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パロ
ずっといっしょ 番外編 七夕(柔勝)


※パロ本編の浮気事件(?)が終わった直後のお話です。






その日、俺の帰る時間と柔造の帰る時間がたまたま一緒ぐらいの時間になったので、二人で待ち合わせをして、買い物をして帰る事にした。
大通りで落ち合い、家の近くのスーパーまで他愛のない話をしながら歩く。
スーパーに着いたならば、

「今日は何が食べたいですか?」

と聞かれながら、柔造が買い物カゴを持ち、店内を二人でアレが美味そうかも、これが良いかもなんてまた何気ない会話をしながら、夕飯の食材を買った。

夏とは言え、ビシッとしたスーツ姿の柔造が買い物カゴを持って、肉やら野菜やら買い込んでいる姿は、なんだか不思議な光景な様な気もするが、これが彼の日常なのだ。

そう言えば、こうやって一緒に食材を買いに来たのは初めてかも知れない。

彼のこんな姿もまた魅力的だな、とぼんやり見詰めていると、商品を手に取り、顔を上げた柔造と目が合う。
すると、にこりと微笑み、

「坊は、これ好きですか?」

と、また彼のスーツ姿には不釣合いな漬物を持って聞いてくるものだから、俺も思わずくすりと微笑み、

「おん。好きやで」

と返事を返した。

こんな何気ない会話が、ただひたすらに心を擽るのは、何事も無い平穏な日常が一番幸せだと知ったからかも知れない。





買い物を一通り済ませ、店を出ようとすれば、目に付いたのは色とりどりの紙で飾り付けられた、大きな笹だった。

それを目にした事に気が付いたのか、柔造が、

「ああ、今日は七夕ですねぇ」

と言った。

ああ、そうか。七夕か。
小さい頃はよく皆で旅館の入り口や、寺に飾り付け、願い事を書いたものだ。
そんな風習をしなくなったのは、願い事を書くのが恥ずかしくなった中学生くらいになった頃からだろうか。
何時からこのイベントに無頓着になったのかなんて、はっきりとは思い出せないが。

柔造はそのまま笹の元に歩み寄っていくと、ぴらっと何枚かの短冊を目で読んでいった。

「あはは。なんやかいらしい願い事がようさん書いてありますわ。昔の坊を思い出しますね」

そう言って、にこりと微笑む。

「昔のって・・・・」

「『ずっとみんなでいられますように』ってよう書いてはりましたよね」

「なんでそんなん一々覚えてるんや。俺ですら覚えてへんのに」

「そりゃ、坊の事ですから」

「・・・・そうか・・・」

そうやってやはりにこりと微笑む柔造。
ホンマに昔から俺の事見とったんやな、なんて、こんな些細な事で気が付かされる。

「せや!ねぇ、坊、なんや書いていいように短冊置いてありますし、書いてみません?」

「え・・・今?」

「今書かんで、いつ書くんですか」

こんなこと少し恥ずかしいだろうと躊躇していると、柔造は笹の側にあったテーブルに置いてある紙と鉛筆を取ると、さらさらと字を書き出す。

「はい。俺の願い事はコレです」


――――――『いつまでも坊が楽しく元気に過ごせますように』


「自分の事書かへんの?」

「自分の事より、こっちの方が大事ですよって」

「そうか・・・」

「ええ」

久しぶりに童心にでも返ったのか嬉しそうに、笹に短冊を結び付けた。

「坊も書きはります?」

そう言いながら鉛筆を俺に渡してくるから、まぁ、ちょっと恥ずかしいけれど、折角なのだから俺も書くことにした。

「ほんなら俺はこうな」


――――――『いつまでも柔造が楽しく元気に過ごせますように』


「・・・・・坊・・・」

「柔造が自分の事書かへんねやったら、俺が書いとかなアカンやろ」

書いてはみたけれど、やはり気恥ずかしいので、そそくさと短冊を笹に結び付け、

「はよ帰ろ。買ったもんぬくなる」

と、出口へと向かった。

「坊」

「なに?」

「ありがとございます。でも、俺は今でも元気で十分楽しいです」

「・・・ずっと・・・やないとアカンねんで?」

「坊と一緒に居ったらずっと元気で楽しいです」

俺を見れば、またにこりと微笑む。

「俺と居らんかったら楽しくない人生なんてアカンやん」

「坊が居らん人生なんて、ただの消し炭です」

「せやったら、もしこの七夕の彦星とかみたいに1年に1度しか会われへんかったらどうすんねん?ずっと元気ないまんまか?」

「そんな事はありません」

「せやったらええけど」

帰り道を歩きながら、だんだんと暗くなってきた空を見詰めそんな話をする。

「俺が坊と年に1度だけしか会えないことなんて、絶対にありえませんから」

「え?そう言うことなんか?」

俺が思っていたのと違う答えが返ってきた。
『そんな事が無い』と言うのは、1年に1度しか会わない事など無いと言うことか。
1年に1度しか会えなくても、元気に過ごせると言うことではないらしい。

「せやから、元気で楽しい日々が送れます」

「やって、もしも俺が高校卒業して、大学とかめっちゃ遠くに行ったらどうするん?」

「付いて行きます」

「今の仕事辞めなアカンほど遠い所やで?」

「辞めて付いて行きますよ?」

「そんなんアカンやろ?」

「坊が居ない方が辛いですし、日々の生活が成り立ちませんし、仕事行く気にもなれません。せやったら、坊の側で、どんな仕事でも良いから働く方がずっといい」

「ほんならもし柔造が今の仕事でめっちゃ遠くに飛ばされそうになったら?」

「辞めます」

「・・・・それもアカンやろ」

「職さえ選ばなければ、十分な収入が得られる仕事なんかたくさんありますから」

「あのなぁ・・・」

「あきませんか?」

「アカンと思うで」

「せやけど、気力も無くて仕事も捗らへんかったらそれもアカンと思いますよ?」

「・・・・そうかも知れんけど」

「せやけど、坊がどうしても来て欲しくないとか、言うんやったら無理には付いていきませんから安心してくださいね」

「ほんなら年1回でも大丈夫なんとちゃうん」

「いえ。そうなったら、もうきっぱりすっぱり坊の事は忘れますから」

「・・・・・極端やな」

「年に1度くらいしか会われへんのやったら、待ってる間に気が狂いますから」

そんな答えに俺ははぁ、と大きく溜息を吐いた。

「柔造の答えはすっこい」

「そうですか?」

「せや。俺に選択の余地がないやん」

「でも事実ですから」

「あのなぁ・・・」

「俺から坊を取ったらただの抜け殻です」

そう言うと、今度は空を見上げ、まだ完全に黒くはない空に浮かぶ星を見つけ、じっと見詰める。
すると、柔造は急に手の指を組んで、祈るようなポーズを取り、目を閉じて口を開いた。

「いくら坊の事が好きでも、彦星と違って俺はちゃんと仕事してますから・・・・。めっちゃ一緒に居たいの我慢してちゃぁんと毎日仕事してますから・・・どうか坊と引き離さんで下さい」

そんな柔造の姿をぽかんと見詰めていれば、目を開けた柔造と目が合った。

「これが俺の本当の願いです」

またにこりと微笑む。

「・・・せやったら俺かて・・・・」

先程柔造がしたのと同じポーズを取って、空を見上げ目を閉じる。

「俺かて・・・・もっと柔造の側に居たいけど、ちゃんと頑張って勉強してるから・・・・せやから・・・・せやから、ずっと柔造と一緒にいさせて下さいっ・・・!!」

すると目を開ける前に組んだ手をぐっと握られ引っ張られた。
それから目を開けるやいなやぐいぐいと、帰り道を足早に進まされていく。

「え?!ちょ!!柔造???」

「はよ帰りましょ!」

「は?!なんで?!」

「今めっちゃ坊の事、抱き締めたいです!」

「は?え???」

「坊の方がすっこいですわ!」

「何?」

「そんなんばっかり言うから、もっと好きになってしまうんです!」

「は?!」

そのままずっと引っ張られるように歩かされ、家に着いて扉を開けて玄関に入った途端に、ぎゅうと抱きしめられた。

耳元で囁くように一言、

「めっちゃ好きです」

と言われたので、

「・・・俺も・・・めっちゃ好き・・・」

と囁き返し、いつもの様にキスを交わした。


柔造にはあんな風に言い返したけれど、結局は俺も柔造が居なければきっと、ただの抜け殻になってしまうのかも知れない。


だから、ずっとずっと、このまま・・・・一緒に楽しく元気に過ごせたら良い。



そんな七夕の夜のお話。












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