パロ
ずっといっしょ 番外編 勝呂誕生日1(柔勝)
※連載しているものから約1年後、一緒に暮らしだして2回目の坊のお誕生日のお話です。
その日珍しく、柔造と言い合いになった。
切欠は些細なこと。
「最近奥村兄弟と遊びすぎやないですか?」
「え?」
今日もあの兄弟と会って、勉強していたことを夕食を取りながら柔造に話していたところだった。
夏休みに入ってから、燐の勉強を見てやるために、昼間は良く3人で集まっていたのだ。
まぁ、毎回が勉強ではなく、たまに映画を見に行ったり、何処かに出かけたりと、とにかくこの夏は3人で遊ぶことが多かった。
「別に遊んでばっかりやないで?ちゃんと勉強してるんやし」
「いや、せやなくてですね・・・・ちょっと会い過ぎなんちゃうかと思いまして」
「なんで?学校行ってる時は毎日会うてるやん」
「そうですけど、休みの日にそないに頻繁に会うのとはちょっと違うやないですか」
「友達やったら別にしょっちゅう会ってもおかしい事とちゃうやろ?」
「そうですけど・・・・せやけどですね・・・」
「そりゃ、柔造がアイツらの事そないに好きなんちゃうのは知ってるけどやな。俺にとってはええ友達なんやから、遊びに行くのは普通の事やろ?」
「まぁ・・・そうかも知れませんけど」
返ってくる返事はなんだか煮えきれない、もやもやとする様な答え方。
大体、前々から気になっていたのだが奥村兄弟の何がいけないと言うのだろうか?
兄、燐は少し頭が足りないが、それでも意外な所に良く気の付く良い奴。
弟、雪男は頭も良く、品行方正。非の打ち所が無いような出来た人物なのだ。
別に友人として付き合ったからと言って、世間的に困るようなことは何一つない。
ただ柔造とのフィーリングが合わないだけで、それを押し付けられても困るのだ。
俺にとってアイツらは頼りになるし、無くてはならない信頼すべき友人。
いくら柔造だからと言って、俺の交友関係にまで口を出すのはどうかと思う。
「アイツらと一緒に居ったらアカン理由でもあるんか?」
「坊は・・・その・・・余りにも無防備すぎますから、何かあったらと思うと・・・」
「何かってなんやねん。アイツらが俺になんか悪さするとでも思ってんのか?」
「悪さっちゅうか・・・まぁ・・・・」
「なんやねんな?!ただ柔造がアイツら嫌なだけやからやろ?友達付き合いにまで口出してくるのはどうかと思うで?」
「それは、分かってますけど、せやけど・・・」
なんだかイライラする。
柔造には珍しくハッキリしない物言い。
そんな言い方やから余計に要点を得なくて腹が立ってくる。
なんで柔造はたまにアイツらとの付き合いに口を出してくるんやろ?
アイツらの何がアカンねん?
そんなところで柔造の好みを押し付けられても困る。
正当な理由も無く、なんとなく会って欲しくないとかそんなんアイツらに対する、唯の嫌がらせにしか見えへん。
柔造のこの態度に俺も珍しく、かなり腹を立てた。
友達を悪く言われるのは好きじゃない。
「もうええわ。ごっそさん」
俺は箸を置いて席を立つと、食器を手早く片付け、自室に籠もった。
なんだかイライラした。
***
それから数日。
自分にしては珍しく、先日の柔造の意見が心に蟠りを残し、気まずい雰囲気で数日を過ごしていた。
そんなある日、雪男からメールが届いた。
『今度良かったら泊まりにおいでよ』
そんな感じのメール。
数日、気まずい雰囲気で過ごしていたものだから、この場を少し逃げるのも良いとそのメールにOKの返事を送った。
1日くらい友人の家に泊まったところで、何も悪いことではないだろう?
ほんの少しだけ、奥村兄弟を毛嫌いする柔造への中てつけだった。
だから、
「明日ちょっと泊まりに行ってくる」
「・・・明日・・・ですか?」
「明日」
「・・・・奥村兄弟の所ですか?」
「せや」
「・・・・・明日って・・・・何日か知ってはります?」
「?19やろ?何?」
「・・・知ってはってその日なわけですね。・・・分かりました」
柔造はまた行くなと止めてくるんちゃうかと思ったけれど、すんなりとOKを出してきた。
せやけど、やっぱり本心は嫌なんやろ。
そのまま席を立ち、
「すんません・・・今日はもう休ませてもらいます」
そう言って、自分の部屋へと入って行った。
俺はその時、柔造に対する蟠りと、この気まずい雰囲気から逃れたい気持ちと、ほんの少しの柔造への中てつけと、奥村兄弟がそんなに悪いヤツやないと言うことを誇示したい思いがいっぱいで、その次の日が何の日かなんて頭からすっぽりと抜け落ちていた。
****
奥村兄弟の家に泊まり、日中は燐の夏休みの宿題を全て終らせるためのスパルタ教育。
夜は、燐の作った飯を頂きながら、それなりに3人で話をしたり、ゲームをしたりと楽しんだ。
風呂も借りて、そろそろ時間も遅くなったころ、頻繁に二人から、
「今日はまだ寝ちゃ駄目だよ」
と、言われる。
大体俺は朝が早いので、どうも22時を回ると眠たくなってきてしまうのだ。
二人は俺が寝ないように、なんだかんだと話題を振っては話を膨らます。
そして、眠たい目を何度か擦りながら、時間が過ぎていき、日付が変わった瞬間。
「「お誕生日おめでとう!!」」
と二人から声をあわせ告げられ、パン!!と何時の間にやら用意していたであろうクラッカーが乾いた音を弾かせて、色とりどりのテープが回りに飛び散った。
「・・・・た・・・んじょうび?」
「おう!勝呂今日誕生日だろ?おめでとう!!」
「え・・・あ、おおきに」
「竜士、お誕生日おめでとう」
そう言って、雪男がにこりと笑って俺を見詰めてくる。
「おおきに」
誕生日・・・・すっかり忘れとった・・・・。
今日は俺の誕生日やったんや。
携帯を開いてみれば、何通ものメールが受信されていた。
全て京都に居る身内からのお祝いメール。
廉造や金造のももちろん届いてる。
そこで昨日の柔造との会話を思い出した。
『・・・・・明日って・・・・何日か知ってはります?』
そう聞いてきた柔造。
俺は何も考えずに、
『?19やろ?何?』
と答えた。
ホントに何も気が付いてなかった。
『・・・知ってはってその日なわけですね。・・・分かりました』
俺が次の日が自分の誕生日だと知っていて、敢えてその日を選んだ、と思ったのだろう。
そうではなく、たまたま・・・いや、雪男達は俺の誕生日を知っていて、俺を祝ってくれるためにこの日を選んで誘ってきたのか。
俺は本当にここ数日は柔造と奥村兄弟の事で色々考えていたから、誕生日の事など全く忘れていたのに。
(どうしよう・・・)
きっと柔造は怒ってる。いや、悲しんでるかもしれない。
昨年・・・約束したのに。
昨年の俺の誕生日。
二人きりで初めて迎えた誕生日。
日付が変わったと同時に、柔造にキスをされた。
ふわりと唇を掠める、柔らかな感触。
それからきゅっと抱き締められて、耳元で、
『お誕生日おめでとうございます』
と、静かに低く囁かれた。
そんなシチュエーションに俺は酷くドキドキしたのを覚えている。
『やっとこうやって、二人きりで・・・俺が一番に坊の誕生日を祝えるやなんて、夢のようです』
抱き締めながら、柔造は優しく俺の耳に語り掛ける。
『こんな日が訪れるやなんて思ってもみなかった。愛する人が産まれてきた事を、誰よりも一番に祝えるなんて』
『大げさやなぁ』
『大げさなんかやないです。坊は俺の全てですから。俺を幸せにしてくれる宝物が、この世に現れた日なんですから』
『そんなん言われたらくすぐったいわ』
『そうですか?』
『せや』
くすくすと、彼の腕の中で笑いながら、その台詞を受け入れた。
『来年も、再来年も、その次の年も、こうやって、また坊の誕生日を祝えたら幸せです』
『せやったら、約束やで。また来年も、柔造が一番に祝てな?』
『当たり前やないですか』
『絶対やで?』
『約束します』
『おおきに』
―――――――約束したのに。
破ったのは俺。
自分で頼んでおいて、俺が自分でその約束を破った。
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