道を走って帰って行った。
雪男が去ってから、唇に指を這わせ漸く気が付く。


(今のって・・・キスやんな・・・)


キスがおまじないって、おとぎ話か。

なんて、事を考えて、ふはっと吹き出す。
雪男なりに俺の事を気遣ってしてくれた行動が、可愛らしいと思ったから。
雪男が去って行った方向をぼんやりと眺め、小さく、

「おおきに」

と呟いて、俺も自宅への道を走り出した。



******



走って帰ってきてかなり汗をかいたが、まぁ、後でシャワーを浴びれば良いだろう。

柔造はもう寝てるだろうか?
奥村兄弟の家は走って帰れる距離とは言えど、色々していたせいでもう1時を回ろうとしている。
玄関の鍵をなるべく音を立てないように開け、リビングへと足を向ければまだ明かりは煌々と点いていた。

そっと、リビングへ続く扉を開けて辺りを見渡せば、何時もの食卓に伏せっている柔造を見つけた。

「じゅうぞう・・」

名を呼んで近付いたけれど、どうやら寝ているようだ。

それよりも・・・・・。

テーブルの上を見渡せば、数え切れない程の無数のビールの缶。
それにすごく酒臭い。

「どんだけ呑んだんや。おい、柔造」

揺すっても、名を呼んでも、ピクリともしない。

「アカン・・・これ、めっちゃ酔ってるんやな・・・・」

どう見てもこれは、酔い潰れているのだろう。
普段、家で呑むとしても、缶を2本飲めば良いところである。
別に酒に弱いわけではないのだが、家では喉を潤す程度に嗜むくらいで丁度良いのだと以前言っていた。

しかしこのままここに寝かせていくわけにはいかないだろう。
少し強めに揺すって起こし、とにかくベッドまで自分で歩いてもらわなければ困る。

「柔造!柔造!こないな所で寝とったら体しんどなる!起きて!」

「ん・・・・」

「柔造!ベッド行こう。な、柔造」

「んん・・・・」

ほんの少し目が開いたので、覗き込んでみる。

「柔造」

「ぼ・・・・ん・・・・」

「ベッド行こう?こないな所で寝とったらアカン」

「ん・・・・」

「飲みすぎやで・・・ホンマ。立てるか?」

なんとか柔造の肩を俺の肩で掬って、立たせ、ふらふらとする足取りで柔造の部屋まで運ぶ。
ベッドにどさりと柔造を落としてしまったが、酔い潰れてる柔造は特に何の反応も無かった。

部屋のクーラーを付けて、取りあえず寝かせて、話はまた明日にすれば良いかと部屋を出ようとすれば、何やら柔造が呟きだした。

「しゃぁないんです・・・」

「?柔造?」

「ヤキモチばっかり膨らんでしもて・・・」

「?何?」

独り言なのか、俺に話しかけてるのか良く分からないけれど、俺に何か言いたい事がありそうなのは確かな気がして、寝ている柔造の元に歩み寄った。

「誰かに取られる思たら、こわぁて、こわぁてしゃぁないんです・・・・」

「取られるて」

「俺の居らんとこで坊が誰かに取られてしもたら・・・って思うと、もう、どないしたらええんかわからんのです・・・」

「俺の事欲しがるヤツなんか柔造くらいやと思うで?俺なんかそないにええもんとちゃう」

「坊は何も分かってへん。分かってへんから誰にでもそうやって付いて行って、誰にでも優しさ振り撒いて、人を虜にしていくんや・・・」

「なんやそれ。ちょぉ妄想しすぎとちゃうか?」

「現にこうやって取られてしもたやないですか。こんな日に坊は俺の所にはおらへん・・・」

俺はここには居らんって・・・・夢の中で会話してる感じなんやろか?柔造は。
寝ながらでもここまで会話できるもんなんか。

「折角色々、ずっとずっと考えとって、ちゃんと有給も取っとったのに、ここにはおらへんで、アイツらに取られてしもて・・・」

「取られたとかそんなんちゃう・・・ちょぉ、頭に血が上っとって自分の誕生日忘れてただけや」

「取られた・・・・アイツらに取られた・・・・俺の坊やのに・・・」

今度はうわ言の様に呟きだした。完全に夢の中って感じやな。

「ホンマ、この酔っ払い・・・・」

取られた取られたって、子供の玩具やないんやから。
大体俺かて、柔造と同じように柔造の事好きやのに、丸でこんなの信じてもらってないみたいだ。
柔造の事で頭の中はいっぱいなのに、誰彼構わず好きになるとでも思ってるのだろうか。
だから俺が奥村兄弟のところに遊びに行くのも不安で仕方ないのか。

「もっとちゃんと俺の事信用せぇ・・・アホ・・・」

いつもと違うまるで駄々っ子のような柔造がなんだか珍しくて、そっとその髪を撫でてみる。
意外に猫っ毛でふわりとした感触。
立場が逆転したようなシチュエーションで、なんだか擽ったかった。

「俺もちゃんと柔造のことが一っちゃん好きなんやから、安心せぇや」

そうふわりふわりと、頭を撫でながら静かに囁いた。

時計を見ればもう1時半は過ぎようとしている。
そこで、不図思い立つ。
どうせここまで酔っ払って、全部夢だと思うのならば、少しくらい良い夢に変えても良いだろうか?
日付が変わる頃に一緒に居れなかった償いとして。
自分で約束をしておきながら、果たせなくて、申し訳なくて、ズルイかもしれないけれど、ほんの少し自分の罪悪感も埋めるために。

ベッドサイドに置いてあった時計を手に取り、その針を逆さに回していく。

まだ今日は始まってない時間。
昨日の23時58分。

「なぁ、柔造見て」

時計を柔造の目線に持っていって、視界に入れる。

「ん・・・・」

「まだ今日は終ってないで?まだ後ちょっと残ってる」

「ホンマ・・・や・・・・」

「後ちょっとで明日になるんや。なぁ、起きて、柔造」

「ぼ・・・ん・・・」

「一番に祝ってくれるんやろ?」

「は・・・い・・・」

「なぁ、ほら、もう明日になるで?」

「ぼん・・・・」

「12時丁度や」

「ぼん・・・・おたんじょうび・・・おめでとうございます・・・」

「おん・・おおきに」

「坊・・・好き・・・です・・・」

「おん。俺も好きや」

そう言って、俺は柔造の唇に唇を寄せた。


「酒クサ・・・・」


それで安心したのか、柔造はスースーと寝入ってしまった。

ベッドを整えて、取りあえずシャワ−だけでも浴びてこよう。
それから、後で柔造の横に潜り込んで一緒に寝よう。

これだけ飲んでるから明日の朝起きてくるのかどうか心配だが、有給を取ってるとさっき言ってよな?
じゃぁ、ゆっくり寝かせてやれば良いか。


「ごめんな、柔造。それから・・・おおきに」


もう一度だけ柔造の頭を撫でて、時計の時間も戻して俺は部屋を出た。




********


≪柔造side≫



朝目覚めたら、酷く喉が渇いていた。
起き上がろうとしたら、頭が割れそうなほどの頭痛に襲われる。

「っ・・・ったぁ・・・」

寝ながらズキズキと痛む頭を押さえ、昨夜の事を思い出す。
仕事から帰っても部屋は暗く、坊の姿は無かった。

もしかしてと淡い期待を抱いて帰宅したのだけれど、そんな淡い期待もすぐに崩れ、絶望感に苛まれた。

そのまま再び家を出て、大量に酒を買い込んだ。
それから、ひたすら呑んで、呑んで、呑んで、呑んで・・・・。

記憶も、寂しさも、何もかも吹き飛んでしまえば良いと呑み続けた。

それからの記憶がない。

何時、ベッドまで来たのだろうか?
自分で歩いてくると言う意識があったのかと、自分で自分を褒めたくなる。

はぁ、と溜息を付いて、起きる気力なんか無くて、もう一眠りしようと寝返りをしようとしたら・・・・


「え?ぼ・・・ん????」

横を向けばすやすやと眠る坊が居た。


「え?なん・・・で・・・?」

「ん・・・」

「なんで坊がここに・・・?」

「ん・・・はよ・・・」

「お・・・はようございます・・・」

「酒クサ・・・・呑み過ぎや・・・」

「え?!あ・・・えっと・・・」

「ここまで運ぶの重かったし」

「え・・坊が?」

「あんなところで酔い潰れとったら、朝起きたらしんどいやろ」

「あんなところ・・・・?」

「・・・そんなん、もうええ」

「はい?」

すると坊が俺の胸元にすりすりと擦り寄って、ぎゅうと抱き付かれる。

「坊?」

「堪忍な」

「はい?」

「この間も、昨夜も悪かった」

「坊?」

「俺は柔造の事が一番好きやし、何処にも行くつもりなんかも無いし、誰かに取られるつもりもないから・・・」

「坊・・・」

「もっと信用してくれや」

それから、更にぎゅっと坊は俺の胸に頭を押し付けた。
一体何時から坊はここで眠っていたのだろう。
昨日の記憶なんて酒のせいで全部吹き飛んでしまっているけれど、断片的に引っかかる何かを思い出す。

そう言えば、なんとなく坊と会話をしたような気がする。
しかもくだらなくぐちぐちと、普段なら坊になど絶対に言わないことを言ったような気がする。


そして、日付が変わって・・・・、それから・・・・誕生日だからって・・・


「あれ・・・?」

「なん?」

「誕生日・・・」

「おん」

「お祝い・・・」

「昨日ちゃんと聞いたで?」

「え・・・?」

「ちゃんと一番最初に聞いたから」

「あれ・・・・?そう・・・でしたっけ?」

「せや」

「あれ・・・?」

「今日休みなんやろ?」

「え?あ、はい」

「なぁ。せやったら、もうちょっと、こんまま寝よ?」

「坊?」

「今日はずっとくっついてたい」

「は・・・い・・・」

また、ぎゅっと俺の体を抱き締めてきたので、俺もその体をぐっと抱き締め返した。
そう言えば、久しくこうやって抱き締めては居なかった。
俺のくだらないヤキモチで坊を怒らせてしまったから。
久しぶりに坊の香りを吸い込んだ気がする。
抱き締めて、頭を撫でて、漸く落ち着いた。


昨日見た夢はどこまでが現実で、どこまでが夢だったのだろうか。

おぼろげに残る記憶は随分と痴態を晒していたような気がする。

けれど、今こうやって坊が傍に居て、こんなにも安心して眠っているのなら、別に気にしなくても良いのだろうか?と都合の良い解釈をしてしまう。

「坊・・・・」

「ん?」

「好きです・・・」

「ん・・・知ってる・・・」

「坊・・・」

「うん・・・」

「愛してます」

「・・・俺もや」


それからまどろむように二人して抱き合いながら、再び眠りに付いた。


当初の予定とは違う坊の誕生日だったけれど、この日1日互いにとても幸せだった。





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